夕暮塔...夕暮

 

 

沈丁花 - 2004年02月29日(日)

沈丁花香りたつ清かこの街を四年に一夜の月が見守る



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1年に溢れる時間は5時間48分46秒、それが4年分積み重なって如月の晦日が1日だけ長くなる。静かな雨が上がり南風の吹く午後も過ぎて、月齢8の半月が昇る。





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住む人も - 2004年02月26日(木)

住む人もなくとも君は咲き誇り春を知らせる歌の通りに




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主なくとも春を忘れるなという悲しい歌の通りに、住む人を失った木造の民家の庭で、一本だけ残された白梅が花開いている。花の主はいつもその花自身だ、人間は時々自らを司ることさえ忘れて時計を狂わせるけれど、花はこうやって、世話されずともすっくと立ったまま水ぬるむ時を迎えている。


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根こそぎ - 2004年02月22日(日)

君の背を見送れば晴れの日曜を根こそぎ持っていかれた気持ち



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ここのえに - 2004年02月20日(金)

七重八重ここのえに君の晴れやかな旅路願いて別れ往く春



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時間のかかる仕事は持ち帰ることにして、横浜の魁夷展へ。建物の外には長蛇の列。しかしそれさえ過ぎてしまえば、ひたすらに柔らかで淡く力強い、清冽な世界。淡いのに力強いと言った方が近いのだろうか、それとも、力強い絵なのにどこか淡くて優しげな印象があると言えば近いだろうか。絵を言葉で表すのは難しいと思う、どんな風に書き残したら自分の中でぴったり来るかと胸の内で推敲するのは楽しいけれど、1人遊びなだけに、時々解が出ないままになってしまう。
明日は買い物の後自宅でお鍋。土鍋とテーブル用の電磁調理器の出番はきっともうあと何回も無い、またこの次の、木枯らしが吹きつけるまで。


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優しげな - 2004年02月19日(木)

優しげな歌を忘れた頃のことまだ胸にある でもそれでいい



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- 2004年02月17日(火)

日毎に夜が短くなって、玄関の靴箱の上、青い硝子の花入れにくるまれた菜の花が長ける。

私は些細な擦違いから親しい人にさようならと言いたくなって、寸前でその畏まった言葉を何とか退けた。窓の外がいかにもさびしげで透明な冬と春のあいだの暮色に染まるので、その他人行儀な別れを圧し留めることが難しいのか、水鳥の羽一枚のように軽いのか、わからなくなってしまいそうになる。私の肺にもうひと息ぶんの空気が残っていたら、もしかして現実になっていたのかもしれなかった。


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春は巡り - 2004年02月13日(金)

春は巡り再た揺れる淡い恒星をきみのため封じこめる花闇



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花が咲いてまた堂々巡りの春が来る、誰かのために優しくなれても、まだ何も始まっていない、微かに揺れる、この光のほかには。


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出世 - 2004年02月12日(木)

敬愛している方の上司は、何がなんでも私と同期を出世させてやろうと考えているらしい、最近特にそれを前面に出すようになってきて、しばしば困惑する。この仕事を大切に思っているしずっと続けたい、それには間違いなく胸を張れる、だけど出世するかどうかとは全く別の問題だと思う。
「…私も貝塚さんも、出世するつもりはないんです」 私にしてはきっぱり伝えてみるけれど、間髪入れずに「ダメー!!」と否定されてしまう。この人の才能とクリーンさをを心から尊敬しているし憧れている、後ろ髪にぴょこんとついた今日の寝ぐせや、何度注意してもファイルをデスクトップに保存するという悪癖さえ可愛いと思ってしまうくらい大好きなのに、どうしてもそこだけわかってもらえないのが、ほんとうに、困る。半分位は私たちの先々を考えて言ってくれているのだと思うと心苦しいけれど(残り半分のうちの2割くらいは本人の権力欲だろうと思う。しかしそれすら彼の魅力を減じる要因にはならない)、どうやっても頷けない。


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春先の波 - 2004年02月11日(水)

春先の波にまぎれて緩やかに忘れかけゆくぬるき傷跡




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辛いものを食べたいと妹が言うので、昼前に銀座で待ち合わせてタイ料理屋さんへ。穏やかでいい天気、先日のお土産を渡すと「春らしい色、うれしーい!」と喜んでくれる。お料理があんまりおいしいので辛いのを忘れてちょっと食べすぎてしまって、途中から舌が痺れかかってくる。甘くてひんやりしたタピオカを喉に通したら、かなりほっとした。


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- 2004年02月10日(火)

夕方の待ち合わせの前に映画を観る。このところ時間に余裕ができつつあるので、この1週間で映画館に3度足を運んだ。ミスティック・リバー、ロードオブザリングの3作目、それから今日のシービスケット。馬が走る姿は本当にきれいだ、優雅なのに激しくて、胸が高鳴る。



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予感 - 2004年02月08日(日)

風はもう此花の香の予感して階段を降りる音も軽やか



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抱月 - 2004年02月05日(木)

昼間の雲は強風でどこかへ流されてしまったらしい、先生のお宅の玄関から出れば松の枝ごしに満ちた紺色の夜、そのしめやかさの中で、十四夜の月は冴え冴えと輝いている。抱月という椿があったことを思い出す、ひっそりと控えめな印象だけれど、円い花弁が高貴な何かをくるむような形で咲くのが、とてもたおやかで好ましい。




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月を抱くこの夜の風の真中に立ち止まり冬の背を見送ろう



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心震わす - 2004年02月04日(水)

きっと今も心震わすものになら何もかも差し出してかまわない



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旋律を - 2004年02月02日(月)

旋律をほどいてまばゆく澄みきった音に変えきみに渡すきさらぎ



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行きあぐね - 2004年02月01日(日)

行きあぐね 去りがたくそれで気が付けば あなたを言い訳に使う愚かさ




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父の心臓は私が思っていたよりずっと良くないらしい、ベッドが空き次第大学病院に入院して適合する薬を探すことになったのだと母から聞いて、電話を切った後、ショックで頭に霞がかかってきた。我儘な王様は、ドクターに何度忠告されても煙草とゴルフとお酒三昧の日々をちっとも改めなかった。こんなことになったのも当然の結果なのだと思う。母が不幸になるところはどうやっても想像できないから(絶大な強運に守られているとしか思えない生活ぶりだ)、最後はきちんと収束するのだろうけれど、それにしても父は反省すべきだ。病室のベッドの前でぼろぼろ泣いて見せたら気付くのだろうか、妻や娘たちが見えない所で泣いたり心配したりしていると思わないのかと思うと、ますます悲しくなる。祖父といい弟といい、どうしてうちの男の人は皆こうなのだろう、おおらかさは無邪気で安らぐし尊いけれど、時々無神経と紙一重になるのがにくらしくてやきもきする。彼らのことを書く時にどうしても憎という漢字を使えない、わたしも大概だと思いながら。


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