サッカー観戦日記

2003年10月12日(日) 全女関西・準々決勝

女子W杯で初めて女子のゲームを観た、という知人が何人もいる。面白かったと皆口を揃える。各国リーグの国際化が遅れているせいか、男子よりも各国の個性が出ており技術・戦術的にも十分高いレベルにあるのだから、サッカー好きなら当然の反応かもしれない。

多忙でここ3週間まともにサッカー観戦に行く時間が取れなかった。それどころかテレビ観戦もままならず、女子W杯の日本のゲームを観ただけである。禁断症状が爆発寸前となったこの日は一日中サッカーを観ることにした。

競技志向の女子チームにとって最大の目標となる全女(全日本女子選手権)の関西大会はベスト8が揃った。舞台は日本のパルク・デ・プランス・スタジアムこと王子公園陸上競技場。サッカーよりむしろアメフトで訪れることが多い人工芝の競技場で、ピッチにもサッカーとアメフトのラインがプリントされている。ただしアメフトのラインが優先されて。
関西各カテゴリーの強豪が一同に会する貴重な機会であり見逃すわけにはいかない。8強の内訳は関西リーグ4、大学2、高校2チーム。35分ハーフで行われ、優勝チームが全国大会へ進む。

うっかり朝寝坊し、目覚めたのは8時。急げば第1試合に間に合うが、朝食をきっちりとり、余裕をもって行動するのがポリシーなので慌てない。ゆっくり会場に向かい、後半半ばに到着した。昨年チャンプで関西覇者のラガッツァ(スペランツァの下部組織)と京都紫光クラブ(関西3位)の第1試合はラガッツァがゲームを支配し、U−18代表に飛び級で選ばれ既にトップに昇格している阪口の得点で1−0とラガッツァが勝利した。

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第2試合はINACレオネッサと武庫川女子大の対戦となる。INACレオネッサは関西リーグ2部優勝で来期の1部昇格を決めている。兵庫のチームながら何故か奈良選抜が6人もいる。兵庫選抜はLリーグ2チームで占められているが。FW岡がU−18代表。一方シードの武庫川女子大は大学ナンバー2の存在である。もっともサッカー経験者は少ないらしく技術・戦術面は物足りないのだが、鍛えられたフィジカルと多彩なセットプレーが特徴。また昨年のインカレでは下級生がレギュラーの大半を占めており大舞台の経験も豊富だ。


全日本女子選手権関西大会 準々決勝 INACレオネッサ−武庫川女子大
10月12日(日)王子公園陸 11時30分 人工芝 曇時々雨 並風


INAC              武庫女大
−−−十六−−十二−−− −−竹田−徳山−氏平−−
−−−−−十一−−−−− −中田−−井野−−清原−
二一−二八−−九九−七七 −奥村−−北田−−平野−
−−十四−八番−三番−− −−−−−吉広−−−−−
−−−−−十三−−−−− −−−−−越智−−−−−

INACは3バックを主将8番が統率。フィードあり。99番は当たりに強くボールを捌ける選手。16番はスピードとセンス兼ね備えており、岡かもしれない。12番も突破力のある好選手。

武庫川女子大は4バックで16番吉広(2年・総社)がスイーパー。状況とは無関係にDFが3人は残る。13番北田(3年・明石西)は身体能力が高くロングスローもある。15番井野(2年・啓明)は正確で強いキックがあり、セットプレーのキッカーを務める。19番清原(3年・総社)、7番中田(3年・登美ケ丘)がSH。10番竹田(4年・芦屋)、9番氏平(2年・総社)は2列目で、12番徳山(2年・上野)がワントップ。昨年のインカレプログラムと背番号が一致すると思われるのでそのまま記載した。( )内は出身校で前登録チームとは必ずしも一致しない。

序盤は紺のユニフォームINACが攻勢に出る。SW8番や99番から出るロングボールがFWにつながり、能力の高い2トップがドリブル主体で崩しにかかる。が10分過ぎから武庫女大ペース。武庫女大はよく声の出るチームで守備面ではマークのズレをきっちり修正し、FWをフリーにさせない上に基本的に2トップに4人のDFが対応し、さしものINAC自慢の2トップも徐々に仕事が出来なくなる。2トップが同サイドに寄ると逆サイドに広大なスペースが生じるが、守備に追われるINACは99番を抑えられせっかくのスペースを使えない。武庫女大はトップの徳山の後方から快速氏平と技術のある竹田が飛び出してシュートを狙う。しかしINACも中央の守りは堅く、特に8番の守備センスが抜群で次々ピンチの芽を摘み取った。SHのクロスは精度が低く味方になかなか合わない。19分武庫女大・竹田が右に開いて受けクロス、ファーに飛び込んだ中田ノダイレクトボレーはDFブロック。INACも28分、カウンターから16番が右サイドを完全に破りフリーでファー5m地点に待ち構える12番にラストパスもシュートは当たり損ね超決定機を逃す。31分、武庫女大・徳山がポストから反転切り返し左足シュート、左スミを襲うがGK好セーブ。前半は0−0で終了した。女性主審のやや神経質な笛もあってか、非常にフェアなゲームである。

後半の入りもINACが良く、FW中心に攻め込む。1分、武庫女大の選手が倒れINACがボールを蹴り出す。このプレゼントボールのスローインをレフェリーがなんとやり直させる。こんなシーンは初めて見た。きっちりし過ぎだ。レフェリーは基本的に仲裁役であるというサッカーの精神を理解しているのだろうか?2分、武庫女大の右からのFK、井野の正確なボールで空中戦のこぼれを中田がまたボレー、しかし今度はバーを叩く。6分中盤(竹田?)のアメフト40ヤード地点(サッカーゴールからは48ヤードくらい)からのロングボールに井野が裏に飛び出し落ち着いて決め、ついに武庫女大が先制。この後は武庫女大がうまくゲームコントロール。10分左CKで井野の「3,1,5」というサインプレーから竹田がフリーとなりヘッドを放つが外れる。ベンチから「ここで決めろ」という声の下セットプレーで勝負を決めにかかるが、INACも辛うじて防ぎ終盤勝負に持ち込む。終了間際に一か八かの攻撃をしかけロスタイムには77番が左サイド深くのペナ外・角度のないところから思い切ったシュートを放つが無情にもバーに弾かれ、直後に笛が鳴り、武庫女大が1−0で逃げ切った。

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第3試合はこの日一番の好カード。第1回大会から毎年出場しているインカレでは優勝2回、関西学生女子リーグではほぼ毎年優勝の大体大と、やはり第1大会から連続出場している高校選手権で優勝2回の啓明女学院が激突する。ともにフィジカルの強い典型的体育会系チーム。大体大はMF江橋(4年・湘南)が北京ユニバー代表、DF山本(2年・三島)、伊達(1年)がLリーガーに混じりレベルの高い大阪選抜に選ばれている。レベルは落ちるかもしれないが他県選抜も多い。率いるのはA級ライセンスを持つ坂本部長と準指導員の女性監督・石居宣子氏。ベンチからは坂本部長の指示の声が上がる。


全日本女子選手権関西大会 準々決勝 大体大−啓明女学院
10月12日(日)王子公園陸 13時 人工芝 曇時々雨 並風


大体大               啓明
−−−十番−−九番−−− −−−武内−−松岡−−−
−−−−−−−−−−−− −−−鶴岡−−別所−−−
二九−七番−−八番−二五 山根−−−安達−−−藤田
二番−三番−−十二−十六 −−天満−源内−佐藤−−
−−−−−二一−−−−− −−−−−八田−−−−−

大体大の選手名は確認できず。コーチングの声は大きいのだが周囲の会話の声にかき消されて良く聞こえなかった。中盤・最終ラインともフラットでラインコントロールをきっちりこなす。主将の7番(多分江橋)がFKを蹴る。CBはともにレフティー。ゾーンディフェンスを理解しているチームは女子の場合このレベルでも稀だが、大体大はそのうちの1チームとなった模様。少し前まで「蹴って走る」チームだったが劇的に進化しており驚いた。

啓明はストッパーが相手2トップに張り付く古典的マンマーク。主将の源内がスイーパー。中盤も下がりカウンター狙い。鶴岡が左利きのテクニシャン。

開始から身体能力に優る大体大が押し込む。啓明も良く鍛えられているが、先天的能力の差が大きく、フィジカルをベースにした啓明にとっては相性が悪そうだ。ショートパスひとつとってもパススピードが違いすぎる。また啓明のロングボールもパワーに優る大体大が悉く競り勝つ。2分、大体大10番が右サイドペナ少し外でワザとらしいダイビング。しかしやや力不足だった女性主審はあっさり騙されFKを与える。副審の10m先での出来事だったが、なんとその副審も気づかない。すぐに主審の力量を見抜いた大体大が時にはファウルを交えた当たりの強さで中盤を抑えゲームを支配する。10番はスピードとキレあるドリブル突破を再三披露。SHも速い。啓明も鶴岡は高い技術とキック力を武器にパスで打開しようとするが、FWとの距離が長く大体大の細かいラインコントロールもあって決定的なパスは通らない。大体大はサイド攻撃を続け啓明WBに重い負担が掛かる。29分、大体大7番の強いグラウンダーのスルーパスに9番がついにマーカーを外して抜け出し、飛び出したGK八田の上を抜くループが決まり、大体大先制。31分にはFKから25番のシュートがバーを叩く。34分には左クロスを7番がボレー、バーを叩いて下に落ちてゴールの外に出るが、判定はゴールイン。正しい判定だと思う。前半は2−0で終わった。

後半も完全に大体大ペース。6分啓明の苦し紛れのバックパスを狙っていた大体大RH25番がカット、さらに左から9番も走りこみGK八田と2対1となる。落ち着いて9番に流し、ドフリーで難なくシュートが決まる。さらに前半からの競り合いで消耗したか、啓明はこの時間帯の全接触プレーで競り負けてしまう。WBの運動量もガックリ落ち、完全に勝負はついてしまった。啓明ベンチも16分にGKを交代したのを皮切りに、試験的と思われる交代を行い、大体大も次々に入れ替える。やや大体大の緊張が緩んだ時間帯にセットプレーで啓明・鶴岡の左クロスを天満がボレーで狙うがGKセーブ。22分、啓明控えGKがゴールキックをミスし、大体大10番が持ち込んで決め、4点目。しかし24分啓明はセットプレーから松岡の右クロスを天満が後ろにそらすヘッドで決め1点返す。がほっとしたスキを逃さず大体大はキックオフから直線的に攻め、9番がフリーで決めて5−1とする。終了間際には完全にペースダウンして大体大がボールキープ。余力を残して準決勝進出を決めた。

率直なところ大体大がこんなに強いとは思わなかった。もともと身体能力頼りという印象が強く、啓明のようにある程度のフィジカルと厳しいマンマークで守るチームを上手く崩せないゲームは何度も観ているだけに、この日のスマートな現代的スタイルには驚いた。今まではいい選手が集まっている割には、啓明・日ノ本といった高校トップレベルと互角だったのだが、これは1ランク上のチームに脱皮したかもしれない。まだまだ中での繋ぎに工夫がなく、「中で溜めてから外を使う」わけではなく攻撃が単調だったが、これはこれで一つのやり方だ。

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第4試合は高校選手権ベスト4日ノ本登場。関西では長らく啓明の1強時代が続いていたが、5年ほど前から頭角を現しあっという間に啓明と並ぶ強豪となった。周囲に何もなさそうな田舎に学校があり、良くも悪くもサッカー以外のものに誘惑される心配はなさそうだ。ここもフィジカルはよく鍛えられているチーム。昨年この大会では決勝でラガッツァと引き分けながらPK戦で全国切符を逃した。GK岸はU−18代表。対する三木ドリームスは関西リーグ4位。


全日本女子選手権関西大会 準々決勝 三木ドリームス−日ノ本学園
10月12日(日)王子公園陸 14時30分 人工芝 曇 並風


三木                日ノ本
−−−−−二八−−−−− −−−上田−−白井−−−
−−六番−二二−十八−− −−−−−虎尾−−−−−
二一−−−十六−−−五五 −−池上−鈴木−山内−−
−−二八−四番−五一−− 松下−朝日−−堀江−藤本
−−−−−八番−−−−− −−−−−岸−−−−−−

三木は3−6−1で能力の高い1トップ28番の単独での打開力が鍵。6番・22番・18番は守備的。カウンター狙いの模様。

日ノ本は中盤ダイアモンドの4−4−2で、バランスをしっかり保つ。守備ではマークを受け渡すが、相手28番をしばしばフリーにしてしまう。

1分、三木28番がロングボールに抜け出すが、GK岸がいい飛び出し、いい体勢がとれないままファーストタッチで強引に左にかわすがバランスを崩しシュートはヒットせず。3分にも28番はスピード豊かにDFをかわしてシュート、岸セーブ。5分頃から日ノ本が支配しSBを使ったサイド攻撃を展開する。12分藤本の右クロスがニアの白井へ、シュートタイミングをやや外し、遅れて撃ったが外れる。日ノ本は攻めるが三木の粘り強い守備の前になかなか決定機はつかめず、シュートも少ない。三木の28番は当たりに強く
ポストプレーや闘争心も申し分のない好選手で、日ノ本も手を焼く。がCB朝日・堀江もお互いにカバーし、身体能力差を補う上手い守備で対抗する。28分、前線に飛び出した日ノ本・虎尾の左足シュートがGKの脇をすり抜けて先制。前半残り時間もあまりチャンスはなく終了。

後半日ノ本・池上→奥田。奥田はFWに入り、白井がLHに下がる。日ノ本は中できっちり繋いでからのサイド攻撃が続く。7分三木は両WBの55番・21番→2番・15番が同じ位置に入る。スタミナを消耗していたからか。15分過ぎからは三木も疲れが出て、スペースが生じる。そこをスピードと得点センスのありそうな虎尾が積極的に狙う。18分日ノ本・奥田→山口。後半出場したばかりの奥田は見せ場を作れず。山口は動き出しがいいタイプ。三木はさらに二人交代する。26分スルーパスが山口に通り、左に出したボールに白井が後方から走りこんで決め2点目。32分にはその白井→矢田貝に交代。33分カウンターから山内が抜け出しGKをかわして決め3点目を奪い完全に勝負を決めた。終始ゲームをコントロールした日ノ本の完勝だった。

これでベスト4はラガッツァ・武庫川女子大・大体大・日ノ本学園とシード勢が勝ち上がった。準決勝はラガッツァと大体大に分がありそう。ラガッツァと大体大は若干ラガッツァに分がありそうだが、準決勝・決勝はLリーグとスケジュールが重なり、奥田・阪口・松田・上辻の昇格組がどちらに出場するかが大きな鍵となる。


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T.K. [MAIL]