つたないことば past|will
「おい」 「ん」 短く呼ばれたから短く返事をした。 背中の後ろで、今日が始まろうとしていた。 夜空の紺色から太陽の黄金色へのグラデーション。 空は焼けなかった。澄んでいる。 冷えた空気が容赦なく頬を刺すものだから、思わず両手で覆った。 でもその手も冷たくて。 「何考えてる」 「さあ」 吐いた息が真っ白く漂って、消えた。 言葉数は少なく、ただぼんやりと一点を見つめていた。 なんだろう、ただどうしようもなく、ただ、 「行くか」 「何処へ」 「わかんね」 歩き出したいような、留まりたいような。 遠く、白い煙が上がっている。 もう燃えるものなんかないのに、名残惜しむように。 焼け落ちた陣地には仲間もたくさんいた。 逃れられたのか、それとも。知る術はない。 ただ、もう無くなったのだ、という喪失感。 きっと顔も思い出せなくなる。 進むしかないんだ、結局のところ。 太陽の光がすべてを覆いつくす前に。
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