女房様とお呼びっ!
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2001年05月28日(月) 淫乱M魚の見る夢は

Jは淫乱だ。それは本人もきっちりと自覚している。

「最近どうよ?発情してんの?」
「ぼちぼちね。でも、クラブ行ってもなかなか当たんないね。効率悪い(笑)」

Jの淫蕩さは相手の女を圧倒する。奴の背後に広がる妖しい闇はブラックホールだ。
そこに飲み込まれてはならない。それを奴は望まない。奴は負けたがっているのだから。
けれど、その引力に対抗できる女はそういない。奴の淫蕩さは哀しい宿命だ。

「やっぱさ、駆け引きのツボっての?わかってくれる人ってほんの一握りよ」
「贅沢言ってんじゃないわよ、確信犯のくせにさぁ(笑)」

Jを相手する女は、大方、奴の自慰の為の玩具に成り果てていることだろう。
その結果はSを標榜する者にとっては恐怖だ。SがMの傀儡になる最悪のシナリオ。
過去に一度、目の前で淫らに溶解していくJを見た。触媒となったのは私の女友達だ。

「あん時もさ、アタシ呆れたね。ホントに欲が深いんだなって感心したよ(笑)」
「あれは我ながら凄かった、負けるかと思った(笑)アナタが居たから頑張った。」

Jは珍しく世辞を言ったけど、真相は違う。奴と彼女が同質同類のMだったからだ。
体を開き、淫水を迸らせ、隷属の言葉を繰り返しながら、心は常に内側に向く。
彼女は隷属に絶望し、望んで「我が肉の虜」となった。果たしてJはどうだろう。

「専属ってのも、キミの場合難しいでしょ?色々とね(笑)」
「うん、時間とかないし・・・って言い訳か、こりゃ。あはは」

Jが曖昧に笑って誤魔化したので、私達はまた、当たり前に共通の仕事の話に戻る。
時刻は夜中の二時。奴はこの後、朝イチの仕事を一本上げるのだと言う。頑張れ。
私も彼を口説くつもりは毛頭ない。互いに二杯目の酒を舐めつつ、肴をつつく。

「ボクね、好きな人いるのよ」

Jは唐突に話題を戻した。聞けば、女も「奴隷」の意味を知っている人間らしい。
既に告白もしたのだが、何もかも承知で女は、彼を捨て置いているのだと言う。

「彼女のためだったら、ボク、何でも出来ると思うのね。」

Jは夢見るようにそう呟く。そして自分の言葉に照れて、困ったように笑った。
そこに四十過ぎの男の顔はなく、剥きたてのゆで卵みたいな表情で眼鏡を拭いている。

「専属奴隷になったJなんて、想像つかないわねぇ(笑)」

Jと同様、その展開に困ってしまった私は、そう軽口を叩いて切り返した。
けれど、わかっているよ、J。その人のためなら、キミは淫乱さえも捨てるだろう。
私達はチョットだけいい気分になって、酒を飲み干し、各々の帰途についた。


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