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茂保衛門様 快刀乱麻!(12)外法帖
2003年03月20日(木)

※皆様いかがお過ごしでしょうか? すっかり3ヶ月ごとの更新が身に付いてしまった(汗)、ちゃんちゃん☆ でございます。ああ・・・ついに禁断の「空更新」やってしまった・・・☆

(解説しよう。
このSSが掲載されているレンタル日記では、3ヶ月何も更新しないと解約されてしまうんである。そこで、書くネタがないけど解約もされたくない! って人のために、『空更新』と言う隠し技が用意されているのだ。つまり、以前書いたページを何の修正もせずに『修正』する方法。これはちゃんとここでも認められている方法だったりするんだが・・・はっきり言ってこれって、かなり情けない状況ですよね? しくしくしく)

 さてそれはともあれ。今回やっとこさ、書きたいシーンの1つにたどり着きました。それでもクライマックス、そして完結まではまだ先が長いです。よろしければそれまで、どうぞお付き合い下さいませ。
 ・・・これが終わったら、ちゃんちゃん☆ が勝手に「侍魂(サムライダマシイ)」シリーズと銘打った一連の物語が、終結するんですけどねえ。(ワンピのゾロBD記念に書いた「人斬リニアラズ」と、るろ剣「地図にない未来」が該当作。3人3様の『侍』って意味で)はてさて、いつのこととなりますことやら・・・(汗)。では。

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茂保衛門様 快刀乱麻!(12)


 ───後になって思えば。
 この時ほど勝算のない戦い、ってものは、先にも後にも経験したことはなかったわね。したくもないけど。
 何せ、周りをぐるりと鬼火に囲まれてるわ、出口から助っ人を呼べないわ、どうやって鬼火を倒せばいいか分からないわ、おまけに、すぐ外に井戸があるって分かってるのに活用できないわ、ですもの。・・・今でも思い出せば、背筋にぞっと寒気が走るくらいだわ。
 でも、引き下がることは出来ないってことも確かだった。何もこれは自分たちの命運や、油売りの彦一のためだけじゃない。ここで延焼を食い止められなかったら、まず間違いなくこの江戸は火の海の下に沈む、ってことですもの。無理だって分かってても、血路を見出すしかなかったのよね。

 とは言うものの、普通に刀を振り回すって言うだけの戦法に、一抹の心細さを感じたのも、また事実。だからそれとなく周囲をもう1度見渡したところ、どうやら汲み置き用らしき水瓶を発見した。
 これは良い、って言うんで、鬼火からは目を離さないまま柄杓を手に取ったあたしは、素早く、でもなるたけ音を立てないように水を汲んだ。そしてそれを、抜かれた刀の刃へそっと注ぐ。
 ───まあこれは、一種の魔物であるところの鬼火に対して清め水を打つ意味もあり、火も水には弱いってんで少しでも足しになるだろう、って思惑もあったのよね。

 そう言えば・・・村雨って言う、里見八犬伝に出て来る不思議な刀は、その刀身から絶えず水が滴り、人を斬っても決してその刃の切れ味が落ちることはない、って言われてるみたい。もっとも鬼火に対して、そう言うやり口が通用するとは思えないし(大体、血糊が出るとは思えない)、所詮空想の世界の刀の話を今持ち出しても、意味ないんだけどね。

 とにかく。
 あたしがそうして、刀に未だ残る水を切るように振り払ったところ。

 オ・・・ォオオ・・・。

 鬼火たちから、明らかな恐れの感情が漂って来る。
 そして刀を鬼火たちに向けたまま一歩進むと、わずかだけど『奴等』が退くのが分かる。早速効果覿面、ってところね。
 こっちの目論見に気づいたらしい。後ろで御厨さんも、あたしの動作に習うようにしたけど、ふと思い付いたことをそのまんま素朴に、耳打ちしてくる。

「榊さん、ひょっとしたらこの水瓶をそのまま『奴等』にぶつけてやった方が、手っ取り早いんじゃありませんか?」
「・・・それはあたしも、一旦は考えたんですけどね・・・」

 そうとだけ言って口を閉ざすと、さすがに賢明な彼のこと、どうやら良策ではなかったと悟ってそれ以上は聞いて来ない。

 何で御厨さんの作戦を選ばなかったのか、ですって?
 『奴等』が水を怖がっているのは事実だから、水瓶の中身をぶちまければ確かに、一時的には有効でしょうよ。・・・だけどあくまでも、それは一時的な処置。

 ───さて、ここで問題です。汲み置き水をそうやって全て使い切ったところで、万が一にも鬼火が一匹? でも生き残ったら、一体どうなるでしょう?

 答えは簡単。仲間たちの敵討ちにと、躊躇うこともなくこっちに襲いかかって来るだろう。そしてその時のあたしたちには既に、『奴等』に有効な手だては残っちゃいないから、焼き殺されるのは十中八九決まり切ってる。もちろん焼け死ぬのはあたしたちだけじゃない。『奴等』の最大の標的であるだろう、油売りの彦一もでしょうね。
 少しでも生き残る算段をしなきゃいけない時に、焦りは禁物ってことよ、つまりのところは。

 加えて、どうしてあたしがそのことを懇切丁寧に御厨さんに説明しなかったかも、この際教えてあげましょうか?
 あたしたちの目の前にいる鬼火たちは、本能だけの生き物と思いきや、その実そうじゃない。それは、さっき御厨さんがうかつにも彦一の名前を・・・と言うか、この部屋に彦一と言う名の油売りがいるらしいって可能性を口にした途端、自分たちも彼をおびきよせようとしたことからも、分かるでしょ? それなりに思考能力も備わってるらしいって事なのよね。
 だから、この場でうっかり御厨さんの作戦の難点を話しでもしたら、そしてそれを鬼火に聞かれでもしたら、最悪、虎の子の水瓶を叩き割られてしまう、って事態もありうるわけ。
 ・・・他に有効な手段がない今、それだけは避けたいじゃない。

「さて、と・・・」

 鬼火の動向をうかがいつつも、次にあたしは柄杓の水を、着物の上から浴びせかけることにした。
 こうすればとりあえず、襲われて即・火だるまってことだけは防げる。それでも頭を濡らすのをやめたのは、何も身だしなみに気を払っただけの理由じゃない。一瞬の隙が命取りの現状だって言うのに、水が目に入ったらそれだけで充分『隙』を作っちゃう。それに視界も狭くなるしね。

 ところが敵もさるもの。このままじゃ埒があかないと悟ったのか、一斉にあたしたち目掛けて襲いかかって来たのだ!

 ゴウ・・・ッ!

 唸りをあげて迫り来る炎に、とっさに刀を振り回すあたし。

 ジュッ!

 だけど水は蒸気と化し、刀はたちまち乾いてしまう。水瓶に近寄ろうにも、何時の間にかぐるりと周りを鬼火に取り囲まれていては、それも叶わない。死なないためにも、次の手を講じるためにも、ここは何としても鬼火たちを切り伏せないと!
「このっ!」
 焦って突き出した刀はあえなく躱されて。完全に無防備になった脇目掛けて、鬼火が今まさに襲いかかろうとしたその瞬間、だった。

『水神之玉!!』

 鋭い声と共に、何かがあたしの側へと飛んで来たのは。
 青色のその玉が、床に落ちるが早いかまばゆい光を放ったかと思うと・・・。

 ジュウウウウウウ!

 焼けた石に水をかけたような音が響き渡り、視界は一瞬薄い霧のようなものに覆われる。

 本来ならこれは、敵中で見渡しが利かないって意味で、あたしにとっては危険極まりない状況のはず。だけどその時のあたしは、鬼火たちもこの機に乗じて襲いかかってくるような度胸はないだろう───そう察した。
 何故なら、この霧からは水の感触を感じたから。

「榊殿! 御厨殿! 無事か!?」

 続いてかけられた聞き覚えのある声と、どやどやと何者かが駆け込んで来た気配に、あたしは思わず「げっ☆」と、お下品な声が出てしまう。

『妖化生・九尾猟!!』
『四霊・麒麟!!』
 ドカッ! バキッ!!

 見れば、戸口近くで鬼火相手に素手やら、怪しげな術やらで、見事なまでに渡り合っている少年と女人。───こともあろうに、《鬼道衆》の風祭と桔梗だ。やっぱりと言うか、あたしたちを追いかけてここまで来たらしい。

「何であんたたちが来てるのよ!?」
 そして同じく追いかけて来たらしい、九桐が槍を手に現われるに至って、さすがに温厚で物分かりの良いあたしもブチ切れた。
「罪人の分際で木戸、突破して来たってわけ!? 良い度胸してるじゃないですか!」
「仮にも命の恩人に向かって、そんな口利くかよ!?」
 鬼火をぶっ叩きながら振り向きざま毒づくのは、当然血の気の多そうな風祭。
「誰もあんたたちに助けてもらおうなんて、これっぽっちも思っちゃいませんよ!」
「あたしだって別に、あんたたち幕府の狗を助けるつもりで来たんじゃないよ! あたしなりのケリをつけに来ただけさ!」
 聞き取り不明な呪文を唱えつつも、そう反論したのは桔梗である。

 ところが1人だけ、やけに冷静な九桐は笑みさえ湛えながらこう言ったのだ。
「2人とも嘘はいけないぞ。榊殿が真っ先にたった1人でこの部屋に飛び込んだと聞いた途端、目の色変えて駆け出したじゃないか」
「「うるさいっ!!」」
 もっとも彼の言い分は、即座に遮られたけど。

「だ、大体なあ九桐! お前は何で、炎への耐性が人並み以下なんだよ!? 水属性の技だって一個も覚えちゃいないし、何のために『空せ身』持ってるんだ!! 俺と女狐だけで闘えってか!?」
 何やら顔を赤らめながら、風祭は九桐に苦言をぶつ。・・・どうでもいいけど、こいつら鬼火と闘いながらも、会話がかわせるのね。こうも緊張感が欠片も感じられないって、どういうことよ。
「どうせ覚えるのなら、もっと面白い技を覚えたいじゃないか」
 のほほん、と答えながらも九桐が、こっち目掛けて攻撃して来る鬼火を槍でちゃんと退けている。

 ・・・って、ちょっと?
「どうしてあなたが、あたしの前にいるんですか!」
 何時の間にか九桐が前方に立って、あたしを庇うようにしている。
 一体どういうことよ、これは。敵に庇われるって事ほど、屈辱的なことはないって言うのに。・・・まあ逆に言えば、あたしへの嫌がらせ、ってこともありうるけど。
 そしたら九桐は、その顔に張り付いたような笑顔で辛辣なことを言い出した。
「拝見したところ、あいにく榊殿の腕前では、こいつらを撃退することは出来ぬと思ったものでな」
「ぐっ・・・」
「まさかこの期に及んで、《鬼道衆》に庇われるくらいなら焼死した方がまし、なんて言うまい? この鬼火たちを退治するには、1人でも手数が多いにこしたことはないのだから」
「い、いけしゃあしゃあと言ってくれますね・・・」
 怒りと屈辱で、あたしはそう言うのがやっと。

 一方御厨さんは、と言うと、刀を振り回しても自分では鬼火を切れないと取るや、すぐさま水瓶の水を柄杓で、周囲にばら蒔くことに専念し始めた。
 だけどそれだけで手詰まりだ、と悟ったようで。
「お前たちは一体、どうやって鬼火を切り伏せているのだ!?」
 ・・・あたしの部下は、思いの外『したたか』だった。先ほどの九桐の言い分を逆手にとって、鬼火の退治法を伝授してもらうつもりらしい。
 そして九桐の方も、御厨さんのその態度を決して不快とはとらなかった。

「・・・2人とも、人を斬ったことは?」
「ある」
「泣く子も黙る火附盗賊改ですよ、経験あって当然でしょ」
「なら話は早い。方法と言っても、結局は人と対するのと変わらぬ」
「しかし・・・」
「炎と言う外見に惑わされるな。己の刀に負けられぬ、と言う魂を込めて打ち据える、それだけだ。少なくともそれで、鬼火の動きぐらいは止めることが叶おう・・・こうやってな!!」

 言うや否や、九桐の槍が前方の鬼火の攻撃を阻む。そうしておいて、

『横倒!!』
 ザンッ!

 鋭い一撃を食らわせると、鬼火の動きが止まってしまう。その一瞬の隙を見逃さずに、九桐はそのまま横薙ぎの剣閃で見事、鬼火を屠るのであった。

 オオオオオオオッ・・・!

 断末魔の叫びが響く中、あたしと御厨さんも行動を開始せざるを得なくなる。

「はあっ!」

 掛け声も勇ましく、御厨さんの刀が閃く。
 その姿はまさに、凶悪な盗賊たちと対峙した時そのもので、何とか鬼火を弾き返すのに成功していた。そして退いた鬼火をそのまま追いかけたりはせず、向こうの方から襲いかかって来るのを待ち構え、渾身の力を込めて2度、刃を叩き付ける。

 ヒャアアアアッ・・・!

 さすがに一刀両断とまではいかなかったものの、それでも何とか鬼火は悲鳴を上げて消えていった。

 だけど、彼の上司であるあたしはと言えば、正直言ってへっぴり腰も良いところ。
 いくら『炎と言う外見に惑わされるな』って助言されたって、炎は炎なのよ。熱いし、近付いただけでチリチリとした痛みに似た感触に、つい体が逃げてしまう。
 その消極的さがマズかったみたいだわ。

 ガクッ☆
「きゃあっ!?」
 足元が不安定な場所での斬り合いに、後ずさった足が滑ってしまう。その弾みでこともあろうに、持っていた刀を床に落としてしまったのだ。大慌てで刀を拾おうと屈んだあたしの背中に、熱い空気が襲いかかる───!

『飛水十字!!』

 その時だった。凛とした声と共に、どこからともなく飛んで来た苦無手裏剣が、鬼火をしとめたのは。

 シュウウウウウ・・・。

 まるで水をかけられたかのような蒸気を発し、鬼火は見る見るうちに消えていく。
 呆気に取られたあたしの目前にはいつしか、見覚えのあるやけに露出度が高い着物を身に付けた女人の背中があった。まるで、鬼火からあたしを庇っているかのように・・・。
「あ、あんたは・・・」
「ご無事ですか、榊様」
 振り返った涼しげな顔は、まさに《龍閃組》の涼浬のものだった。

《続》

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※ああ・・・こんなに進行具合がトロいとは。予定ではもっと、話が進むはずだったんですけどね。これ以上更新が遅れるのもなんですので、今日はこの辺りで終わっておこうっと。
 ところで、今回何が苦労したかって、《鬼道衆》の3人の戦闘法です。澳継はともかくも、九桐と桔梗の2人ってば、鬼火に有効な『水』属性の技、何も持っていないんですもん(汗)。『水』属性の武器や、九桐の『龍蔵院奥義・胤影』を活用することも考えたんですが、あまりに唐突ですからねえ。ま、そのせいで思い切り苦戦した、って説明は付くからいいか・・・。
 さて次回は、おそらくは皆様も想像が付いているであろう、《鬼道衆》と《龍閃組》の共同戦線とあいなります。ややこしいことになること、疑いないなあ(苦笑)。とりあえず今は、ウソップの長編SS書いてかからないと。では、次回またお会いしましょうv




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