女房様とお呼びっ!
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2002年06月10日(月) M魚図鑑 〜ヅラ露出 1〜

彼は、掛け値なしにイイ男である。ナイスミドルを具現するとこうなるだろうってな位に。まず、見た目がイイ。人好きのする程度に男前。無駄のない肉付き。雰囲気もイイ。カウンターで独りグラスを傾ける様には見惚れてしまう。声もイイ。一度、洋モンの唄を歌うのを聴いたことがある。女の腰を砕く色気に圧倒された。

間違いなく彼は、女にモテるだろう。そして、彼も上手に女を捌けるはずだ。いや、日常にあれば、道ならぬ恋の一つや二つ、女に恵んでるんじゃないカナ?少なくとも、過去にはそういう事もあったろう、その日までは。そう、その日彼を襲った事故が、フツーのモテ男の運命を変えた。図らずも、禁断の扉が開いてしまった。

彼が踏み込んでしまった禁断を聞くだに、私は泣けた。っても、笑い過ぎたせいで(笑。その哀れな告白には、誰もが抱腹絶倒するだろう。保証する。ちなみに、彼と初めて遭ったのは、私が行きつけにしてたSMバー、つまりM魚ばかりが集う場。だから、言うまでもなく、彼はM魚である。彼は露出の癖を持つ。それも奇妙な。

・・・・・。

告白の幕開きは突然だった。まさに虚を突かれる感じ。カウンターの隅で物慣れた風に酒を飲む彼を見遣ったその一瞬、三つ揃いにふさわしいダンディーな面影が崩れた。その光景に、私は文字通り息を飲んだ。が、目を疑うべくもない絶妙な間合いで、ソレは晒されたのだ。黒髪が後ろへずれて、露わになった半端な禿頭(!)

当然の如く、私は反射的に噴き出してしまったけど、それはつまり、彼の狙い通りってことだ。ヤラレタッと後悔したものの、腹の痙攣は治まらず。見れば、当の本人は黒髪を元の位置に戻し、何事もなかったかのように酒を飲む。その様に、また腹が攣る。無限地獄だ。ドウニカシテクレ。一頻り、抗議も出来ずに笑い転げた。

ようよう息を整えて、声を掛ける。「スゴイ技だね」「いえ、笑ってもらえて嬉しかったです」笑顔で答える彼は、白い歯がこぼれて、一層イイ男だ。うーん。「無視されたりしたら、マジ凹みますもん」笑って正解?「えぇ、凄く感じました…」衒いなくはにかむ表情が、これまたイイ。「見られて、思い切り笑われたいんデス」

・・・・・。

彼のハゲ歴は長い。十代からハゲ始め、相当深刻に悩んだそうだ。彼程に器量が良ければ、尚更だろう。やがて、カツラをつけることを決意する。それは同時に、誰にも明かせない秘密を抱える決意でもあった。実際、身近な妻にさえ、生頭を見せてないと言う。「知ってはいるんですけどネ」すまなそうに、彼は言葉を継いだ。

賢明な彼の妻は、敢えて彼の禿頭を見たがらない。「助かってます」照れたように微笑む彼は、愛妻家だ。言葉の端々に、家族への深い愛情がにじむ。ナリを見れば、仕事も順調なのだろう。どこから見ても、彼は理想的な壮年男性だ。本人だって、そう思ってるんじゃないかな。それで一層、ヅラがバレるのを怖れたのかもね。

ところが、その秘密はある日露見する。見知らぬ相手ではあったものの、誰にも晒したことのない禿頭を見られてしまったのだ。死にたい程の羞恥に身がすくみ、絶望的に混乱する。そこへ、目撃した女の容赦ない笑い声が襲いかかる。と、その途端。電流の様な衝撃が躰を走り抜け、彼は、エクスタシーに達してしまったのだ。

・・・・・。

何度も披露しているネタらしく、軽妙なジェスチャーを交えて、彼はその成り行きを語った。「で、目覚めちゃったんですヨ」悪戯っぽく笑いながら、スーツの下に仕込んだレースの下着をちらつかせる。あぁ、そっちへ行っちゃったの?「あ、これはオマケみたいなもんで…」やはり、彼が見られたいのは、ヅラの下の頭らしい(笑


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