女房様とお呼びっ!
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2002年02月08日(金) |
性癖と性愛と結婚について #5 |
そのM魚が明かす、彼の結婚の不幸な顛末に、私は唸ってしまった。
いや勿論、彼が自らを語るとき、それは、Sのパートナーを得んがための、即ち私に対するPRともなり、若干の脚色を帯びるのは承知している。自らの過去を不幸に誇張することで、私におもねる意図もあっただろう。このやり方は、なにも彼に限ったことじゃない。しかし、彼が自ら履いた下駄を差っ引いても、酷い話だった。
・・・・・。
彼は適度に男前で、人並み以上の収入を期待出来るエリートで、それなりの礼儀も心得た、好青年だった。一目見たとき、モテるだろうなと思った。実際、その印象のままに、彼はモテてきたらしい。女との交際は、いつも惚れられて始まり、幾度かプロポーズも受けたという。世間の相場では、結婚相手としても上等だものね。
その中のひとりと結婚をした。女が彼に惚れた程に、彼が女に惚れたかどうかはわからない。けれど、彼の性癖に関わる告白と希望を、彼女が受け入れた時点で、彼は結婚することに決めたと言う。「M癖を隠したままで結婚するのは避けたかった」と彼は回想するが、つまりは、M的な性行為を前提として結婚したかったのだろう。
彼の望み通りに、妻はS的な行為をしてくれて、セックスは首尾良く運んだ。やがて、妻は子を宿し、行為は絶えた。彼は段々と不足を覚え、行為を迫る。が、育児に疲れたと妻はこれに応じない。S側が応じなければ、M側の希望は叶わない。不満が募る日々が続く。そんなある日、また妻が要求に応じ始め、彼は行為を取り戻した。
しかし、夫婦の営みは、またも妊娠出産によって中断する。再びの状況を恨んだが、第二子の育児が一段落する時までお預けだと我慢した。・・・けれども、彼の望みは、二度と叶えられることはなかった。もう子は要らないと夫婦で結論してから、その結論はつまり、妻にとっては、もう性行為はしないという意味でもあったのだ。
・・・・・。
「結局、妻は、子種が欲しくてSをやってたんですね」と、彼は自嘲するように言った。「子が出来たら、ボクは用なしになったワケです」妻がS的行為をシテクレナクナッタ理由を、そう説明する。結局、彼の結婚は、まさに「性の不一致」で終わったのだが、子まで設けておいてもそうなるか・・・と、驚きを禁じ得なかった。
彼は言葉を継ぐ。「ボクは、妻と子のために家まで建てたんですよ。今だって、高い養育費を払ってるし…」恨みがましく言い募る彼の言葉に、同情しなくもないが、私の気持ちは暗く塞がっていく。疑いなく、何の為に結婚するかなんて、個々人の勝手だ。生殖を目指す結婚。性愛を満たす結婚。性欲を晴らす結婚。…勝手だけど。
鬱々と思いを巡らしながらも、つい言ってしまった。彼に。「随分身勝手な結婚をしてしまったものね?」「奥さんの気持ち、考えたことあった?ちゃんと聞いたことがあった?」イケナイ。詰問口調になってしまう。けれど、惚れた相手に慣れない性行為を求められ、応じてしまった彼女の心情に意識が向くのを止めようがなかった。
・・・・・。
彼らが離婚に至る心情の葛藤について、本当のところはわからない。しかし、私が彼と暫く関わってみて、やはり彼は、身勝手な性向だと理解した。だって、彼は、感情に支配されないロボットのようになりたいと望み続けたのだ。いきなりは無理ダと、何度説得しても譲らない。溜息吐きながら、見知らぬ彼の妻のことを思った。
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→ 「性癖と性愛と結婚について #4」
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