夕暮塔...夕暮

 

 

手鞠 - 2004年04月25日(日)

みずみずしく咲き誇る大手鞠は春と初夏をつなぐような気配、きれいだなとじっくり見ていたら、この間買い換えた寝室のペンダントライトと花形がよく似ていることに思い当たった。好きなものどうしは時々、こういう風にどこかでリンクしている。


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風の波 - 2004年04月24日(土)

今ならまだ戻れると不意に思いつく自分を諌める風の波濤で



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宵の船 - 2004年04月22日(木)

万象が眠りにすべり落ちるような春の宵、やわらかな風の彼方、三日月は浅い船の形で艶やかに横たわっている。隣で「きれいだ」と呟くのを聞けば何となく嬉しいような気持ちになって、息を吐きながら頷いた後、緑色のガラスを溶かしこんだ紺碧を見上げた。

真夏に中国へ行くための計画を練る。とにかく恐ろしく暑いらしい、日本で6月から暑気にやられてぐったりしているのにそんなところに行って大丈夫なのかと確認されるけれど、今更中止するわけにはいかない。
酷暑のせいもあるけれど、私は中国に対して元々わけのわからない恐れみたいなものを抱いていて、かなり腰がひけている。同行する友人は「アメリカに1人で行けるくせに、中国の何が怖い」と呆れつつ、珍しくびくついている私を心底面白そうに眺めている。


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たいせつな - 2004年04月19日(月)

大切なものだから目には見えなくていいのよとわらう君が嫌いで



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緑なす - 2004年04月18日(日)

五分袖の淡い水色をはためかせて下る坂道はもうまるで初夏の空気、やっぱり日傘が必要だったかなとゆるく後悔しながら気持ち良く向かい風を受ける。ひなたぼっこの猫に挨拶していると、飼い主らしき老婦人が「キョウちゃん、お水飲むう〜?」と大きなバケツに水を張って持ってきた。いくらなんでも多いだろうとちょっとびっくりするけれど、それも大雑把でいい感じ。外猫と人は多分これくらいの距離でちょうどいい。あれこれと買い物した後食べたほおずきの果肉を練り込んだジェラートは甘酸っぱくてさわやか、街路樹の銀杏の葉も金色に緑を透かして、もうどこにも早春のストイックな気配はない。




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充足を色に変えたらこんな風かも知れぬ緑なす金色の


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春をわたる - 2004年04月16日(金)

春をわたる水晶の橋に腰掛けて碧々と融けた宵風を待つ



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木の芽時を - 2004年04月15日(木)

木の芽時を過ぎてから新年度の慌しさが落ち着くまでのこの期間、人は少なからず心ざわつかせて過ごすものだけれど、2人の上司も足並みを揃えたように変になってしまった。しょうもない方は気持ちの悪さに拍車がかかるばかりなのでもう淡々と放っておいた、心配なのは尊敬している方の上役で、とにかくあらゆるものが不安で不安で不安のどん底的心境らしい。今にも「お願いだから手が空いてる時はずっと僕のそばにいてくれんか」と口に出してきそうな勢いだ。セクシャルな意味合いが全く介在しないことを知っているから、単純に痛々しくてかわいそうになる。きつい棘を持つ同格陣に散々苛められているのだろうなと推察したらいかにも気の毒で、しばらく望むようにしてあげようかと思っていたら、彼の部屋を退出した途端に同期は「あんな様子じゃ困る」と渋い顔を作る。私はそれに続く酷評を肯定も否定もしないままで聞きながら、自分の甘さを噛締めている。


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夢の端を - 2004年04月12日(月)

花の雲は途切れても深き夢の端を訪れてきみと川を渡らん



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「そう、私もやってみたんです、今日何の夢見る?って」
「おっどうだった!?」
もう大ウケでした、やっぱりあれいいですよね。そう言って笑えば同僚も「だよね」と高揚した声で笑い返してくる。「実は最初はちょっとうざいとか思ったんだけど、段々楽しくなってきて」
眠りに落ちる前にその晩見る夢について合議することは、同僚とその同棲中の婚約者のささやかな日課で、「今日の夢どうする?」「うーん、わたしドラゴンボール」「じゃあ俺もそれにしよっと」「おやすみ」「うんオヤスミ」 とかやりとりしているらしい。初めて聞いた時は割と真剣に感心した覚えがある、なかなか面白い習慣だと思う。「それで、結局何の夢に決まったの?」 尋ねられてどうしても思い出せず首をひねる、しまった何だったっけ、相談することがあんまり楽しくて、結論を忘れてしまった。


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春告鳥 - 2004年04月11日(日)

春を告げる高らかな歌の鳴る中で 覚悟するものを抱いている朝



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早朝に目覚め、寝室が冷えないようにそうっと外に出て、部屋付きの露天風呂にもう一度お湯を張る。木立の向こうに人影はない、きりりと静かな外気の中を鶯の囀りだけが満たして、どこまでも澄む。


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雑音を - 2004年04月09日(金)

淡々と文字刺激を追いかけて雑音を意識的に受け容れれば、嵐は不自然に鎮まりかえる。涙腺が干上がったような感覚、好きな日本画家の訃報記事を読んでも殆ど心動かされない、そういう自分に対して僅かな違和感はあるけれど、これでいいのだと味気ない世界の隅で思う。
煩憂のかけらは瞬く間に霧散する、どこかが痛むのは気のせいだと、言い聞かせるより早く。


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塞き止めて - 2004年04月08日(木)

感情の回路をひとすじ塞き止めて目を細め深く闇は黙する



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何もかも - 2004年04月06日(火)

死んでしまいたいなどとぼんやり考えながら淡々とコピーを取る自分の手もとを見下ろしていたら、見知らぬ少年が真直ぐに私の顔を仰いで尋ねてくる。「コピーって、どうやるんですか?」 小学校高学年くらいだろうか、左手に握り締めた保険証を複写したいらしい。細々と手順を教えてコピーを済ませれば丁寧にお礼を述べられて、随分躾がいいなあと感心しつつ別れる。きっと弟といくつも違わない、あの子にもきっと父親がいて、その存在を病にもぎ取られることなど想像もしないだろう。まだ父親を十分に必要としている年頃だ。…違う、あんなに幼くなくても、母も私も妹たちも必要としている、愛しているなんて言葉を使えば救いようもない程陳腐になるけれど、必要で、大切で、大好きで、かけがえも無い。だからこんな風に世界が終わってしまうような気持ちでいる。入学式に胸ふくらます弟はまだ知らない、父の心臓がもういつ止まってもおかしくないのだという残酷な現実を、誰からも伝えられていない。嘘みたいだ、そうでなければ悪い夢だ、数百キロ離れたこの土地で、当たり前のようにアスファルトの上、目の前が暗い、どこででも生きられると思っているのに、何もかも捨てたい。




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どこへでも - 2004年04月02日(金)

風きよく緑凪ぎ淡く花揺れるその渦に巻かれどこへでもゆく



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どこへでも飛んでゆけると勘違いしてしまいそうだこんな陽春



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二日前の天気予報では雨になる筈だったのに、土の底の石1つまで暖まりそうな光が注がれている。駅までの道を遠回りして勾配のきつい坂道を選ぶと、見事な枝ぶりの染井吉野が、道路を挟んで隣の家の窓まで届きそうなくらいのびのびと腕を広げて咲いている。同じ通り沿いにある桜たちはどれも電線にひっかかって剪定されているのに、これだけは運が良かったらしい、遮るものもなく枝を切られる事もなく、のびのびと空を覆わんばかりの気配。その花の下をくぐるのは、もう毎春の通過儀礼のようになっている。


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千鳥ヶ淵へ - 2004年04月01日(木)

夕暮近く、千鳥ヶ淵へ。仕事帰りに現地で落ち合うはずが、行きの電車の中で偶然出会う。花の雲を透かして月の光。何度訪れても、きっと飽きることはない。


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