女房様とお呼びっ!
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2001年11月15日(木) 一枚の写真 #1

偶然出逢った何かに触発されて、脈絡なく激しい感動を覚えることがある。ふと目を上げて見てしまった、禍々しいほど赤く燃える夕焼けとか、不意に聞こえてきた音楽とか。何をかを伝えようと媒体に載る、絵や写真やテキストならば、尚更のこと。その場合、表現者の意図とずれたポイントに反応することもあるだろうね。

高校生の頃、ある写真を見た途端、号泣してしまったことがある。感受性の強い年頃だったせいだろうか?南米ペルーのチチカカ湖に雷が落ちる風景と、その周辺に住まう女達が色鮮やかな衣装を纏っているショット。特別に珍しい光景ではなかったはずだ。それまでに、テレビの紀行番組などで、何度か見たことはあったもの。

だから、それらに未知の衝撃を受けたのではない。訪れたこともない場所だから、、懐かしさに泪したワケでもない。何故、あれ程に心打たれたのか?咽せる程、声を上げて泣いてしまったのか?我ながらの反応に驚いてしまう。そして思う。もしかすると、前世のいつだかに、私は彼の地に居たのではないか?無意識の憧憬。

・・・・・。

今ここにある雑誌。スナイパーイブという。月刊SM総合誌の季刊増刊で、S女M男シーンに特化した内容。グラビアが秀逸だ。尤も、女が評価する写真は、男のズリネタとしては、イマイチなのかもしれないが(笑)読み物記事も、趣味の輩には堪らないラインナップ。先日記事した70才近い有名爺魚が紹介されたのも、当誌だ。

最新刊は、発刊2号。パラパラと頁を繰って、全体を眺める。イイネ。期待に背かぬ出来映えだ。今号も、古株のM魚が取材を受けたと聞き及んだので、そのコーナーにもざっと目を通す。背広姿の小さなカットが載っている。暫くお目に掛かってないが、元気そうで何よりだ。本文もきっと面白い筈。後でじっくり読もうっと。

頁を繰る指は、いよいよ巻末へ向かう・・・この手の雑誌は、巻頭グラビアもさりながら、巻末のソレの方が玄人受けするってか、私の趣味に合うのよね。レフをバリバリ浴びてポーズを取る女の子もイイけど、凝った照明でアーティスティックに撮影されたエロ写真は、何度見ても飽きないし、想像力をかき立てられて、淫らダワ。

・・・・・。

モノクロ頁をかっ飛ばし、グラビアの冒頭に辿り着くや、その構図がガツンと胸に来た。黒光りするエナメルのヒールのアップ。踵に装着された拍車が銀色に煌めく。しかし、その光彩のあちこちは紅い血に遮られ、猛々しい。鋭利に研がれた刃先が、男の肉を抉ったのだろう。ナンテそそる写真なんだ…!暫く、呆けてしまう。

その拍車の表紙は、次の展開を物語る。果たして、頁をめくると、やはりそこに「人間馬」が居た。先の古株M魚、その人だ。個人的な絡みはないものの、私も載せて貰った事がある。その時のスナップも残っている。他人が乗るのを間近でも見た。けれど、写真家が切り取った一瞬は、見事に彼の憧憬を出現させている。凄い。

彼の端正な顔が、目と口をくりぬいた全頭マスクに覆われて、一層の陰を醸す。ハミに割られた口元が痛々しい。観念したように伏せられた睫毛。肩に載る女の、ロングブーツに包まれた長い足が、彼の腰骨付近に無数の紅い筋を引く。あぶみに支えられ、踵の拍車を打ち付けたのだろう。後手に枷する男は、項垂れたままに。

7P立てのグラビア。フェティッシュなアプローチが続く。針で貫かれた乳首から一筋の鮮血が垂れる、胸部のアップ。その滴りを素手でまさぐり、更に腹になする女。その掌の皺に血が染み付き、赤く汚れている。素顔を曝さないように、男はずっと目を瞑っているが、しかし、彼の心の目は、血塗れの己に瞠目してるはずだ。

・・・・・。

そして、最終7頁目。私の目はそこに釘付けになり、心がカタカタと震え始めた。


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