夕暮塔...夕暮

 

 

薄墨の - 2004年03月31日(水)

薄墨の花風に背中押されれば逡巡は脆く流れ過ぎゆく



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湯船にも - 2004年03月26日(金)

外に陽が射し始めた昼休み、「面白いものを買ったんですよー」と同僚に声をかけると「えっ、何なにー!?」と乗ってくれるので、ネットで検索して見せる。彼女は目を丸くして驚く、「あー! これ、私とクミちゃんも買おうとしてたやつー!」 お風呂に沈められる卵型のライト、照明を落として入浴するとお湯の底でゆったり七色に変光する。どう?楽しい!? と尋ねられたから楽しいですと答えたけれど、本当は、楽しいというよりはうっとりする感じかなと思う。



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1日におやすみと告げる湯船にも柔らかな光揺れる十二時


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この雨 - 2004年03月25日(木)

薄墨に浮かび上がりたる顔(かんばせ)を濡らしては落つる弥生この雨



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蛸 - 2004年03月24日(水)

このお店のお刺身は相変わらず涙が出そうな位新鮮でおいしい、今日はソイと黒鯛の活け造りをメインにあらゆる魚介類が並んでいる。お料理が減ってきた頃に「蛸の踊り食い食べる人ー」と言われて、周りに合わせて何となく手を挙げてみたら、数分後にとんでもないものが(本当にとんでもないものが)届く。うわあー、お皿の上が大変なことに、と思いながらじっと見ていると、お酒のまわった友人が真っ先に箸をつける。 「ぎゃー!! 唇の裏に吸いつかれた! 痛ー! 痛い!!!」 と悶えるのを隣で傍観しつつ、恐ろしいやら面白いやら申し訳ないやらで、何だかとても複雑な気持ちになる。


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導かれ - 2004年03月22日(月)

導かれゆく路は深い霞にも似ていると思うどの方角も



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まだ春は不確かなままでいるらしい 君のいる方を向いているけど


君のいる方を向いてはいるものの まだ春は不確かなままらしい


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結ばれた指を - 2004年03月18日(木)

結ばれた指を離せばささやかな魔法が解ける(ほどける)ことは知ってた



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気付かないふりで歩くことの方が易しかった、多分。


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声だけで - 2004年03月12日(金)

声だけで繋がることの悲しさと虚しさを知る父の声から





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大学病院の個室に入院中の父に何度目かの電話。専用の電話がついているので、割と時間を気にせずに気兼ねなく声を聴けるのがありがたい。何をしてたのと尋ねると、「消灯後だからほんとはいけないんだけど、映画観てる。みやびが持ってきてくれたんだ」と、ギャルのほうの妹の名前を挙げる。不幸中の幸いと言ったらいいのか、入院が春休みの時期にかかったので、母だけでなく妹や弟も頻繁に会いに行っているらしい。思春期真っ只中の少年が父親と病室でどんな話をしているのか、想像するとちょっとくすぐったいような気もするけれど。
電話を切る時、弟との電話を切る時みたいに「お父さん、いい子でね」と半分冗談で言ったら、「ハイヨー」と明るい返事。
あの快活でいかにも頑健そうな父が、静かな個室にひとりでいる所を想像したら、何だか悲しくて、やるせなくなる。


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春嵐 - 2004年03月11日(木)

この間着た大振袖に風を通して埃を払い、さらりと乾いているのを確認したあと、洗いたてのシーツを広げた上で丁寧に畳む。クローゼットにかけっぱなしだった白銀の帯もそろそろ仕舞わないといけない、柄の部分が重なり合って傷つかようにくるくると巻いて畳み、たとう紙の大きさぴったりにおさめた。処分する雑誌をまとめつつ、前回友人が来た時はどこまで読んでいたのだったかなと記憶をたぐる。外はまるで春の嵐そのもの、窓硝子がびりびりと音を立てそうなくらいの強風が街中をかき回している。


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ミモザアカシア - 2004年03月10日(水)

しなやかに揺らされるまま春風を受けいれるミモザアカシアの花



しなやかに揺らされるまま南風受けいれるミモザアカシアの春




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鞘ばかり - 2004年03月09日(火)

鞘ばかり厚くなるこの来たるべき日の為の刃は未だ抜かれず



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西はまだ透いて見えるような茜色をとどめている、帰宅を急ぐ人波と逆方向に歩くと、唐子咲きの椿が大輪をつけて迎えてくれた。今日は偶然にアナウンサーの方が多くいらしていて、個人的には大変喜ばしい。きれいどころ大集合、目の保養、とか思っているのはもちろん秘密で。


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深々と - 2004年03月08日(月)

嵐吹く薄闇を脱けてそのあとに深々と来たる春をいざよう




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「あなたにも反抗期とかあった? あんまりそういう風に見えないっていうか、想像できないんだけど…」 パーティションに隠れて二人きり、自分の思春期の荒れ模様とその極端な収束を語ってくれていた同僚が、ふっと真剣な顔でこちらを見る。ありましたよ、と私は笑う。もう大荒れです、夜中に学校忍び込んで窓ガラス割ったり。「盗んだバイクで走り出す…」そう、そう、そういうような。ひとしきり笑いあった後で「荒れるべき時期に、きちんと荒れておいたほうがいいのかもね、多分ね」と同僚は言い、私は十年前のことを懐かしく思い出している。もちろん実際にはそんなバイオレンスな出来事はなかったけれど、雪の嵐みたいに何もかも真っ白になればいっそ楽なのにと思って脳を乱されるような混乱を味わいながら、気が付けば我ながら不思議なくらい穏やかな大人になっていた。
屋外での煙草休憩から戻ってきた彼女が「月がもの凄く大きくて、真っ赤だった」と教えてくれるので、別の同僚と連れ立って、十六夜を見るべく夜七時の非常階段をのぼる。


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明日は - 2004年03月06日(土)

まだ浅い春の夜風の冷たさに目を細め仰ぐ明日は十五夜



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休日前夜 - 2004年03月03日(水)

明日はお休み、マンションの近辺で過ごすことだけは決まっていて、具体的に何をしようかとあれこれ考えているうちに、もう既に楽しくなってきてしまった。暖かかったら大きな公園で梅を観てから泳ぎに行きたい、そうでなかったらこの間輸入家具屋さんで見つけたフラワーベースを買いに行くことにしようかな。時々行くインド料理屋さんでランチしたいし、お気に入りのパン屋さんでマーガレットの花みたいな形のフランスパンを買ってきて、焼きたてをママレードで食べるのもいいと思う。休息日の朝に飲むコーヒーはどうしてあんなに美味しいんだろう、いつもと同じように淹れているのに、全然違う。 …お腹が空いたのか、食べ物のことばかり思いつくようになってきた。うーん、もう寝よう。


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東から - 2004年03月02日(火)

東から風が来て香るこの道で また巡り揺れる春を見つめて




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住み慣れたこの街に何度目かの春が来て、色んな事が少しずつ動いていく。心配な事も喜ばしい事も、こうやって人は心揺らしながらゆく他ないのだと遠まわしに教えてくれる。
単調なはずの私の春にも少しだけ変化が訪れて、花見の温泉に行こうと提案してくれた人を逆に悲しませてしまった。どうにかして報いたいと思うけれど、新年度から夏が来るまで、土日の連休は取れそうにない。


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