女房様とお呼びっ!
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2001年12月18日(火) 『オトーサン』な男たち #2

いつだかの年末。とある忘年会に伺った。炬燵を囲んで鍋をつつく、みたいな、こじんまりとした内々の宴席。男がひとり、女が4人。うちふたりの女は、男の「モノ」だ。私ともうひとりの女は、その女の友人。何とも妙な面子だが、親しい友達に強く請われたことと、その邸で行われる宴に興をそそられて、出席することにした。

男の住む邸はそこそこに大きくて、ホームバーを設えたサロンまであり、時にはそこで、パーティーが催される程だった。男はいつも、黒眼鏡の奥に表情を隠し、邸の、そして女達の主たる風情を湛え、泰然と振る舞っていた・・・それが、その日までの、男についての私の記憶。しかし、当日、男はいそいそと厨房に立っていた。

いや、普段は強面の彼だとて、世話ぜわと客人をもてなす楽しみもあるだろう。日常から屋内で黒眼鏡をしてるほうが、余程オカシイや。しかし、その立ち居振る舞いは、失礼ながら、子沢山のかあちゃんといった風情で面食らった。そして、男の従たる女達はふたりとも、幼子のように男の指図を待っては、よちよちと働いた。

彼女らの様子に、私は少なからず苛ついたものだ。ナンデ自分から動かないかな?正味のところ、彼女らは、公にあっては自ら事業を興し、私にあっては子を育て上げた、立派に自立したオトナなんだぜ?部下に采配を振るう時には、ちゃんと動いているだろ?彼女らの倍は働きながら、どうにも釈然としない。甘えてないかぁ?

・・・・・。

さて、膳の支度も整って、遅れてきたもう一人の友人も交えて、だんらんが始まる。炬燵の上に鍋。テレビのある居間。その対角に、部屋着でくつろぐ男。その両脇に彼の女たちが侍り、互いを競うように声高に喋る。男は絶えず柔らかく笑みながら、女達の皿の世話を焼く。そして、時折こちらにも気を遣ってくれる。のだが。

彼の気遣いは、次第に女たちに阻まれて、客人ふたりも「お気がねなく」と言い置いて、やがて女ふたりが男を独占してしまった。その光景は、久しぶりに家に居る父親に、幼い姉妹が先を争って甘えてかかってるようで、招かれた私達は、何とも言えない居心地の悪さに苦笑しながら、テレビを眺めつつ、飲み食いに専念する。

見ようによっちゃ、微笑ましい光景と言えなくもないが、情愛の外の私達には戸惑うばかりだ。ジャージに包まれた男の丸い腹。そこに縋り付かんばかりの女達。見ているだけで、照れてしまう(笑)彼らのだんらんを邪魔しないように、卓を挟んでふたりの宴となる。傍らでは、女たちの興奮がエスカレートして、賑やかしい。

・・・・・。

と、突然、女のひとりが大声で泣き始めた。私の友人のほうだ。ドシタノ?流石に彼女を見遣る。見れば、彼女の対面、もうひとりの女も涙ぐみ、今にも声を上げそうだ。ナンダナンダ?何が起こったのかと、男に目を移せば、どうだ。男はちっとも動じずに、女達を見守っている。この事態が起きても、女達から目を外さない。

女達は、男の両の膝を分け合うように縋り付き、男の暖かい視線を受けて、延々と泣きじゃくっていた。そして遂に、私の友人に至っては、そのまますぅすぅと寝息をたてて、眠ってしまった。もうひとりの女もやがて落ち着きを取り戻し、呆けたように煙草を吸う。そして男は、相変わらず静かに微笑んだまま、黙っていた。

・・・・・。

テレビの姦しい音声が耳に戻り、はっとする。目の前で湯気を立てる鍋。私の脇で、あどけない寝顔を見せる友達。ホームドラマのような光景。何事もなかったかのように、鍋の世話をする男。そこに、斯界の責め師の顔はない。彼もまた、『オトーサン』なのか。そして、ムスメ達は、『父親』に精一杯甘えようとしていたのか。


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