凪の日々
■引きこもり専業主婦の子育て愚痴日記■
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ベビーカーとベビーバス、チャイルドシートを処分した。 出来れば誰かに譲りたかったけれど、本体から取り外しができない部分がかびてしまったのだ。 アユムが気がつくと口に入れて遊んでいた部分。 他の取り外しが出来る部分ははずして洗ったら綺麗になっていただけに、残念この上ない。 でも、アユムが常に口に入れていた部分という事は、赤ん坊が常に口に入れる部分というわけだし。 消毒液にひたして乾かしたとしても、やっぱり口に入れる部分だと思うと、人に譲るのは躊躇われる。 これは、潮時という事だろう…と、思い切って処分場へ持ち込む事にした。
一人で行くのも寂しいので、出かけたアイが戻るのを待って二人で処理場へ。 「なんで捨てちゃうの?」とリサイクルだのリユースだのにうるさいアイが聞く。 「誰かに使ってもらいたいけど、洗えないところがカビちゃったからもうあげられないの。赤ちゃんが口に入れたら病気になっちゃうし」と説明。
捨てる前に最後にアイにベビーバスに入ってもらって写真とっておきたいなぁ。 ついでにベビーカーにも乗ってもらうかな。 嫌がるだろうけど。
あれこれ考えながら、処理場へ。 職員がテキパキと手順を教えてくれる。 場内の案内表示に従ってゴミ捨て場へ車で移動する。 鈍い音を立てて重い鉄の自動扉が開く。 機械油の臭いと、重い機械音がする、薄暗く広い構内に、ちょっと緊張しながら指示される不燃物処理場へ。 ベビーカーとチャイルドシートを作業服の男性に渡すと無表情の彼は無造作にポイ、ポイとそれらを大きな穴へ放り込んだ。
あっという間。1.2.3.はい、おしまい、だ。
あまりにあっけなくて、切なくなって涙がこぼれてきた。 「うわぁ寂しい。泣きそう」と言うと「ベビーバスは私がリカちゃんのおうちに使おうか?」とアイが提案してくる。 「そしたら捨てなくていいでしょう?」 有難う、アイ。 「そうだね。でも、これは卒業だから。哀しくてもお別れする時なんだよ」とアイにだか自分にだか言い聞かせて、案内表示通りに進む。
ベビーバスは可燃物だとかで、別の場所。 コンベアーの上に置かれたベビーバスは空港の手荷物のようにのれん状のビニール幕の奥へ移動していく。 もう、見えなくなるまで居れなかった。 車の中で涙がボロボロこぼれてきた。 「うわぁもう寂しい」と涙を拭いてアイを見ると、アイも涙を目に一杯溜めて、赤い鼻してこちらを見ていた。 「なんであんたまで泣いているの」と聞くと「わかんない」と涙をぽろぽろ。 「二人して泣いていると、変な親子って思われるかもね」と涙を拭きながら笑いあう。
車から降りて、アイを抱きしめる。 アイの頭は私の胸あたり。 「寂しいよぉ」と言いながらアイをだきしめるとアイは「くるしいー」と笑う。
なんでこんなに寂しいんだろう。切ないんだろう。 必要なくなったベビー用品を処分しただけで。 子供なんか大嫌いなんだろう私。 今までの子育ては苦痛でしかなかったんじゃないの? そうだけど。そうなんだけど。
あぁもういいや。理由なんかわからないけど、とにかく、寂しいんだ。 哀しいんだ。切ないんだ。 大きくなったアイ。 だけど、次に抱きしめる時、アイはもうこれより大きくなっているんだ。 そして、抱きしめても笑ってくれなくなっているかもしれない。 「お母さん、きしょ!」と驚くかもしれない。 それまで何回も抱きしめておこう。アイも、アユムも。
「最後にアイにベビーバスに入ってもらって写真とっておきたかったなぁ」というと「げー」と舌を出された。 むかついたからもう一度抱きしめてやった。
暁
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