女房様とお呼びっ!
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2001年07月07日(土) 「犬」と「女房」とセックスレス #3

『 モウサワラナイデクダサイ・・・! 』

その言葉は、たちまち私に呪文をかけた。モウケシテサワッチャイケナイ・・・
それは、腹がたって意地になるとか、意志をもって決断するとかじゃなくって、
心が麻痺して、自分を失った状態で、自動的にそうなってしまった感じだった。
催眠術にかかった人が甘い菓子を苦いと思い込むように、私の意識は変調した。

とにかく、彼の皮膚に触れるのが怖くなった。彼の裸体に拒否反応を覚えた。
彼のちんこが、見知らぬ他人のそれよりも遠い存在になった。気持ち悪かった。
自分の肌に触れられるのに拒絶感を覚えた。偶然の些細な接触であっても、だ。
裸を晒すなんて論外だった。同居自体に困難を及ぼす程に私は過剰に反応した。

私の中に産まれた、気難しくて臆病な野生の獣。我ながらうんざりだったけど、
獣と棲む羽目になった彼はどれ程辛かったろう。どれ程嫌な思いをしただろう。
それでも彼は、決してその事に声を荒げたり、癇癪を起こしたりはしなかった。
彼の心もあの瞬間に凍ってしまったんだ。二人が共同する性は完全に停止した。

そして、少なくとも私自身は、ココロもカラダもインポになった(!)

・・・・・。

思えば、私達が決別してもいいタイミングは幾度もあったんだよね。状況的に。
それは主従を解消した時でも、「もう触るな」と言われた時でもよかった筈だ。
「犬」を降りた彼が「情はあるけど、愛はない」ときっぱり言い切った時でもね。
彼にしたって、理不尽に接触を拒まれたり、怯えられたりする度に考えたと思う。

彼は「犬」として飼われる為に殆ど私の部屋に住んだけど、帰る所もあったんだ。
元々彼が住んでたアパートを引き払ったのは、ゴタゴタが漸く一段落した頃だ。
つまり、何かがあった時の保険として、部屋は畳まずに置いてあったわけね。
だから、いつだって「出てく!」「出てって!」てな結末を迎えられたのに・・・。

でも私達は同棲し続けた。居心地悪さを感じながらも、互いに必要だったから。
必要、というよりも都合がよかった?都合よりも、単なる惰性だったのか?
唯一明白な理由としてあったのは、彼が経済的に逼迫し、困窮していた事実だ。
「主」探しの試行錯誤は、彼の収入に不相応の借金を余儀なくさせたらしい。

「犬」の時代なら納得できた経済的な立位の差は、その後数年間彼を苦しめた。
「主」の時代、立ち入る必要のなかった彼の経済に、私は介入せざるを得なくなり、
その事実だけで鬱屈する私達は、性と金について口を閉ざして、同じ床に寝た。
どんよりとした緊張に支配された、けれど表面的には穏やかな日々が続いた。

・・・・・。

逆説的な考えだけど、男女間から性と金の問題を排除した結果、得た物がある。
それは同居生活の上手なやり方、とか、人としての精神的な相互扶助とか(笑)
原罪に苛まれながら修道院で清潔に暮らす、みたいな雰囲気を想像して欲しい。
いや「?」なのは判ってる(笑)ヘンな二人が、ヘンな生活をしてたんだもの。

さて、この間の彼の性欲はどうだったのか?適当に処理してたんだろうね(笑)
幸いな事に生活時間のズレがあったし、SMなエロ本は全く処分してなかったし。
私は、当然の結果として、SMだのエロだのに興味を失ってしまってたんだけど、
彼がSM資料を所有するのは否定しなかった。てか寧ろ必要だと認識してたんだ。

ってのも、私と出会う以前から、彼はSM同好会を主宰し熱心に活動してたのね。
会を活発に運営することが、彼自身の存在意義に関わるようにさえ見えたものだ。
だから彼の夢を奪った私としては、せめてこの活動だけは継続して欲しかった。
彼が、自分のように、SMそのものから遠ざかるのを恐れたんだ、切実にさ。

彼も個人世界で挫けた気持ちを、社会的奉仕で晴らすように、会に没頭してた。
だから、生活の中には依然SMの気配があった。そっちの電話とか掛かるしね。
夢の廃墟に住まう身としては、SM自体が既に遠い景色のようだったけど・・・。
でも実際の所、SM本は増え続け、SMな人達との縁が絶えることもなかったの。

・・・・・。

煩悩を封印した修道女のような生活が続くうち、私は段々と不安に駆られた。
SMはおろかシンプルなエロにも反応しないアタシ。性欲の枯渇したアタシ・・・。
エロ本をめくる。AVを見る。無理矢理にクリトリスにローターを当ててみる。
まるでダメ。全然興奮しない。愛液の一滴も滲まない。愕然とする。焦った。
断続的な試行。度重なる無為な試み。焦燥感が日々の暮らしの底に根付いた。


けれどある日のこと、一冊の『SMスナイパー』が、私に光をもたらしたのだ!!


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