夕暮塔...夕暮

 

 

雪の夜をゆく - 2001年12月31日(月)

君を連れ 雪の夜をゆくなめらかさ サンルーフから満ちた月見ゆ





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今日から暫くの実家暮らし。
東京の暖かさとは比ぶべくも無い程の冷気に満ちて、濃い雪雲が空を覆っている。
サンルーフを開ける。勿論硝子戸は閉めたままで。輪郭がぼやけた大きな月が見えた。雲が薄くなった所から、ほんの少しの間だけだったけれど。
昨日届いたきまぐれなメール、あの人はもう自分の家に帰っている頃だろうか。タイミングが悪くて会えなかったことが悔しい。
こんな風に冷たくて広い空に登った月を、かれも見ただろうか。




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地平は茜に - 2001年12月27日(木)

枯れ野原 地平は茜に燃え立ちて 炎のひとみの猛き青年




枯れ野原 茜に燃え立つ地平負う君よひとみの炎は真か





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深海灯さえ - 2001年12月25日(火)

ああ夜よ 深海灯さえ届かない 嘆きの底へと我らみちびけ



夜が招く 君と我との奈落には 深海灯さえ届かぬと知れ




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クリーニングに預けていた着物を受け取りに行ってきた。
鮮やかな水色に淡い桜模様。包みを解いてそっと生地を撫でてみると、つやのある織りの感触が心地よくてしばし陶然としてしまう。
ああ、美しい。お着物の生地は本当に好き。
前々から考えていた洋装の時に持てるような着物生地のバッグ、やはりひとつ欲しいと思う。
でもあれは、なかなか好みのものが見つからなくて難しい。デザインがあまりに和風では釣り合わないし、生地が安っぽいと満足できない。生地の良し悪しがはっきりしすぎていて、デザインが良くても生地が駄目だと一気にその気がなくなってしまう。勿論その逆も。
時間がかかってもいい、妥協無しで欲しいと思うものに巡り会いたい。自分で作れたら一番いいのだけど、少々…いやかなり困難………、かな…。


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無闇に満ち足る - 2001年12月23日(日)

冬の色し 霞む夕陽は硝子越し 無闇に満ち足る今日もまた過去





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午後、散歩兼買い物に出掛ける。こんな天気のいい日に外に出ないのは勿体ない。
初めて寄った住宅街の中のコーヒー豆屋さんで、注文して待っている間にデミタスカップにコーヒーを出して下さる。こういう事はとても嬉しい。1人で店を切り盛りしているおじいさんは、ご健啖でかつぜつよく話す。色んな話を聞く。朝6時半からの公園での体操の事、今も続けている山登りの事(富士山では毎年ゴミ拾いのボランティアをなさっているとか)、昔は銚子の漁師さんでニシンが良く獲れていた事、それを干しかにして米所で肥料にしていた事。
どうも総合すると、山にゴミなど捨ててはいけない、肥料は化学肥料を使ってはいけない、というあたりに集約される感じ。
それにしても、本当にお元気な方で嬉しくなる。90歳だなんて信じられない。私の茶道の師範と同い年。先生も恐ろしくお元気な方と思っていたけれど、この人には完全に負けるだろう。

今日は父の誕生日。駅までの道を歩きながら、久しぶりに父の携帯のメモリを呼び出す。もしかして仕事かもしれないと思いながら。
「お父さん、誕生日おめでとう」
「ああ、ありがとう」
「今日はお仕事?」
「いや、休み」
他愛もない会話。今日は母の実家にいるらしい。叔母が胃を悪くして入院したとの事、様子を尋ねると「元気だった」と笑う。いつ帰省するのか尋ねられ、今年は少し遅めなのでちょっと言い難いと思いながら伝えると、父はふうんと返す。遅いから寂しいだなんて言う人ではないのだ。
早く帰省して、あのがちがちの肩をほぐしてあげたい。

考えてみれば父には似ていない所だらけだ。何人子供がいても、誰も父を超えられそうにない。無理に私の方が勝っている所を探してみると、私は学歴だけなら父を上回ったと気付く。ああそんなもの、本当につまらない。なんて取るに足らない物差しなんだろう。却って虚しくなってしまった。
もうやめよう、そう思った所で、身長も追い越した事に思い当たった。これは父親としてはかなり嬉しくないだろうな。

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ああ、胸に、くすぐったい懸念がある。困惑しながら不幸ではない、これをどうしたらいいだろうか。


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一生の熱を奪えたら - 2001年12月22日(土)

あなたから一生の熱を奪えたら 二度と誰にも恋しないでしょう




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昨日の初雪から一転して快晴で、暖かい日だった。
といっても雪が降るところを見てはいないのだけど。
例によって朝帰りに限りなく近い深夜に帰宅して、午後までぐったりしていた。ワインを飲み過ぎたらしく、気分が悪い。久しぶりに少し反省。
今日の飲み会はパスしてしまった。



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距離をはかれば - 2001年12月19日(水)

いざふたり 距離をはかれば切なくて 真意はいずこと 迷いこむ冬




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5時間40分、友人と徹底的に話す。こんな事はちょっと久しぶり。人間関係のこと、かなり心配な共通の友人のこと、組織の現行システムを改変すること、恋愛のこと。
人と深く関わること、真摯に向き合うことを望む彼女の姿勢が、私にはとても好ましく映る。言葉にするのには照れてしまう人だって多いし、悪い事だとは全く思わないけど、真っ直ぐにぶつかる事だって時には必要で、その潔さが心地いいと思う。


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君の悲傷を愛そうと - 2001年12月18日(火)

愚かしい君の悲傷を愛そうと 救われぬ予感 無視して抱き取る




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恋に彼岸などあるわけもない。腹立たしそうに吐き捨てるそのひとの傷に、できれば触れないようにしたかった。深く胸の奥を探り、言葉にするほどに傷は深くなっていくように見えた。けれど彼は触れて欲しいと望んでいた。傷はもはや化膿して毒を孕み、その毒を吹き出す相手として選ばれたのがわたしなのだった。癒して欲しいという無言のメッセージは、深く傷つけて欲しいと望む自虐性に、酷く似ている事がある。


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水晶の船 - 2001年12月17日(月)

未来を浮かべた水晶の船 
共に漕ぎ出す星月夜 
またたく瑠璃の過去紋が
なぞる指先で昇華する






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帰省の時期が近付いている。
からりと乾いた東京で、マンションから出る瞬間に雪の香りを感じるのは、帰郷を心待ちにする私の錯覚なのだろうか。





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見つめて黙するこの不誠実 - 2001年12月16日(日)

もどかしく 言い出せずにいる君の目を 見つめて黙する この不誠実



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殻を破り - 2001年12月15日(土)

殻を破り ほだされてしまうその前に お願い誰かに 早く恋して



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星を背にして - 2001年12月14日(金)

向こうみずと 罵られても 振り向かぬ しんと満ちわたる星を背にして



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快楽の庭 - 2001年12月12日(水)

快楽の庭に言葉は無かりきと 説く清冽な横顔いとし




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アユーラから発売されたオードパルファム、買おうかどうか迷っている。はじめて見た時からずっと。
瓶は恐ろしいくらい好みなんだけど、香りが物凄く飛びやすいそうで、それはちょっと寂しい気がして。どうしようかな。
とりあえず明日もう一度カウンターに行ってみよう。

ここ暫く電車の中で読んでいた文庫本を読了。奥泉光『葦と百合』。後半は胸を高鳴らせながら読んだ。まだ未消化な部分がある気がするので、少ししたら再読しよう。この方の小説、私はやっぱり『石の来歴』が一番好きなんだろうな。全部読んだわけではないからこんな風に言ったら本当はいけないのだけど。これから読む予定の作品が面白い事は確信していて、でもその上できっとあれがトップから動かないだろうと思っている。きれいにツボを突かれたものだ。


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宵の星 - 2001年12月11日(火)

熱帯びた 街は輝き 浮かれても 初冬の宵の星すがすがし




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クリスマス前特有の空気が日常の風景に満ちるようになった。勿論ネットだって例外ではない。財布の紐のゆるみを突いて消費を促す為に明るく暖かなイメージで飾り立てられたデパートや商店、それでさえも視覚を楽しませるように出来ている。
きらきらと光る街、あたりに満ちる幸福そうなムード。いつものように夜を見上げると、きりりと澄み渡った夜気に小さな星があって、その清冽さにはっとさせられた。地上でどれだけ浮かれていようとも、天体には関係ない。ごく当たり前の事だけど。



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雪を待ちたい - 2001年12月10日(月)

今どこで 誰と笑っているんだろ あなたと歩いて 雪を待ちたい



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凍土踏みしめ - 2001年12月09日(日)

誰彼と 寄りかかりたき心地せず 凍土踏みしめ 冬向かいうつ


結局は 人の心はひとりよと ちらつかせるよに 微笑んでみる



この壁を 破れはせでも ああ道よ 我は再びを 必ず望もう



冬の星 お前は何を導くか 過去の姿しか 見せないひかりよ




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潔く - 2001年12月08日(土)

きれいとか 優しいだとか きみのこと 思うから好きなわけじゃないのに



潔く つないだ指を払いのけ 木枯らしに独り 胸を張る冬




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夕方池袋へ。久しぶりに東口の喧噪の中を歩く。本当に歩きにくい所だ。お出かけプログラムでここへ来ると言っていた患者さん達のことが、少し心配になる。人混みを歩くのは疲れるだろう。でも平日ならもう少し人が少ないし、平気かしら。
本屋で用事を済ませた後、大きなドラッグストアに寄る。相変わらずお兄さんが大きな声で呼び込みをしている。寒い中大変そうだなと思っていたら、本人はちょっと笑っている。「何笑ってるんだよ」と親しそうな同年輩の店員さんがからかうと、「だって面白いんだよ」と。そうか。面白いのか。
ずっと探していた日焼け止めが売っていて、物凄く嬉しい。あちこちで探しては玉砕していたのだ。夏の間にまとめ買いしておくのだったかと後悔していた。良かった。

あと数日でボーナスを手にする妹に、焼き肉を奢って頂いた。一連の騒ぎで焼き肉屋さんから遠のいていたけど、ほんとはずっと行きたかったし、皆で行こうと計画を立てたりしたのだけど、「焼き肉なら今日は帰る…」と腰がひけてしまう子がいたりして、普通の居酒屋さんになるという事が何度かあったのだ。でも気持ちはわかるな、確かに怖い病気だとは思うから。
外で待ち合わせたのに、偶然に着ていたニットが色違いで(彼女が私の服を無断借用したのだ)、それが微妙に恥ずかしい。同じ顔で、似たような髪型で、お揃いの服、向かい合わせで食事。絵に描いたようでなんだか可笑しい。


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騙しうち - 2001年12月07日(金)

騙しうち 抱きついてきた別れ前 行くなと言えない 君のいたずら


抱き取りし 幼くやわきその背中 離しがたくて 時よ止まれと



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行かないでと言える程素直な子供でなく、行ってしまえと口にする程には屈折していなかったのだろう。騙しうちで抱きつかれた瞬間の息を飲むような驚き、その後の甘い切なさ、子供のからだの暖かさを、どうして忘れられるだろうか。ごめんね、ごめん、ありがとう。喜びと懺悔と共にあり、常に私をあたためるもののひとつ。



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触れあわぬ - 2001年12月05日(水)

行き交わす 人と目線は触れあわぬ 誰に伝える 言葉もないまま



歌をよむ こころは静かに流れてく 他人(ひと)の嵐は他人の嵐と




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時に私はわたしの残酷さを自覚する。明らかに大きな嵐を抱えているひとは、周りに何人もいる。何もできないとは思わない、できない事はないけれどそうしない時もあるということ。真冬に向かってぼんやりと活動性が落ちていく、その下降ラインが見えるように。
目には見えぬひとの嵐。渦中で苦しむ友人。そろそろ連絡を取ろうか。
そういえば、いつから私は「嵐」と呼ぶようになったのだったか。


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罪と誓いを抱き合わせ - 2001年12月04日(火)

くいしばり 罪と誓いを抱き合わせ 凡人なりとも ひと許さんとす




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夕方、コーヒー豆を買いに出た。道路を挟んで向かい側のコーヒー豆専門店。先日帰り際に訪れた時には営業していなくて悲しい思いをしてしまった。ベランダから確認すると明かりがついていて、硝子ケースの並んだ店内の様子が見える。よかった。極めてラフな服装で出かける。こんな時にあの失くしたサボを履きたいのに、未だに見つからないままだ。本当にどこへやったんだろう。時々思い出しては悔しい思いをする。
さてコーヒー、今まで割と適当にモカかブレンドを選んでしまっていたので、暫く色々冒険してみようかと思う。この間コーヒーミルを買ってから、ちょっと熱がついているのだ。実はミルククリーマーも欲しいけど、ちょっと我慢している。お店の人に尋ねながら、今日はグァテマラを100g。沢山買ってしまって口に合わないと怖いなあと思って。ガテマラ、と発音されたのが何だか新鮮。そういうものなのかな。
帰宅後、友人と長電話。業界でも有名な危険な人と繋がりを持とうとしている後輩に、危険を伝えるべきかという話。経緯を色々と聞いた後で肯定すると、やっぱりそうかしらね、と笑う。ああ本当におかしな人は多いけれど、振り回されないようにするのもこちらのスキルの内だね。そしてそれは私達にとって本当に大切な能力。あなたのことは猛獣使いと呼ぼうか、そう言うと笑っている。珍獣使いの方が適切かもしれない。

えひめ丸に乗っていた実習生、未だ発見されない高校生の所持物だったデジタルカメラから、画像が復元されたそうだ。公開されたものを目にして涙が出た。船の丸い窓から見える白い波頭と海。ただこれだけだったら、何ということのない明るい写真なのに。


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吹雪にいるのに - 2001年12月03日(月)

君を恋い どうして正気でいられよう 天地も分からぬ 吹雪にいるのに



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茶道文化の世界では、吹雪を雪吹と書くのだと習いました。見渡す限りの雪の白で、どこが天なのか地なのかすらわからないという所から、字の上下をひっくり返したのだそうです。人を好きだとか憎らしいと思う事は、どうして常識や分別やその他多くのものを人間から奪い、あるいは見えなくしてしまうのでしょう。






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剣を突きつけて - 2001年12月02日(日)

その胸に 剣突きつけてくちづけよ 熱の名残が消えぬようにと


この胸に 剣突きつけてくちづけた 誓いの儀式と夜に囁き



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朝帰りならぬ昼帰り。地下鉄がJRに乗り入れるあたりから、ぼんやり眠りから醒め始める。気が付けば光に満ちた車内はがらがらで、何だかぼんやりと満足する。こういう状況はとても好きだ。足下が午後の陽ざしで暖かく、ひと駅ごとのドアの開閉でまどろみが浅くなる。穏やかで気持ちいい、もう12月なのに。降車して、随分長い時間を車内で過ごしたような錯覚。

駅前に友人の住む駅まで行くバスが停まっている。そういえば引っ越し以来まだ一度も訪れていない。年内には行く事ができるだろうか。
夜、高校の時のクラスメイトから電話。年末のクラス会の参加について。日程が微妙で、無理をすれば参加出来ないこともないけれどどうしようかと迷っているのだ。私も同じく。とりあえず可否は新幹線の空席状況に委ねようかという結論。どうにも消極的な感じだ。






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守り刀と - 2001年12月01日(土)

振り返る 事すら殆どせぬけれど 其は懐の 守り刀よ 常にきらめく




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