薬指が - 2002年09月30日(月) 薬指が きみを忘れた日の事を 眩しく風を受け思うときまで 薬指は もう長い間ひたむきに あなたを忘れたいと言ってた ……… 風の彼方 午後の光に稲穂金色 今日からまさしくこの指は自由 - 金沢へ - 2002年09月28日(土) 久々の金沢。8時56分発の新幹線で越後湯沢、そこから特急に乗り換える。硝子の向こうは生憎の雨で、「ああ、さっき少し止んでたのに…」と友人が車内で溜め息をつく。「でも、空は明るいし」 と気休めでなく私が声をかけると、雨雲を見上げていた彼女が振り向いて、ちょっとほっとした顔になる。 「それにわたしたち、割と晴れ女だと思わない?」 「…そうだね、そうだよね」 思い出したように彼女が確信を持って頷くので、「ね、」と私は笑った。 彼女との旅行は何度目だろう。学生の時も、卒業してからも、わたしたちは淡々と旅に出た。高原、外国、テーマパーク、古都、温泉。 近頃曖昧に考える、言葉で確認してみた事はないけれど、わたしと彼女には多分外からは見えない共通点があって、それは人の特徴をあらわす時にはもの凄く大切な部分かもしれない。 …だから、わたしたちは、隣にいるのかな。 ぼんやりとそんな風に思っている事を、いつか彼女に伝える日が来るのだろうか。機会があれば尋ねてみるのも悪くない、きっと楽しい、答えのイエスノーには関わらず。 - わがままで - 2002年09月26日(木) わがままで自分勝手なその頬を 撫ぜればふわりと花の風吹く ………… たとえばアスファルトの上、銀杏の木の下、開け放した窓からも。町中のあちらこちらを金木犀の風が愛撫する。 - 全力で - 2002年09月25日(水) 全力で駆けてみようか今日からは誰にも見せたことのない速度で ………… - 十二夜 - 2002年09月19日(木) 紺碧を 溶きてひろげし十二夜の 輝ける闇を胸に吸い込む 紺碧を 溶きてひろげし十二夜の 静かきらめく闇を吸い込む ………… 思い切り吸い込んでしまえ その肺の内に凛々と満ちる十二夜 - - 2002年09月18日(水) 苦しいニュース、穏やかに暮らしていた人間の音階を突然に掻き乱す、あのどす黒い災難の無惨さに圧倒される。やりきれない。単なる悲しみではない、理不尽という言葉を軽々と踏み躙る、憎むべき何かの実態が見えない事が恐ろしくて憤らずにいられない。彼らは今でさえ本当のことを言っているのか疑わしいと思う、辻褄の合わない発表に不自然な死亡者数、10年前に亡くなったなんて真っ赤な嘘かもしれないのだ。 連れて行かれた少女は両親の中では13歳の姿のままなのに、15の娘がいるという。娘を捜し、血を吐くような月日を過ごしてきたひと達の気持ちを考えてみる。私なら喜べるだろうか? 望んでした結婚だったのかどうかもわからない。おそらくその子は日本の言葉も知らないだろう、少女が泣いて帰りたがった筈のこの国の、美しい響きさえ。 - 雨音は - 2002年09月17日(火) 午後六時 雨音は秋の気配して 頭の芯まで沁みてゆくよう ………… - ひとしずく - 2002年09月15日(日) 人のために流す涙がひとしずく まだあったのか私の内にも ………… - いつの朝に - 2002年09月14日(土) いつの朝に きみは夜明けを知るだろう かたくなで暗い輪の中にいて ………… 目を醒ましてと告げたなら、それはきっと不可解で残酷な言葉になる。 - 雨を待つ - 2002年09月13日(金) 雨を待つ日暮れの風の涼しさよ 非常扉から一歩でうたかたへ ………… - 狐につままれる - 2002年09月12日(木) 「これ、持ってって。多分干物だろう、おいしいよ」 学会のドンはこともなげに患者さんからの差し入れの包みを指差すと、十数分待たせたままのハイヤーに乗る為に大急ぎで去って行った。丸いケーキでも入っているのかと思うような厚みのある箱が1つと、菓子折くらいの薄さの箱が1つ、いずれも発泡スチロール製。私と越野さんとで大きな方をおそるおそる開けると、おがくずに埋もれた伊勢海老、少なくとも3匹はいるだろう。一匹のヒゲが緩慢に動くのを認めて、私も彼女も、控え室にいたナースも驚く。「わ、生きてる…!」 どうしようかと困った挙げ句、越野さんが伊勢海老を、私はもうひとつの箱の金目鯛の味噌漬けを持ち帰ることになった。彼女は恐縮していたけれど、ひとり暮らしの私があんな大層なものを貰うより、彼女が家族とあの大きな海老を囲む食卓の方がずっと楽しそうだと思う。 「ねえ、お家の人に電話しておいた方がいいんじゃない?」 「あ、そうか…そうだよね」 帰り道、彼女は携帯を取り出して自宅にダイヤルする。 「海老を頂いたんだけど、すごく大きいやつ…うん、そう、だから夕御飯はね……」 大きな海老。果たしてその表現で正確に伝わるだろうか、と一瞬心配になるけれど、とりあえず口は挟まないでおく。 「どんな風にして食べたか、教えてね」 「うん! …でもほんと、どうなるんだろ、ねえ?」 「ね」 2人で笑いながら別れる、ああ何だか狐につままれたような日だった、と言いながら。 - まぼろしの - 2002年09月11日(水) まぼろしのようなひとだと今にして思うあなたは本当にいた? 飯田橋並んで歩いた夜のこと 夢か現かわからなくなる ……… - いのち絶えゆく - 2002年09月10日(火) 曾祖母の いのち絶えゆくさま照らし 灯火は揺れる日々細々と ****************** **** ** * 多分、もうそんなに遠い先の事じゃないのだ。会う度に目に見えて衰えてゆく曾祖母の躰はどんどん縮んでゆくようで、私はそれに気付いて時折ぞっとする。「近い」 という事に直面して、やがて来るその日の事を考える。古めかしい紫の房の下がった襖の向こう、曾祖母の部屋には随分長いこと足を踏み入れていない。彼女は頑固に自宅で暮らす事を望んでいるけれど、病状と周囲の状況を考えたときにそれが即ち本人のためとは言えない。 - 朔夜たのしき - 2002年09月06日(金) 風ぬるく 見知ったどこかに似た街の アスファルト踏む朔夜たのしき ………… - 鱗が綿へと - 2002年09月05日(木) 我が肌の 鱗が綿へと姿変え 降りしきる世界真静かであれ ***************** ***** ** * 初めての名古屋。夜の繁華街はとても賑やか、街の感じがどこかに似ていると思っていると、友人が「新宿三丁目みたい」。名古屋コーチンの専門店で鶏肉のお刺身を頂いて、白レバーに感動する。ちっとも生臭くない、ふっくらとなめらかで、舌の上でとろけるよう。お肉の生食は割と好きなのだけれど、こんなに凄いと思ったのは初めてだ。 - 探偵未遂 - 2002年09月04日(水) お店を出て、駅の正面玄関につながる信号は赤。「ここから入ろうか」と地下通路への階段を全員で降りようとする時、「わたし、ちょっと寄り道して帰るので…」 と、さやちゃんが微妙に不自然な別れ方でササっといなくなってしまう。こんな時間に一体どこへ、と残りの面子は釈然としない面もちで顔を見合わせる。そこで突然、既に階段をいくつか降りていたゼンショー君が「そんなもん、追いかけるに決まってるだろう」 ときっぱり言い放つと、当然のようにきびすを返して後を尾け始めた。私はその確信犯的な口調がおかしくて、笑いながら隣に並ぶ。ゆう子さんと龍田君は、「え、え、いいんでしょうか、こんな事して…」 とおろおろしながらついてくる。 夜の街をひとりで進んでゆくさやちゃんのピンク色のカットソーをずんずん追いながら、更にこのかわいらしくてたちの悪い酔っぱらいは言うのだ。 「ばかじゃねえのかあいつ、改札で別れてからこっそり行けばいいものを、あんなとこで。尾けるに決まってるっつーの」 こんな事を言っておいて、あまりに堂々と尾行しすぎた為に、彼は割とすぐに気付かれた上にいとも簡単に捲かれてしまった。こんなダメな酔っぱらい探偵、面白くて目が離せない。 - きみと泣き - 2002年09月01日(日) きみと泣き 笑って過ごしたまばゆさを いつか思い出すだろう別地にて 泣いた日もあったそれでも最後には 笑ってた顔ばかり思い出す ……… -
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