【読書記録】三浦しをん「きみはポラリス」

少女漫画が好きな友達が面白いよ!といっていたので借りてきたのですが、しおんさん導入として手にとる本じゃなかったような感じがしました。まさかボーイズ方向で話が進むと思わなくて(何せ”純粋に少女漫画が好きな子”のお勧めだったので…)、さらにはいろいろ…いろいろで度肝を抜かれました。ちらほらアンソロジーで読んでいたけど、こういう作家さんだったかなぁと。でも、それぞれにぞぞっとするような鋭さが光っていて、きっとこれは!という一冊もあるのだろうなということもなんとなく想像してみたり。
中から一編あげると、「私たちがしたこと」がむむむー…と考えるところでした。普通、愛されているということは幸せいっぱいという方向でしかなくて、でもそれが個人の話となったら不安も付きまとって〜みたいな流れだと思うのですが、シチュエーション的な異常さ云々だけではなく、深淵を見ているような愛情そのものがそもそも恐ろしくなりました。何があっても愛してるなんて言葉で表現してもむなしいだけだけど、実際に目の当たりにしたらこわいだけじゃないかしら。愛されていないかもしれないという不安なんて生半可ではない感情が巧みだなぁと感じた一編。NO.23■p301/新潮社/07/05
2009年09月11日(金)

【読書記録】新海誠「小説・秒速5センチメートル」

私は映画・小説の順なので、映画を見てから小説をお勧めします。映画・小説で読むと、「このイメージは彼が見ていたイメージの映像化だったんだ〜」とか、気持ちも小さな動きとかが小説で補えて、あそこでの彼女は何を思った?何を感じた?弱々しい思いが確信に変わり、そしてそこに背景事情が加わることで、違った見解が生まれるというのがとても面白いなと感じました。小説は、心の機微やシーンの状況説明、そしてバックグラウンドエピソードを補えるよさがあると感じたのですが、やはり新海氏はあの絵、あの画面構成、あの色の表現がすばらしいと思うので、ぜひ映像を見て欲しいと強く思いました。言い回しや文体はまんま新海氏で和むけれど、そこに絵はなくて、うごめくものがない。小説から入ったら、きっと映像美におののくのではないだろうかと思いました。それほどマッチしている。そして復唱したくなる。笑

ちなみに、作中で映画と変えた点があるとありましたが、私はやっぱり小説ではこっちのほうがいいだろうし、映像だったら話の起伏的にもあっちのほうがいいだろうなと感じました。面白いですね〜。

それにしても。高貴君はアニメーションを見た時点では、”王子様的要素満載”で”ぼんやりした感じ”の”ひたすら優しい”男の子というイメージで、それは成長した後も明里を好きで忘れられなくて引きずっている青年という程度だったのですが、文章で読むと結構きりきりした人生を送ってきたんだなぁと感じました。優しい人とコスモナウトの彼女も同じように表現し、水野さんもそういうことを書いていたけれど、結局のところそれは彼の表面を覆う一見したやさしさであって、実際のところはいつも心はここになくて、ほんのちょっと遠くに感じさせてしまう。また、それを自分ではあまり意識して飛ばしているわけではない。だからこそ彼を見てきた彼女達はそれに気がついて、彼の元を去る。そういうことですよね…?
彼女の言動のなぜに思い至らないことを考えても、職場でのことを考えても、自分を自分で追い詰めているような感じさえして、ただの優しい人には見えなかった高貴君。本当は小説のように生々しい人にしたかったのかなと思いました。だって、本気で付き合った彼女へ本気を感じたのは小説の一文で、それがあるからあの流れになるだろうし、私は映画で三部に突然水野さんが登場したことに混乱したので。(本気で付き合っていた女性がいた、というのはナウトの流れからしても驚きでした…)NO.22■p175/メディアファクトリー/07/11
2009年09月07日(月)

【読書記録】09上半期まとめ

前回更新の「百瀬〜」をもって、今年上半期の読書記録終了です!21冊か〜。ちょっと少なかったかなぁ。下半期にも同じくらいかもうちょっと読みたいところですが、現在の状況を見ていると50冊読めるのか危うい感じもします。苦笑

というわけで。上半期の更新(読書記録)をまとめたページを作ってみました。思いっきりIE推奨となっております…ご了承くださいませ。<(_ _;)>内容はこちらで掲載したものとほとんど変わりないので、改めてこちらのページをご覧になってる方にご案内するのも何かなぁと思いましたが、一応。

最近、久しぶりに本をお勧めする機会がありまして、どうなるかなぁとどきどきしています。本を読んでいて、「あぁこの本、〜さん(基本的にオンラインの方々)にお勧めしたいなぁ」とぼんやり思うことがあることもあるのですが、そういうのは日記とかメールとかである程度その人をつかんでいて、なおかつそれなりに本を読んでいて傾向もわかっているような…そんな方に対して。だから、いくら傾向が似ていても趣味じゃないパターンもあるわけで、紹介するときはどきどきします。どうなるかなー。
2009年09月02日(水)

【読書記録】中田永一「百瀬、こっちを向いて。」

ストーリー:脳死の一歩手前である遷延性意識障害に陥った患者が目を覚ます確立は極めて低い。しかし、奇跡的にも意識を取り戻し、そして5年の月日が過ぎていることを家族から聞かされた主人公・姫子。5年前に高校1年生で、近所の小学生・小太郎の家庭教師をしていた記憶で時間が完全に止まっている姫子は、今という名の現実に違和感を覚えながらも、なんとか受け入れ、溶け込もうとする。そんな中、あの日の記憶がゆっくりとつながってみえてきた真実は、とても鋭利で苦しいものだった。(『なみうちぎわ』より)

表題作の『百瀬、こっちを向いて。』をアンソロジーで読んで「誰だこの作家さんは…!」と仰天したのも記憶に新しいが、気がついたら一冊の本になっていた。ということで、待ちに待った中田さんの一冊。
百瀬〜と『なみうちぎわ』はそれぞれアンソロで読んでいたので、『キャベツ畑に彼の声』『小梅が通る』(書き下ろし)が初読。んー、それぞれに面白かったけど、私が中でも好きなのは『なみうちぎわ』かな。姫子に悪態をついて、減らず口ばかりたたく登校拒否児の小太郎。どことなくサルを連想するような少年なのに、その実抱く不条理にいらだつ様子はまさに通りが通っているからこそ、彼じゃなくてもどうすることもできなかったように思う。その一方で、姫子という人間のしっかりした堅実な人間像、そして5年後の小太郎の様子がとても緻密でこれがとてもきれいだな…と人間的な魅力を感じた。繊細さ、といえばいいのかな。最後まで読んだとき、小太郎が何を抱え、姫子が何を見て、二人が焚き火をしたとき、どう変化していくのかまで全部が一本の細くて綺麗な糸になったようで、作風が好きでした。

巻末の初出一覧を見ていると、百瀬が05年、なみうちぎわが06年、キャベツが07年で出版が08年なので、一年に一本のペースで書かれていることがわかります。それを意識して読んだわけではないのですが、一編ずつちょっとずつ作風が違うようにも感じました。
そもそも中田さんというのは、もともとプロの作家で別名義でも出版しているような方だといううわさがしたたかに流れたように、百瀬〜ではうわさされる作家さんの名前を見ても、「なるほど文章の特徴がなんとなく似ているかもしれない」と連想できるものですが、後半になるにしたがって、ちょっとずつ変化が見られる。なんと表現すればいいのか、うまく伝わらないかもしれないけれど、初期にあったシュールな感じが、ちょっと違うものに変化しているように見受けられた。

ただ、どの作品もちょっと違った角度から物事を捉えていて、みんなに共通するのが地味な主人公。なのに、それぞれがいいキャラクター。
そういった意味では『小梅〜』はちょっと別の意味での地味なのですが…。実は母はかつて女優をしていた人間で自分も町を歩けば男性が振り返らずにはいられないほどの美貌の持ち主なのにもかかわらず、人に注目されるのがいやな主人公(『小梅〜』)だとか、自分は地味で恋愛なんておこがましいと思っている自称クラスの底辺主人公(百瀬〜)だとか、個性はあってもクラスでは埋没しているような子が主人公で、特に『小梅〜』の主人公の見られるのが得意ではない、むしろ苦痛で、自分の生まれ持った顔に普通とは逆の意味でのコンプレックスがある、という展開はとても興味深く、彼女がそれゆえに経験したことはある意味リアルで悲しい。

ああ、まとまってませんが、とにかくどれも面白かった。思いっきり恋愛ものかと思いきや、実は軽いどんでん返しが用意されたりしていて、恋愛小説といっても過言ではないのに、あっと驚かされる仕組みはとても新鮮で楽しく感じられました。今後もアンソロを中心に活動なさるのでしょうかねー。
NO.21■p260/祥伝社/08/05
2009年09月01日(火)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン