夕暮塔...夕暮

 

 

さよならと - 2004年01月30日(金)

さよならと声にもならない呟きを重ねゆく長い旅の涯まで




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「やあ!おはよー! しばらくぶりだね!」 お隣に建築中だった分譲マンション、その建設会社に雇われているらしい老警備員さんが、いつものように元気よく声をかけてくれる。私も久々なので嬉しくて、にこにこして自転車を引いて行く。数年前から、朝夕挨拶をしたりちょっとお話したりしていたのだけど、もう建物はすっかり完成した様子だ。こちらにはいつまでいらっしゃるんですかと尋ねると、「2月1日!」次は板橋、今度は15階建て。寂しくなるねー、とおじさんは続ける。そうですね、本当に。もうじきいなくなってしまうのかなと私も寂しく思っていた、それでもやはり急なので、ちょっとショックだ。深夜に帰宅した時に突然後ろから 「やー!コンバンワー!」 と声をかけられて一瞬震え上がった事もあったけれど、目下の人に優しくしている様子を見たりするにつけ、いい人だなあと思って和んでいたのに。


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淡き火を - 2004年01月28日(水)

穏やかで淡き灯を抱いて進んでく いつか来るそのいつかの日まで




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「静かな子なのよ、勿論必要な時にはちゃんと泣くんだけど…」 ちいちゃんと呼ばれるその子は、彼女が言うとおりちっともむずからない温和な赤ちゃんで、会ったばかりの私に抱かれてすぐにふわふわと笑いながら小さな手を揺らす。あまりに落ち着いた様子なので、「これは真剣にすごい。一体どんな大人になるのか」と皆が感嘆する。お母さん似なら、きっと聡明で優しい人になるのよね、と心の内で話しかけながら背中を撫ぜる。赤ちゃんはあたたかくていいにおい。私はあなたのママの横顔がとても好きだった、白い肌と額から唇までのラインが見た事もないくらいなめらかで凛として、彌勒っぽい美しさとでも言ったらいいのか、知性的で優しげな雰囲気のある人だ。彼女が博士号を授与された時の晴々と誇らしげな姿をよく憶えている、旧い講堂に差し込んだ懐かしい春の光、窓の外では大木の枝垂れ桜がこぼれんばかりに咲いて、小柄な背に満ちた誇りと喜びを映しているみたいだった。謙遜も傲慢も介さないのびやかさが、本当にきれいで、素敵だと思った。

理不尽に残虐な目に遭う子ども達がいる中で、優しく穏やかな(おまけに賢い)母親の下に生まれたこの子は、どれほどの幸運かと思う。童話に出てくる魔法使いのように、私も腕の中の赤ちゃんに何がしかのギフトを授けられたらいいのにと思うけれど、そんな特殊技能はないから、どうか暖かな人生をと重ねて祈るばかり。




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三日月の - 2004年01月27日(火)

この先を百年誰かに預けても変わらない多分すべてこのまま



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三日月が滑るなめらかな夕暮れの雲をかきわけ彼岸へ泳ぐ




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指のあいだに - 2004年01月26日(月)

ゆるく組んだ指のあいだに揺れている青い火に瞼閉ざして祈る



組んだ指のあいだに青く揺れている火よどうか暫しそのままであれ




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これを失ったらどこへ行けばいいのだろう、怖いというよりは自分の想像の果てを見るような気持ちで、途方もない昏闇を見はるかす頼りなさに目眩がしそうになる。この不確かだけれど静かで熱い何かに一欠片の価値も見出せなくなったら、多分あらゆるものが色を変えて崩れる。


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夢の裏 - 2004年01月25日(日)

夢の橋の裏に傷した憶えさえなきままで何故にこうも歯痒い



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夜寝 - 2004年01月24日(土)

自分ひとり大事にできない想いなら手放してほしい 今の君には




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手放すべきだとかそうして欲しいと思うのは勝手だけれど、そんなことを伝えてみても、結局は酷く僭越で無責任だ。そんな風には言えない、だけど多分私の言葉からは遠まわしに滲み出ているだろうと思う。一方的に傷つくばかりで得られるものがないなら、簡単に風を送ったりできない。世の中にはずるいのにどこか魅力的な人というのがいて、それを承知の上で付き合うという選択肢もないわけではないとわかっているけれど、そういうアウトローなことをするには、彼女は優しくて素直すぎる。


冷たい曇り空の向こうに、ゆるく霞みながら茜色が流れる。切らしていた調味料や青い野菜を買い揃えながら帰宅して、ゆっくりコーヒーを淹れる。ソファにかけてお腹のところにクッションを抱え、その上に雑誌を載せて読む。美容院で半強制的に取らされるスタイルだけれど、腕や首が疲れにくいし、目があまり良くない私には、膝に直接本を置くよりも読みやすくて楽だという事に気が付いた。
夕食を作った後くつろいだところで、すっかり気が緩んで夜寝をしてしまった。明日は着付の先生に来て頂くことになっているから、部屋を片付けて準備しておかないといけないのに、もう深夜。あー、ええと、まずい。



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詭弁を - 2004年01月22日(木)

だからその詭弁を愛する余暇はないことを知らせる笑みは浅めに





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異国の雪夜 - 2004年01月14日(水)

きらきらとプラチナの砂のこぼれ落つ異国の雪の夜の安らかさ





故郷より一万キロのこの国の夜に落ちる雪もただ安らかに






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友人の暮らすNY郊外の街、最寄駅に着いたら恐ろしく細かい雪が降り始めていた。乏しい灯りの中で、プラチナの粉が波になって降りてきたように煌めく。雪国で育って色んな雪を見たけれど、こんなに細かくて光を帯びた雪は初めてだ。やっぱり土地が違うと雪質も違うかなと思いながら1人でささやかに感動する、多分今ここは氷点下十数度、気温の要因も勿論あるのだと思うけれど。友人の彼が「雪はいいね、寒いのは好きなんだ、Yurikoはそうじゃないみたいだけどね」と夜を見上げ、友人は「日本みたいな牡丹雪が降ることもあるよ、でも、今日は、ちょっと、…うう、さむい……」と肩を縮める。







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風邪 - 2004年01月12日(月)

友人が泊まりに来て豆乳鍋を楽しんだところまでは良かったのだけど、翌朝起きてみたら、なんとなく熱っぽい。しまった、出発までに治しておかないと、乾燥した機内では誰かにうつしてしまうかもしれない。風邪の時用のスープを作って、飲んでから眠ろう。


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真摯さに - 2004年01月11日(日)

凍りつく冬の星座の真摯さに貫かれ指の先を震わす



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空路 - 2004年01月06日(火)

先月、NY行きを決めた途端にテラー・アラートがオレンジ色になってしまった。レベルで言えば5段階中上から2つ目に当たるのだから危険なのは承知しているけれど、親しい人が向こうにいる時に行かなかったら一生アメリカを訪れないような気がして、細々と準備をしている。一度計画が直前でぽしゃった事があるので、今度こそはという気持ちもあるのだと思う。
テロが少し心配で、と同僚に言ったら「…なんか、あなたは、飛行機が落ちても大丈夫そうな気がするよ? 1人だけ助かったりする人に見える」と真面目な顔つきで返された。「それ、よく言われる」と私が驚くと、他の同僚も「そんな感じする」と笑っている。
日本でのテロが危ぶまれ始めた頃、空路で旅行に行こうとしたら同行者のお母様に大反対されたことがあった。最後にしぶしぶ了承して下さった時、お母様は「飛行機が落ちそうになったら、夕暮ちゃんにしっかり掴まるのよ! 絶対離しちゃだめよ! そうしたらきっと助かるんだから」と真剣に言い聞かせたらしい。友人はそれを聞いて「そうか、なるほど」と納得したのだそうで、何か起こった時には私にしがみつく気満々の構えでいたので、私は不思議に思いつつちょっと恐ろしくなった。
私は確かにふわふわ生きているかもしれないけれど、窮地にあっても空は飛べないと思うし、殺しても死なないと言われているようで何となくひっかかる。


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遠い冬を - 2004年01月04日(日)

未来など歌ってはきみの襟足を撫ぜていた遠い冬を知らずに




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歩いて - 2004年01月03日(土)

羽なんてなくても歩いてゆけることを忘れないうちは大丈夫です




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ひととせを - 2004年01月02日(金)

翔ぶのでも跳ねるのでもなくゆるゆるとたゆたって進むまた一年(ひととせ)を




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そしてまたひととせの旅を漕ぎ出して進みゆく朝は霞のなかに




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