夕暮塔...夕暮

 

 

許すほどには - 2002年01月31日(木)

時まかせ あなたが口にした嘘を 許すほどには優しくなれない




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100パーセント、私の味方をしてくれなくても良かったのに。ただ一言、私が欲しい言葉を、望む形で伝えてくれたら良かった、それだけで。嘘をつくつもりなどなかったと知っている。けれど許せない、真剣に尋ねた事に対して本気でない約束を簡単に口にするひとを、どうやって信じたらいいのかわからなくなる。私はあさはかだろうか。「失望したと、伝えて」電話の向こうで狼狽した雰囲気、わかっている、少し迷惑をかけてしまう。そんな報復めいた言葉を吐かずにいられない自分に歯噛みする。


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「このカレンダー、本当に素敵だったけど、今日で終わりね」台湾人の秀さんが呟く。黒井健のカレンダー、2001年版が1月末で終わったのだ。春に私が持参して飾った、そんな高い所に手が届くなんてと感嘆されたのを覚えている。「…うちにあるカレンダー、持ってこようかと浅井さんと話していたんですけど……これがあまりに素敵すぎて、気後れしてしまって。本当に綺麗だから」と笑う。穏やかな淡い冬の風景、柔らかなパステルの世界。ああそうだ、新しいのは手元にある。持って来ようと思って失念していたのだ。
帰宅してから取り出してみる。12月の絵が一番好きだと思う。晴れた日のさびしげで眩しい冬の日暮れ。


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チョコレート - 2002年01月30日(水)

夕べ買ってきた生チョコレート、いけないと思いながらも一晩で食べきってしまった。朝方まで研究を練っているうちに、1つまた1つと。ああ、こんなのは良くない。でもこんなことをしてしまう理由はわかっている。空では日増しに月が円に近付いていく。私の中でも。


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眠りについたか - 2002年01月29日(火)

虹の輪の 煌めく月追う夜しずか 薔薇の雲も早や眠りについたか  




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晴れた日の夕暮れ間近特有のばら色の雲、こんな絵を確かイタリアで見たと思う。旅した日々の事を考えながら、ゆったりと流れる車両に揺られる。
満ちてゆく月に虹の影。電気の消えた不動産屋の前に貼られた物件案内を眺めながら帰宅する。バッグの中には生チョコレートがひと箱。



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風の夜の星 - 2002年01月28日(月)

忘られぬ 傷を深くに隠したら 濡れた目で仰げ風の夜の星





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この部屋を出て、ひとりで暮らす日の事を考えている。このとても気に入っている街がhomeでなくなる事、住み慣れたマンションを手放す事を憂えている。
ネットで数社に簡単に査定して貰った結果は悪くない。低い方のラインで伝えてみると、父は「ああ、そのくらいでいい、十分十分」と。この部屋の持ち主は両親だが、処分については大した感慨もないらしい。仕方のない事だけれど。両親にとってはここは都会のささやかな別宅みたいなもので、あれば便利だし売っても構わない、その程度のものなのだ。
寂しい、離れがたい、この部屋も、穏やかなアンティークの街も。心から。なのに誰に伝えても栓ない言葉。



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高くいま高く - 2002年01月27日(日)

しろかねを 駆けゆく君の息はずむ 銀の雪雲は高くいま高く




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あんな薄着でどうして雪の原を走れるんだろう。寒くないのと問いかける私の声は僅かに呆れているのに、表情は明らかな憧憬を伝えているに違いない。彼を見る、目で追いかけている時のわたしは、とても優しい目をしていると思う。それこそ彼が呆れて口もきけなくなるくらいに。無言で背中を向けて雪を渡る姿は身軽でのびやか。…今、振り向いて、笑ってくれたら。


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冷たい目 - 2002年01月25日(金)

いいですね愛妻弁当、からかい半分な調子で羨ましがってみる。正直な所真剣に羨ましい。作ってくれる人はいないし、自分で早起きするには時間が惜しい。今日の私の昼食は、駅構内のきれいなカフェで買ってきたシュリンプとトマトのサンド。
こんなもの、無理矢理持たされているんだよと退職校長は笑う。そして「先生、何か書くものを持っていますか」。何だろうと思いつつ手帳のフリーメモのページを差し出す。青い上質紙にグレーの罫線、こんな上等なところに失礼と言いながら金色のペンでさらりと力強い達筆が走る。

「出たくない日にも靴をそろえられ」

笑っていると、気をよくして下さったのか、今度は赤いボールペンでもう一句。

「冷たい目 いいえ私の 気の迷い」






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決して離すな - 2002年01月24日(木)

月の木影 かすかに震えし我の喉 かく絡め取り決して離すな



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迷うこともせず - 2002年01月22日(火)

この道を ゆくことが誰の為なのか 迷うこともせず途方に暮れても




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さざめく - 2002年01月21日(月)

君と手を取りて眺めし海原よ 夜の彼方には不安さざめく





君が手を 取りて異国の夜の海へ 向かう胸の帆は風に荒ぶる






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ゆうべの些細な雑談から、数年前、南の島で夜の海へ向かった時の事を思い出した。
私も友人も、終わりとはじまりを迎えようとしていた時期だった。
広大な敷地を持つリゾートホテルでのんびりと過ごしていた日々のうちのある一夜、散歩の途中で誰もいない砂浜に立った。雨期の夜で星も月も見えなかったが、サーチライトが海を照らしていたから、海がさほどおだやかでない事がわかった。
隣に立った彼女が何を考えていたのかはわからない。「こわいね、なんだか」わたしたちはサーチライトに照らされた波の荒い海を目の前にして黙り込み、私はこれから来る障壁とその困難を思った。今となってしまえば随分軽々と飛び越えた壁ではあったが、当時の私に自信があるとは言えず、自信だとか不安だとかを論じる以前の、もっと漠然としたところにいた。未来を展望する事が時に恐ろしいという事実に、私はかすかに喉を震わせて夜を睨んだまま、もう帰ろうという友人の声を待った。




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春告げる夢 - 2002年01月19日(土)

君笑めば 空気ゆらめき立ちのぼる これは花の香 春告げる夢




薔薇の頬 向けて微笑めば花開く 君の呼ぶ春に僕はいるのか





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言の葉を - 2002年01月18日(金)

言の葉を 愛しみ憎んでもどかしく 振り回されても 手放すことなど 






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今日からまた先生と呼ばれるようになる。久しぶりの事なので最初は一瞬レスポンスが遅れてしまった。


「ねえ、先生、下の名前なに」
突然に色白の少年が問う、かれはまるで外国の子供みたいだ。私は振り向きざまに名乗る。遠い国の街の名前。
「思っていたのと、違った……」
たいして残念そうでもなく少年達はさざめく。そう悪い感じはしない笑い方だったけれど、一体どんな名をつけてくれていたのか。教えてくれたらいいのに、この年頃の彼らは時々秘密主義だ。





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水辺の月を - 2002年01月17日(木)

せめてもと 水辺の月を手繰っても 欲しいどこかに届くわけもない




焼け消えたものは帰ってこないから 代わりに私が歌おう さよなら






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ごまかす事は容易い - 2002年01月16日(水)

邪気のない風を装うこの笑みで ごまかす事は容易い それでも



太陽の下で好きだと言える程 私に勇気があればよかった




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鏡に問うても - 2002年01月15日(火)

睦月風ぬるくはためくマフラーを ばさり剥ぎ取る わたしは闘う



あの人はなぜに私を選ぶかと 鏡に問うても解のなきまま




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遠い国にて君眠る闇 - 2002年01月14日(月)

夜ひらく 花の名前を呟きし 遠い国にて君眠る闇



遠い国 眠れる君のその頬を 柔らかに照らす夜来香の花




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嘘をひとつ - 2002年01月13日(日)

嘘をひとつ あなたに隠し通すため もう二度と同じ朝を待たない




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久しぶりに自宅に友人を招くので、花を買って帰ろうと思った。ポピーの花、白と黄色、濃淡のオレンジ。春ですねえ、と店員さんが微笑む。ああ、本当に。季節のことなら花の色が知っている。
水色のガラスの花瓶にざっと入れた後、思い直して、昔お花の先生から頂いた、白くて変わった形の花入れに活ける事にした。茎の曲線に癖があるので、上手に花の顔を上を向かせられなくて苦戦したけれど、なかなか満足。


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明け方の夢に涙し - 2002年01月10日(木)

明け方の夢に涙し目覚めれば 冷たき枕に 悲しみが満つ



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遠縁の人が自ら命を絶ったと聞いた晩、母方の祖父と実家の祖母が亡くなる夢をみた。泣きながら目覚めると、随分涙を流していたらしい、しっとりを涙を吸った枕は冬の朝らしく冷えていて、我がことながら眠っている間にもどれほど泣いたものかと驚かされた。

幼い頃に一度会ったきりの、正確には血の繋がりもない、顔さえ覚えていない叔父。
未成人の子供ばかり4人、残して死ぬのには一体どんな理由があったのだろう。そしてどんな気持ちで最期の一瞬を。
噂の伝播の早い閉鎖的な海沿いの田舎町で、自殺した父親を持った子供が成長するのにまとわりつく苦難は想像に難くない。そんな事は叔父だって知っていた筈だ。
しかしそれでも、死ななければならないと彼は思ったのだ、おそらくは。

自ら死を選ぶという行為が、父には全く理解できないらしい。
まだ私が高校生だった時、何の拍子にか迎えの車の中でそんな話になった折、決然とした口調で父は言った。死ぬ勇気があれば何だって出来る、それなのに逃げて死んでしまう奴は弱虫だ。わたしは黙ってグレーのセーラー服のスカートの裾を見つめた。父は心の強い人だ。とても強くて、それゆえに僅かに傲慢だ。
父には恐らく想像すら出来ないような思考経路を辿った末に世を去った叔父の心象を、ごく僅か、ほんの一握りだけなら理解できるような気がする。これは私の傲慢さなのだろうか。答えて欲しいわけではないが、答えをくれるべき人がこの世にいない事を思うと、どうにも痛々しく切ない。
















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星落つるまで - 2002年01月08日(火)

まばたいて 見据えよ今や雪闇の宿る瞳に星落つるまで






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ささやかな新年会。
焼き肉を食べて、少し飲み過ぎた少年(と形容したくなるくらい、ベビーフェイスで可愛らしい雰囲気をしている)1人と改札前で別れるが、どうも心配になるくらいポーっとしている。
「武之内君、大丈夫かな」
「うん、ちょっと心配」
「変なオヤジに突然腕組まれて、アイス食いにいくかとか言われたりしたら…」
「……それは俺」
2人で苦しくなるくらい笑う。まさにこの地下道で、かれは以前そんな妙な目にあっているのだ。








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胸に氷を - 2002年01月06日(日)

触れられぬ 氷をひとつ抱いている 隣にいたなら水になるのに



降り積もる音を君にも聞かせたい 耳に痛くて胸には熱くて




…………




氷塊。自分では触れられない、誰かが触れてくれたらと望む事すら傷になる。誰のためにも。



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雪嶺温泉記 - 2002年01月05日(土)

温泉に行こうよ、と昼前に起き出した私が言う。
ゆうべ寝る前にも一応話を振っておいたのだが、両親ともレスポンスは悪くなかった。
でももう昼よと母が少し渋る。ロールカーテンが年中上がりっぱなしの大窓から見える外は雪模様で、外出意欲を失ってもおかしくないとは思う。けれどこればかりは譲れない、雪見風呂くらい素敵なものはないと私は思っている。父は黙ってソファでTVを観ている。こんな空気の時の父の肯定を私は疑わない。伊勢丹か温泉どっちか行こうよと食い下がってみると、「伊勢丹はだめ、昨日もお買物したし……温泉、行くの?」父に判断を委ねる。当然返事はイエスだ。

温泉までの道のりの途中にある、父の親友が商っている手打ちうどんのお店へ寄り、おいしい(義理ではなく、本当に絶品だと思う)うどんを頂いてから咲花温泉へ向かう。鄙びた温泉街で、雰囲気とお湯がいい。
父が贔屓にしていた旅館の駐車場がいっぱいで、隣にあった別の旅館にする。外壁がコンクリート打ちっぱなしになっている和風の玄関は、最近改装したばかりなのだろう、とても綺麗で趣味がよくて感心してしまった。自分の家がこういう感じでもいいかもしれない。
残念ながら露天風呂はなかったが、浴場の一面が高い天井までガラス張りになっていて、ずらりと雪の嶺が見える。山は大きくカーブを描いて、その手前には広い川が横たわる。さらさらと粉雪が舞っている。日本画のようだ。掛け軸になっている、山水画そのもの。広い湯に母と私の他にお客さんはいない。私はこの幸福な時間のあとにくる煩雑についてふと思い描くが、すぐ考えない事に決めてしまった。
時々休憩しながらぼんやりと長い時間入浴すると、足の先まで内側から暖まるようで気持ちがいい。
帰りの車の中では、渋っていたことなどすっかり忘れたように母が幸せを語る。
家では犬が私の帰りを待っている。1日1度のお出かけの時間を心待ちに。


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雪の原に雷 - 2002年01月04日(金)

冬雷がじわり近づき面上げる 君は恐らく神をも怖れじ



雪原を照らし瞬く遠雷の ほの青白きプラチナの波



ゆきのはら 雷落つるその後に 神をも怖れぬ君の目を覗く




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朝から買い物に。なんだか今年は元旦から連日買い物に出ている気がする。
今日はバッグを2つ。コーチのハンプトンズのシリーズ、ベージュ色を母とお揃いで。サイズが丁度よくて使いやすそうで、一目惚れみたいなものだったと思う。鞄は沢山入るのが好きだ。
午後からビデオをレンタルしに行く。雨で午前までの雪が溶けて、足元がひどい有り様だ。もうしょうがないので、苦笑いしながらばしゃばしゃ歩く。その後ドラッグストアにも寄る。父はどうもリアップに興味があるようだが、店員さんに質問するまでの意欲はないらしい。今度こっそり質問してみて、大丈夫そうならプレゼントしようかと思う。引っ掛かるのは心臓疾患だっただろうか、血圧だっただろうか。
帰宅してから、犬の散歩へ。ファーの縁取りのフード付コート、リビングにかけてあったのを勝手に拝借してしまった。中に入っているのは羽毛だろうか、風を通さなくてとても暖かいけれど、暗くなってからの散歩には真っ黒は危険かもしれない。車のライトが近づいて来ると少し不安になる。
日暮れ後の灰銀の道を歩く間にも、雷がどんどん距離を縮めて来る。最早遠雷とは呼べない。地平では滑るように車のライトが流れている。瞬時に世界がまたたく、昨夜見た星の色に似ていると私は思う。雷は怖れるべきものだと子供の頃に聞いた気がするのに。














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カシオペヤ光る真下走りて - 2002年01月03日(木)

雪の雲ふと途切れ仰ぐ星の海 カシオペヤ光る真下走りて





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雪が止んで、滅多にやらない位のレベルで防寒対策をしてから犬を連れ散歩に出る。強風に煽られて重そうな雲も流れているらしい、見る間に台風の目のような穴が開いていく。


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降り積む - 2002年01月02日(水)

この冬をあなたと越したい そう願う矛盾は降り積む白に埋もる



恐るるに足らぬ些事よと誘惑す 考えなしと呼ばれることなど




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今日は大雪。おかげでゴルフに行く予定だった父が家にいる。朝早くから、「今日は中止で」という連絡をゴルフ友達にまわしているのを聞いた。その横で私は笑みを浮かべる、今日の予定はお買い物に変更。
リビングの窓から見える、松の枝に積もった雪が重そうだ。

お正月の花を活けるのは、ここ数年私の仕事になっている。
花入れは決まって黒のマットな焼き物、手前に金がひと刷毛入っていてお正月らしい。玄関の靴箱の上が定位置だ。松と万両、白菊、カスミ草、金にスプレーされた枝、紅白の水引を仕上げにくるくると捩って飾り付ける。金色の枝(何の枝だろう?)はたわめて、活けた花の背景になるように円く2つ入れた。
松のヤニが手に付いてしまって、なかなか取れない。薬品がないと、洗剤や石鹸ではちっとも落ちないのだ。薬品…ストックがあっただろうか。ううん、ちょっと困った。





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除夜の鐘、突けず。 - 2002年01月01日(火)

日付が変わってから例年どおり鐘を突きに行くと、丁度百八を数え終えた所だった。目の前まで行って断念。残念に思いながらお参りをして帰宅する。
群雲の中天には欠け始めた月の青白い影。

夏に始めたこの短歌日記も、無事年を越すことが出来た。素直に嬉しい。
見て下さっている方々、たまに投票して下さっている方も、本当に有難うございます。今年ものんびり頑張りたいと思いますので、宜しかったらお付き合いくださいませ。
皆様にとっても良い1年となりますように。


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