女房様とお呼びっ!
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2002年03月18日(月) 赤い蝋燭とM魚 #2

次の展開に怯えながらも、彼の期待は端からそこにあったのだ。剃毛済の股間。
近所のヨーカ堂で、主婦に混じって購入した、安っぽいレースのショーツが包む。
プレイが始まってから二時間あまり。しかし、私は一度もそこに手を触れてない。
ストッキングに覆われた尻を撫で回し、爪を突き立て、薄い布を引き裂きつつも。

彼の上半身を、梁から吊った手首の縄に委ねたまま、尻をシートの床につかせる。
だぶつく腹の肉に指をめりこませ、埋もれたストッキングのウエストを鋏で断つ。
僅かに腹に当たった金属の冷たさに、彼は身を固くし、また一層性臭が強くなる。
既に彼は言葉を失い、かちかちと軋む歯の音と哀れな喉笛だけで、意志を伝える。

けれど、やめない。やめるはずがない。手にした鋏は、更なる獲物を求めて進む。
彼の腰に張り付いた安物の木綿に指をくぐらせる。その奥で小さく縮こまる陰茎。
その隙間に、一気に鋏を入れる。乾いた無機質な音は、彼の絶望を招いたろうか。
やがて、だらしなく開いた脚の間から、無毛の鼠蹊部としなだれた陰茎が現れる。

・・・・・。

彼のお喋りの主な話題は、まさに、この萎えた陰茎のことだ。役立たずのちんこ。
いつまで使えていたか、いつからダメになったか、何度も聞いたが、何度も喋る。
いい歳して、若い女のケツ追い回して、けれどヤレナイ。笑いながら、彼は嘆く。
痛々しい告白は、毎度繰り返される。「有り難いことにモテませんけど」彼は嘲う。

本当はフツーに女とヤリたいんだと、彼は言いたげだ。それが、SMに走る言い訳。
救いを求めて、SMクラブに詣でる。30代でEDになった彼の遍歴は、十年を余った。
けれど、いつだって、彼は不満だ。「みんな、甘いんですよね」自嘲だか愚痴だか。
許しを請うても、決して許さないでくれ。贅沢な希望の果てに、彼の満足はある。

だから私は、彼を許すワケにいかない。許さず、追い込み、ダメにしてやりたい。
彼の嘆きを煽りと知りながら、真っ向から受けて、そのまま返してやろうと企む。
役立たずと嘆く陰茎を、完膚無きまで貶めて、その無力さを思い知らせるのだ。
言い訳の杖を奪い、愛想笑いを封じ、頼りない足許を払い、馬乗りになってやる。

・・・・・。

私は、ようやく、その柔らかな肉の塊を鷲掴む。彼の目に懇願と諦めの色が灯る。
ごくりと息を飲む彼の気配が、私の腹底をギュウと締め付け、そこに血がたぎる。
無言のままに、蝋燭を手にする。溢れんばかりに融けだした蝋が、赤々と揺らぐ。
握り込んだ肉塊をしごき降ろし、しなびた亀頭を剥き出しにして、それは始まる。

再び彼と目を合わし、微笑みを送る。覚悟する彼の目が、更に大きく見開かれる。
視線を外すことなく、熱い蝋を手許に注ぐ。鼓膜を突き破るような絶叫が弾ける。
握りしめた左の拳が赤く染まり、柔らかな肉塊ごと、蝋の皮膜に覆われていく。
その一本が尽きると、次の一本。間断なく注がれる蝋液。膨れ上がる真っ赤な繭。

やがて、陰茎だけを責めるのに飽きた私は、彼の太股を跨いで、仁王立ちになる。
見下ろせば、叫び続ける彼の目は既に虚ろになり、焦点を失って彷徨ったままだ。
その風情に、私は陶然となり、全ての蝋燭を傾げて、満遍なく蝋の雨を降らせる。
彼の陰茎が、腹が、胸が、赤々と蝋滴で覆われていく。全てが同じ肉の塊となる。

・・・・・。

そして、遂にその時が来る。自らにとどめを刺すように、彼が金切り声でがなる。
「もう嫌ぁ、ホント嫌ぁ・・・でも、こんなんじゃなきゃ、ボク、ダメなんでしょ?」
「許してって言っても、許してくれないんでしょッ?ダメにしたいんでしょッ?」
「どうせ、ボクはヘンタイなのよぅ…。こんなんが好きな、ヘンタイなのよぅ…」


私は、幼子をなだめるように、ソウネソウネと相手しながら、蝋を落とし続ける。


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