夕暮塔...夕暮

 

 

大事だと - 2003年11月30日(日)

大事だと言えるくらいならずいぶんと楽だった ごめんきっと言わない




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緩急 - 2003年11月29日(土)

恐ろしく慌しい土曜出勤の後、大学時代の友人3人で待ち合わせて共通の知人が開いている個展を訪れる。先日お会いした、美しくてきりっとしたお嬢さんが迎えてくれた。
「自分が欲しいと思うものが、見つからない世の中になってしまったんだ。…例えば、和室に合うスピーカーなんて本当に見つからないんだ」 なるほどと頷きながら聞いている、しかしそういう風に考えても、普通は自作しようとはなかなか思わないだろう。それを実際に作れてしまうというのが本当にすごいと思う。御影石を土台にしたスピーカーは本当によくできている。勿論、わたしたちには手が出ない値段なのだけれど。
個展はお皿がメイン、飾り気がなくて、素朴なのに重厚で品のある焼き物が並ぶ。この模様はどうやって出るんですか、と尋ねると、「これは、藁を乗せて焼くとこういう影が出るんだよ。でもどういう模様になるかなんて焼きあがるまでわからないんだ、窯の中のちょっとした加減で変わる、偶然の産物だから」。 奇跡みたいなものなんだ、一つ一つが。そんな風に思いながら、灰銀の光がまぶされた小さな満月みたいなお皿をそうっと持ち上げる。ああ、きれいだ、華やかというのではなくて、西洋のお皿のような計算された整調の美でもなくて、不揃いなのにしんしんと沈むように美しい。

渋谷に出て、目的の日本料理屋さんに行ってみると既に予約でいっぱい。先輩が一度訪れたというフレンチのお店に行くことになる。メニューはジビエの季節になっている。駅から近いのに、こじんまりして雰囲気がよくて、お料理もすごくおいしい。きっとまた来ると思いながら、帰り道で周りを見渡す。本当は渋谷は人が多すぎて苦手な街で、特に休前日には滅多に来ないようにしているのだけれど、ここは本当に素敵だった。ゆっくりお話して、午後までの忙しさが全部飛んでしまったと思うくらいのんびり楽しかった。


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お稽古 - 2003年11月27日(木)

ガラス張りのチョコレート屋さんを横目で見ながら、246のゆるい坂道を上る。もう西陽もすっかり朽ちて、六時にもならないのに世界は夜の色合いで冷えかかっている。
炉に据えられたお釜に柄杓を差し入れる、この瞬間がたまらなく好きで、だいたいいつも勝手に恍惚としてしまう。どこまで沈んでゆくんだろうとぼんやり考えると、ため息が出そうにうっとりする感じになる。柄杓の先は、清い水の中をくぐって果てもなく深くて暗いところへと向かう。実際にはほんの数十センチの深さなのだからほんの数秒の後には底に行き当たるようにできているのだけれど、そのことを知っていてさえも、もしかしたら果てがないのかもしれないと錯覚するあの一瞬が、いつも不思議で、得難くて、大切な何かだと思う。


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新月を - 2003年11月26日(水)

新月を過ぎて研がれた銀色に傷ついてしまいそうな夜です



新月を過ぎて研がれた銀色を見上げれば何もかも遠ざかり




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「じゃあまた」と - 2003年11月23日(日)

「じゃあまた」と笑うときにもこの胸が痛むこと決してきみは知らない




じゃあまたと笑うときにもこの胸が痛むこと君は知らなくていい





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上野で絵を見てからこまごまと買い物をした後、私の地元の小さなギャラリーに立ち寄った。すっかり暗くなった中をスーパーへ向かって、この秋初めての鍋物の準備。今日は最近CMで見た坦々ごま鍋に挑戦、協議の結果、お肉は豚と肉ワンタン、きのこは舞茸とエノキ茸、〆はラーメンではなくマロニーの大きい方を入れることになる。あとはネギや白菜、お豆腐などの定番具材を選んでお買い物完了。食器棚の一番下の段にどっしり陣取っている大きな土鍋を、久々に引っぱり出して貰う。いわゆる坦々麺の味だけじゃ飽きがくるかなと思っていたのに、途中で豆板醤を追加したりしているうちにきれいに食べ終えてしまった。うん、すごくおいしかった。またやろうっと。


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目にも胃にも - 2003年11月21日(金)

もともと男性に関して顔立ちより雰囲気重視な上に西洋の美形には興味が薄いので、「サッカーで言えばベッカム、ハリウッドならトム・クルーズ、○○界ならこの人」という評を聞いても心動かされずにいたのだけれど、実際に博士を迎えてみたら、ちらっと見ただけで発熱してしまいそうなとんでもない美形だった。
ここ暫くの煩雑さが全部吹き飛んでしまいそう、と思いながら立ち働いているうちに一日が終わって、友人の行きつけの韓国料理屋さんで新鮮なお刺身や魚介類を沢山頂いた後、ゆっくりお茶を飲んで帰宅。忙しくはあったけれど、目にも胃にもお正月が来たような一日。


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身体のことば - 2003年11月15日(土)

ありがとう こんな風にまた隣り合い地下鉄に乗れる夜を待ってた



帰ってきてくれてありがとうまた君の隣でメトロの流れに乗ろう




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エスニック風の居酒屋さんを出て、小雨のちらつく中を地下に潜る。乗り換えを考えるために路線図を見上げると、「一緒に帰ろうよ」と友人のうちの1人が言う。ああそうね、それがいい。「じゃあ、またいつものふたりで」と私は笑い、変な話ばかりしてるんだけどね、ときよのさんも言いながらぴったり並んでシートに座った。そう、本当に、妙な話ばかりしている。私達は友人のグループの中にいればそれぞれに明るいキャラクターで通っているのに、二人になると何故だかしっとりして、埒もなく暗い話ばかり続けてしまう。確か前回は夢と手相の話だった。彼女の夢は象徴的で本当に面白い、単にシンボリックなだけならたいして興味をそそられないのに、どこか惹き付けられるような危うさと、映像的な美しさがある。
また二人で夢の話、私はチェスの夢を、彼女はブレーキの効かない車の夢を話しているうちに、気がつくと話題が仕事のことになっている。静かに曲線を辿る地下鉄の中、彼女はゆったり呟く。「身体言語って、本当にその通りだと思ったよ…言葉にできないものがどんどん溜まって、それが石になっちゃうんだもん」 ほどけない糸が彼女の中で固く結ばれていつしか石になっていく様を想像したら、痛々しいとしか言い様がなかった。帰って来れてよかった、モチベーションが消えた時にはもうだめかと思って、というのを聞いて、私の想像以上に彼女が辛かったのだということにようやく気付く。よくここまで回復してくれたと思う。
戻ってきてくれてありがとう、こんな風にまた一緒に帰途に着く夜を、ずっと待ってた。


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花の色を - 2003年11月14日(金)

花の色をひそやかに映すあの雲を背にすればどこか暖かな暮れ




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水を打つ - 2003年11月13日(木)

水を打つ羽の音つむぐ安息に夜がほどけるまでを過ごしぬ



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星に願うより - 2003年11月11日(火)

このままでいさせてと星に願うより単純な道を君は知ってた




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静かに - 2003年11月10日(月)

だから、あんな人の言葉に傷ついたりしなくていい。



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先月から私の補佐についてくれるようになった若い女の子を、上司が無駄にきつく叱り付けたらしい。終業後、強かにショックを受けている様子なので何かあったのかと訊いてみたら、おおもとは本当に些細なミスだった。彼女は語らないけれど、どんな風に責めたかなんてだいたい想像できる。いつもの事とは云え愚かしい大人だ、自らの感情の浮き沈みには呆れるほど敏感なくせに、自分の言動が誰かを害しうることを想像もしない。
…自分は仕事ができない、覚えが悪い、ごめんなさいもっと頑張りますから、と彼女は謝る。かわいそうに、客観的に見て充分働いてくれているのだからそんな風に自己評価を下げることない、あんな感性の貧しい人のことばに傷ついたりしなくていいのに。

仕事はゆっくり覚えてくれたらいいのよ、あんな気分屋のせいでへこむ必要なんてない。私はもう充分に助かってる。そう伝えると、ようやくほっとした様子になった。

人はどうして自分ひとりすら上手く守れないんだろうと思う、心無い言葉や態度に惑わされては傷を負って、酷く自分を責めながら土曜の午後をとぼとぼと歩いたりする。自分が赦した人以外からのネガティブな波を受けいれないように自らを馴らすことならできる、だけどそれだってどこまで耐えられるかあやしいものだ。



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悲しみに - 2003年11月08日(土)

人の世の悲しみに沈む夜ありて この先を過ごす地を見失う




人の世の悲しみに沈む夜ありて いずくにかあしたより先を見む





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確かめられてゆく - 2003年11月06日(木)

夕瑠璃と確かめられてゆく夢を手放せぬままでいるさびしさよ





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凛々と満ちつつある月の下を歩けば、散り重なったイチョウの葉が暗いアスファルトに光を灯す。
17のわたしが望んだことが、もうじき実現しようとしている。
あれから何年経っただろうか。あの頃は多分本当に叶うなんて思ってなかった、現実味をもって考えるにはあまりに遠い、はるかな望みだと思っていたのに、道をふり返ってみれば驚くほどあっけない。


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- 2003年11月04日(火)

訳の不自然さを指摘された彼女のイラつき具合があまりにあからさまなので、その場の空気がどんどん不穏になっていく。既に下訳を一度読み合わせて修正した筈だったから、ここでこんなに手間取るとは思っていなかった。本人も多分そう思っていて、それでますます腹が立つのかもしれない。
「これ残りどうする!?」
「明日、会議前の空き時間に続きをやることに」
「そこで終わるかな…」
「いや、終わらせようよ」
そうしたら、木曜は久々のオフになる。ここ二週間程休息日がないままに生活しているのでちょっとしんどい、同期も月−土で働いて日曜は関西の学会に行っていたのだから、いくら体力自慢でもいい加減疲れているんじゃないだろうか。ああ、できれば三日くらいのんびりお休みしたい、世の中では山茶花が咲いてはほろほろとこぼれているのに、こんな殺伐としたのはいやだなと思う。この間の悪夢、皮膚に刺さる直前の蛇の白い牙が頭をかすめて、ちかりと光っては生々しく警鐘を鳴らす。


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辛辣な - 2003年11月03日(月)

辛辣なものをもってしかあなたとは約束できないような気がした



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あなたとは優しさだけでは結べない 何か辛辣なものがなければ





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