夕暮塔...夕暮

 

 

吐息さえ - 2002年04月30日(火)

吐息さえ 触れる程そばにいるうちに 何もかもが意味を変えてしまった





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突然に新しい仕事が降って来た。そろそろだろうと思っていたのでそれ程戸惑いはないものの、アドバンストの方を任されるのは正直荷が重いだろうかと少し逡巡する。風邪薬を飲んで睡魔に身を任せると、おかしな夢を見た。4つ立て続けに見た筈なのにひとつしか思い出せない。周囲に習って靴を食べようとする夢、何かを示しているようなそうでないような、どうだろう、微妙な線だと思う。ずっと覚えているようならそうなのかもしれない。
最近復帰したお茶のお稽古、体調と雨模様を考えて休もうかどうしようか迷ったけれど、やはり行く事に。お稽古用のスカートを探すうちに時間が迫ってきて、焦ってしまう。いけない、もう出ないと。次回までに探しておこう。


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花灯り - 2002年04月29日(月)

ジャスミンがふわり清らかに香るから ひとりで歩ける そう思いました




あの人のゆく道を照らせ花灯り 月隠る晩も惑わないように





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恋を説く - 2002年04月28日(日)

恋を説く喉がかすかに震えてる もう一度きみを 信じてみようか




歌う君の 喉の震える様見れば 我が胸もまた春に高鳴る





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「4年も黙ってたからねえ……今更言い難いのよね…」
それは全くだ、と私は深く頷く。彼女は恋人に秘密を持っている。付き合い始めて4年以上、その事をおくびにも出さず続けてきたらしい。「でも凄いことだよね…本当に凄いと思う」 もう1人の友人が心底感嘆した様子で言う。けれど恋人に対してだけじゃなく、彼女は全体に秘密主義なのだと思う。恋人の話も、こちらから尋ねない限りは決して話題にしないし、尋ねた事についても余り詳細を述べるタイプではない。はぐらかしているのと紙一重の受け答えをする事もある。私はおそらく彼女の最も親しい友人の部類に入るだろうけど、まともなのろけなんて聞いた事もない。優しくて壁の少し高い人、恋人といる時の彼女を見てみたいと思う私は悪趣味か。


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名を呼んで - 2002年04月26日(金)

名を呼んで 笑って囁き手をのべて 求めるほどに かつえてゆくようで




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友人とコンサートへ。一昨日急に招待券が手に入ったからとかかってきた電話、私は彼女みたいな熱烈なファンというわけではないけれど、なかなか好きなアーティストだったので、二つ返事で同行させて貰うことにした。友人の父親が役付き職を務める大企業、そのCMソングを彼らが歌っている関係で回ってきたチケットらしい。チケットとは言っても席の場所の記載がない。「きっといい席なんだろうけど…どこなんだろうね? すごい前の方とかだったら、どうしよう!」 彼女はすっかり舞い上がっていて可愛い。素直で感情表現豊か、プラスもマイナスもストレートに、胸を開いて人と付き合う彼女の姿勢が私はとても好きだ。

早い夕食を摂って、彼女のお母様と合流して会場へ向かう。もの凄い人の渦で入場口もごった返しているが、スタッフの人に招待状を見せて入り口を尋ねると、マスコミや関係者用の特別ゲートへ案内される。受付で芳名帳に記名を求められて少し驚く。勿論荷物などノーチェックで、「ロイヤルボックス」と書かれたチケットと、「終了後、楽屋へご案内しますので、こちらのラベルをお貼り下さい」とゲストシールを渡される。今度こそ本当に驚いて、仰け反りそうになった。
「……ほ、本人に会えるって事…よね!?」 受付を離れて、切羽詰まったように呟く友人の顔が見る見る赤くなっていく。何だか私にも伝染してしまいそうな位、彼女が動揺しているのがわかる。

「…死んじゃうかも」 と真剣に言う彼女を冷ややかに見つめるお母様は、既にお仕事用の顔になっていて、その対比が少し面白くて困る。


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君を無理に閉じ籠めて  - 2002年04月25日(木)

朝見かけて気になっていた、芍薬を買って帰ることにする。小雨が降り始めているから少し荷物になるけれど、仕方ない、我慢しようと思う。3〜4本ずつ束ねられた包みの内のどれにしようか少し迷って、固い蕾と少しほころんだ蕾、僅かに花開いた状態のものとが1本ずつ入った包みを選んだ。帰宅してひと息ついてから、水切りして花入れに活ける。もう少し葉を落とした方がいいのかもしれないと思いながら、とりあえず定位置の靴箱上に置いてしまう。夕食後、レンタルビデオショップに出掛けようとして、もう随分花が開きかけている事に気付いて、少し悲しくなった。ああ、やはり。衣類乾燥機の位置のせいで、うちの玄関先と廊下はいつも暖かいから、玄関に花を活けるとどうしても咲き急いでしまうのだ。…けれど玄関を開けた時に花が目に入るのは、帰宅時のささやかな愉しみだし。困ったなあ。




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この胸の檻に君を無理に閉じ籠めて 満たされるような恋ならいいのに





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青白く - 2002年04月23日(火)

青白く わたしの姿したひとを 土から引きあぐ 明け方の夢




明け方の 夢にて己の姿した 青白き人を引きずりあげしと




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洞窟に入ってはいけないと警鐘を鳴らす家族を尻目に、彼らが決して入って来れない、入って来ようとしない暗い洞窟の中、一心不乱に土を掘る。見つけた誰かの腕、青白いその手首を掴んで一気に引きずり上げると、「それ」は自分の姿をしていた。




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これは私の夢の話ではない。お酒を飲んだ帰り、地下鉄の中でこの話を友人から聞いた時の衝撃を、わたしはずっと忘れないだろう。涙が滲んだ。恐ろしいのか感動したのかわからない、とその時思った。ただその衝撃に激しく心震わせられた。…意味自体は、とても解りやすいのだと思う。ある意味ストレートな夢。けれど単純だとは思えない。

それは見てはいけない何か。知らない方が幸せでいられるのかもしれない、でも私達はその蓋を開けたいのだ。どうしてかは解らない、しかしそういう人に育ってしまった。それだけは確かなこと。


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許される朝 - 2002年04月22日(月)

許される朝もいつかは来るものと 願う夜(よ)の夢は深くてあさまし




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声を失って - 2002年04月21日(日)

さよならと言った後声を失って いつまでも慣れぬ自分を罵る




もういらない 嗄れてしまえば楽になる 別れを告げる為の声など





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春夏に愛用している、白い布のバッグを洗う。光沢のある太い繊維でざっくりと編まれた、小さめの舟形トート。ぬるま湯に浸して、洗剤の泡の中で押し洗いする。ブラシがないとシミが落ちないかもしれないと思い、新しく買ってきたお風呂用のブラシを下ろす事にした。このバッグ、どれくらい使っているだろう。見る間にきれいになっていくのに感心しつつ、買った時の事をぼんやり思い出す。確か夏だった、駅近くの可愛らしい品揃えのセレクトショップ、あのお店がオープンしたての頃だったろうか。ふらりと立ち寄って一目惚れした気がする。しかしいつの夏だろう。少なくとも去年ではない筈だから、一昨年か……もしかしたらその前の年かもしれない。
女の人には珍しくない嗜好だと思うのだけれど、バッグがとても好きだ。昨日もひとつ買ってしまった。先月も買い求めている事を考えて自重しようと思いながら、それにしてもあまりに好みだったので、さんざん迷った果てに結局レジまで行ってしまった。ああ、ダメだ、弱いなあ…。


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西明かり - 2002年04月20日(土)

西明かり 共に眺める窓の外 息をひそめて君は何を待つ




暮れてゆく春を思えば囚われる 息をひそめるようにして孤独





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「その話、ここではもうしないでね」 
ああ、今の質問は失言だった、と瞬時に理解した。内容や言い方もそうだけれど、タイミングが悪すぎた。極度の疲労状態で突然降ってきた新しい仕事に、彼女が激しく苛ついている事を考慮していなかったのだ。それでなくても、上司の高圧的な態度に対する嫌悪について先程まで語っていたばかりだというのに。
1人になったセクションで反省しながら、私は彼女の閉じたドアを見つめて、じわりと全身を滲ませる脱力感を味わっている。手足は鉛を付けたように重くなるのに、身体の内側が自己嫌悪の渦でざわめくような感覚。総じて不穏と言うべきか。心と体が連動するその様相を、感覚を研ぎ澄ませて吟味する。



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一生の春 - 2002年04月19日(金)

どんな人に その名を受けたか淡き花 可憐なあなたは「一生の春」



一生の春と呼ばれる君に名を 贈りしはいかなるロマンチストか




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「一生の春」はサツキツツジの一種。白と淡紅紫の花弁に、霧吹きで入れたように濃紫の紋様が入っている。ツツジは映山紅とも呼ばれる。


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満天星の - 2002年04月18日(木)

満天星(どうだん)の 花は暮れてゆく春の夜の 道をほのかに照らすしるべか




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降りては戻れぬ - 2002年04月17日(水)

心には 地下帝国があるという 降りては戻れぬ昏い階(きざはし)




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恋と生を - 2002年04月16日(火)

恋と生をはかりにかけし君はいま いずこにて誰を思い泣くのか




恋の為に 死ねるとはやはり思えない あなたは今ならなんて言うだろう





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緑濃くなりゆく外界を感じれば、思い出すひとが1人。まだ若すぎるほど若かった彼女は、恋の為にすべてを捨ててしまった。学校も友人も、家族も、未来も。持ちうるものを何もかも手放して、あのきれいな女の子は何を得たんだろう。私は未だに彼女の眠る場所を訪れる事ができないでいる。


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冷たくするけど - 2002年04月15日(月)

忘れずにいてくれてどうもありがとう 冷たくするけど 嫌いじゃないです




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何が変わるだろう - 2002年04月14日(日)

今ふいに キスしたら何が変わるだろう 聞かせてあなたの本当のこと





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暫く使っていなかったメールアドレス、久々にチェックしてみると新着がひとつ。随分前に少しだけお付き合いした子からだった。近況をごく簡単に告げた短いメール、会いたいと締めくくられているけれど、ちっとも心動かされない。今更何を、というのが正直な感想だ。
最後に受け取ったメール、そういえばあれもこんな感じの内容ではなかっただろうか。あの時のほうが、もっとずっと未練がましい雰囲気だったけれど。小さく溜め息をつく、このアドレスを捨てていなかったのは失敗だったかもしれない。
メールはさっさと削除した。送信の日付は少し前だ、きっと向こうももう諦めている頃だろうと希望的に観測して、私は携帯の番号を変える事を考える。ああ、でも電話する勇気があるならメールなんてしてこないだろうから、それは大丈夫か。
この冷たい対応の仕方を選ぶ事に、私の心はあまり痛まない。私を切り捨てたのは彼の方からだった、その事実が非情に振る舞う事への罪悪感を払ってくれる。 …ごめんね、優しくしないよ、と私はひとり胸の中だけで呟く。


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ひとつの棘すらない人に - 2002年04月13日(土)

たおやかで ひとつの棘すらない人に なりたいだなんてもう思わない




そっけなく去りゆくあなたに感謝する 振り向かないでね 泣きたくないから





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言葉よりよほど - 2002年04月12日(金)

気まぐれな あなたの掌は暖かで 言葉よりよほど正直だったと




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傘を買った。前のは、実は実家に帰った時に置いてきてしまったのだ。気に入ってはいたけれど、わざわざ送って貰うのも大変だし(傘の入るような箱なんてなかなか無いだろう)、それ位ならと思って、前お店で見てからずっと気になっていたのを迎えに行ってしまった。少し生地が薄いのが気になるけれど、雨の日にも気持ちが浮上しそうな、淡くてかわいらしい模様。嬉しい。空ばかりに気を取られて暮らしている私には、雨がとても辛いから、この傘があったら雨の日にも心に張りが出ていいだろう。この高揚感がいつまで保つかはわからないけれど、私はこの傘をきっととても好きになるような気がする。




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ああ、またあの子のいない生活が日常になろうとしている。瞳の三日月のカーブ、目尻のはねる笑顔を思えばたまらなく寂しい。けれど仕方がない、選んだのは私なのだからと自分を無理に説得してみるが、一瞬の後には空虚だ。




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寂しくまばゆい - 2002年04月11日(木)

先に手をほどくのはいつも君でした 寂しくまばゆい別れの朝まで




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黒曜のひとみの君が - 2002年04月10日(水)

黒曜の ひとみの君が星の夜に 傍らで眠る この幸福を




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みずみずしささえ - 2002年04月09日(火)

帰れない日を思い涙流すそのみずみずしささえ直視できなくて





帰れない 留まらず時は流れゆく 君の焦燥をはぐらかしても






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「県展にお出しになる額が、届きましたので…」
祖父が近頃贔屓にしている写真屋さんから午後の電話、私は「お世話になっております」と代わりに挨拶をして用件を聞く。この間お会いした女性の店長さんだと思う。祖父に一分ほど遅れて入店し、現像に出す写真の申し込み用紙に苗字を書き込んだ時、あれ、不思議そうな表情をされた。私が祖父の孫と知って、もう一人の従業員の女性と共にとても驚いた様子だった、おそらくこんな大人の孫娘がいるとは思わなかったのだろう。もとより若く見える人だけれども、この人達には祖父はいくつくらいに見えているのだろうか。

「どんなのを出品するの」
「写真…」

それはわかっています、と私は笑う。絵画を出すなどと言われたらそれこそ腰を抜かす。ある意味非常に興味深いけれど。

「見るか」 夕食後、祖父が居城にしている和室で問う、勿論私は喜んで受ける。黒い背景に切り取られた空の写真、野と樹と空の自然風景、けれど空の比重が高く、雲の層が橙に眩く輝いている。たまらなく美しい。夕暮れですかと尋ねた私に、祖父は少し得意げに言う、「これは朝に撮った」。
「前兆の朝、という題名にしようかと思ってる」
いい名ですねと小さく呟き、暫く黙って額を眺める。この写真について余計な言葉を述べることを避けたいと私は思っている。予想が外れたからではない、あまりに崇高で美しいからだ。こんな空を目にしたら、私は多分何も言えなくなる。







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あれが地の果て - 2002年04月08日(月)

春の夜の彼方に真珠は連なりて ゆらめき輝く あれが地の果て






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田舎の夜の闇は濃い。街灯の光も浴びずたゆたう濃密な夜、遠くで流れる車のライトは一線に連なり、その明かりが空と地の境を示している。糸が切れてばらばらになった真珠のネックレスはきっとあんな風だろうと思う。


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春長けて - 2002年04月07日(日)

春長けて 行く先も知れぬこの恋に 時は満ちたかと花が囁く





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すべて塵にして - 2002年04月05日(金)

このままでいられないなら眠りたい あなた以外を すべて塵にして



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夜の御国で俯きて  - 2002年04月04日(木)

出口なき 夜の御国で俯きて 誰をか待つや その頬に泪






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夕食を摂って入浴を済ませても、7時にもならない。
東京とは時の流れ方がまるで違うのだと思う、少なくとも私一人の生活の上では。
陽はとうに落ちきっているけれど、西はまだ僅かに明るい。水の上に透明水彩をいっぱいに流したような空、青碧に淡い黄が滲んでいる。少し夜が濃くなったところに最初の星。 3階の弟の部屋、はるか遠くまで見渡す事ができる窓を開けて、火照った身体に夜風を受ける。冷たくて気持ちいい。風に乗ってどこかから猫の鳴き声。部屋の暗さに目が慣れるにつれて空に星が増えていく、この時間がとても楽しくて幸せだと思う。淡くオリオン座を見つけて私はひっそり喜ぶ、誰に告げるわけでもなく、ひとりきりで幼稚な歓喜に浸る夕間暮れ。



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鳥の歌高く空に満ち  - 2002年04月02日(火)

名も知らぬ鳥の歌高く空に満ち 見はるかす野はみどり若草





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君眠る春はましずか  - 2002年04月01日(月)

君眠る 春はましずか その夢の端に立ちたく目蓋閉じる午後




君眠る 隣にひらりと滑りこむ 風は梅の香 春はましずか





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深夜、2階リビングのベランダに出て夜の空気を吸い込む。左手にはビールの缶。玄関向かって左に咲く白梅は今が盛り、涼やかな気品のある香気が一帯に満ちている。欠けてゆく月は僅かにおぼろ、梅の花はその光で雪が積もったように見える。私は幸せな気持ちで暫し月見と花見を楽しんでから眠った。



















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