女房様とお呼びっ!
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2001年07月23日(月) 手枷NG

その男に出会ったのは、SMテレクラを介してだ。かなり以前の話だけど。
M魚にしては軽快なお喋りをする、当たり障りのないタイプ。礼儀も悪くない。
随分と羽振りがいいらしくて、SMクラブで遊んだ経験をおもしろ可笑しく語る。
3人の女王様呼んで、オールナイトで何十万も使ったんだって。豪勢だねぇ(笑)

賑やかな話題は楽しいのだが、根本的に何を求めているかが伝わってこない。
遊ぶだけなら、キミ、クラブに行けばいいだろう?そんなじゃ、食指は動かんね。
大体、遊び慣れたM魚って「女王様印」の女を触媒にする自分本位が多いんだ。
私はそれにつき合う程お人好しじゃない。お生憎様。誰か、他の女を探しなよ。

すると、男の声の調子が少し変わる。威勢のいい自慢めいた響きが少し薄れて、
ある種のM魚に共通な、自らを嘲るような投げやりな調子でその告白が始まった。
「いえ、ボクね、SMプレイの経験は確かに多いと思うんですよ、金も使ったし。」
「ただね、ひとつだけNGがあって、それって手の動き封じられる事なんです。」

それを聞いて、私は正直吃驚した。ソンナコトガアッテイイノカ?とまで思った。
こいつは一体何をしてるんだ?何を求めてるんだ?・・・俄然、興味が沸いてくる。
それで会ってみることにした。そこそこ見栄のイイ、押し出しの強い感じの男だ。
社交的で行儀良い会話を操る。一切破綻しない。MとしてSに対面してるのにサ。

まるでMの魅力は感じなかったけれど、男の手枷NGの事情に依然興味が残る。
男の手を結わく仕掛けをあれこれ夢想して楽しんだ。我ながら悪趣味だわね(笑)
その後も時折連絡があったが、特に進展もなく。表で食事をする程度の付き合い。
その間に男は事業に失敗したらしく、財布も持たずに現れることもあったよ(笑)

・・・・・。

ある日、男が電話を寄越し、切羽詰まった感じで懇願した。アッテクダサイ・・・!
いきなりどうしたの?もう奢らないよと切り返すと、ナンデモシマスと言い募る。
なら、今欲しい鞭があるから買ってくれと言うと、自動的にカイマスカラと言う。
その勢いに気圧されて、男の我が儘につき合うことにした。鞭も欲しかったしさ。

待ち合わせの場所に、見違える程貧相な風の男が佇んでいた。何があったんだ?
挨拶程度に言葉を交わし、ショップへ急ぐ。男は黙って従う。雰囲気がヘンだぞ?
店へ着き、目当ての鞭を物色してると、落ち着かない様子で男が話しかけてきた。
「ボク、表で待ってていいですか?ここに居るのが恥ずかしいんです・・・」

その申し出にまたも私は驚いたが、取り敢えず肯く。逃げるのならそれもいいさ。
支払いをし表に出ると、果たして男は待っていた。路上で約束通り金を受け取る。
どうする?と訊くと、ソレデウッテホシイと言う。何を血迷ったこと言ってるの?
買った鞭は「丸皮九尾」しかも新品。無理だ。ひと振りで皮膚が裂けるぞ、キミ?

結局、最寄りのラブホに入り、私は鞭を取った。軽くふた振りで男は崩れ落ちた。
そして、そのまま突っ伏して泣いた。股の間で、金玉が頼りなげに揺れていた。
男がかつて金に飽かせて女を買い、SMな非日常を味わってたのは事実だろう。
けれど、いつも乾いたまま、癒されない自分に開き直った。そうじゃないかい?

鞭以外は何もせず、再び服を着るよう促した。男はのろのろとそれに従った。
ビールが飲みたいと男が言い、テーブルセットに向き合って、缶ビールを空けた。
暫くの沈黙が続き、男に落ち着きが戻る。アリガトウゴザイマシタと礼を言う。
その様子が尚辛そうで、私は悪戯に、男の手首を両手で掴む仕草をしてみせた。

けれど・・・アア、ヤッパリゴメンナサイとそれを退け、男は薄く笑った。


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