女房様とお呼びっ!
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2001年06月02日(土) 君の名でヌく

君の名は『いぬちよ』・・・ああ、なんて素敵な名前!
こないだ、とある掲示板で見かけたの。召使いになりたいんだって?キミ。

君の名は『いぬちよ』・・・ああ、キミってセンスがいいんだね!
モニタの上の文字の配列、何度も何度もポインタでなぞる。

君の名は『いぬちよ』・・・堪らず、声に出してみる。
「いぬちよ、いぬちよ、いぬちよ」切なくなって、ファンレターを出した。

半日経って、返事が来たよ。
差し出し人は『○○ いぬちよ』・・・ああ、ちゃんと名字まであるんだね。
アタシのメールボックスに、君の名が並ぶのを夢想する。泣けてくる。
そして、アタシの頭の中で身勝手な妄想が走り始める。
君の名を「おかず」にして・・・いいのかな?ねぇいいよね?許してね?

***

目覚めると、辺りはカーテンを透かした朝の光で柔らかく明るいの。
お布団の感触を楽しみながら、寝返りを打つ。ぼんやりと目を開ける。
薄明かりの部屋の一隅に、奴が平伏している。奴の名は『いぬちよ』
すっかり、風景に溶け込んでいる小さなカラダ。静かな佇まい。

「オハヨウゴザイマス、ヒメサマ・・・」

足先をほんの少し動かすのが合図。奴が影のように足許に控える。
アタシは、ゆっくりとベッドの上に半身を起こし、窓の方を見遣る。
奴はすくっと立ち上がり、カーテンを開け、途端に朝の光が部屋を満たす。
小さく伸びをし終えると、ついと差し出される一杯の清涼な水。「ありがとう」

「オソレイリマス・・・」

喉を潤し、コップに半分ほどを残して、再び奴の手に返す。「もういいわ」
すぐにでも台所に踵を返そうとする奴を呼び止める。「いぬちよ・・!」
瞬間、コップを捧げ持ったまま、奴は床に膝を突き、アタシを見上げる。
思いがけなかったのだろう。少し怯えた、犬の目、犬の目。

「ハイ、ナニカ・・・?」

アタシは何も答えない。もっともっと、不安そうなお前の目が見たい。
沈黙の時間が進むごと、奴はどんどん小さく所在なさげになっていく。
奴の動揺を映して、コップの水が微かに揺れる。奴の心が手に取るようだ。
そうして、アタシといぬちよの間にある空気がみるみる緊密になっていく。

「アノ・・御煙草デショウカ・・・?」

耐えかねて、おずおずと奴が申し出る。馬鹿ないぬちよ。黙ってられない。
「ああ、そうね、吸いたいわ。・・でも今のお前に支度が出来る?」
両の掌にコップを握りしめ、己の言葉に後悔が始まる。可哀想ないぬちよ。
「仕方ないわね、お前ったら。てんで使えないんだもの」奴から目を逸らす。

「オ許シ下サイ・・・ヒメサマ・・・!」

喉に声を詰まらせて、縋り付くように許しを請う。辛いのね?いぬちよ。
アタシはベッドを降りて立ち上がり、煙草のありかを探すふりをする。
主の行き先の邪魔にならぬよう、奴は、床の上を右往左往に這いずっている。
両手にコップの枷をはめ、よちよちと慌てるさまは虫のようだよ、いぬちよ。

・・・可愛くて切なくて、胸が潰れそうになる。
・・・いい子ね、お前は。ホントにいい子!

アタシは腰を屈めて、奴の手からコップを奪う。もういいのよ、いぬちよ。
不意の事に驚いて、呆けたようにアタシを見つめる奴の頭上にコップをかざす。
そしてゆっくり傾ける。細い水の帯が、奴の髪に弾け、雫が額を滴っていく。
お前の目蓋が濡れたのも、鼻水が垂れているのも、このお水のせいだよね?

「ねぇ、何をぐずぐずしているの?煙草が吸いたいのよ、アタシ・・・」
「ハイッ、カシコマリマシタッ・・・」

奴は飛び跳ねるようにして、仕事に戻る。本当の犬みたいだね、いぬちよ。
懐かしく憧れる、夢想するだに胸苦しくなる、情景。アタシの「犬」・・・!


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