【読書記録】有川浩「レインツリーの国」

ストーリー:社会人になった伸行は、偶然思い浮かんだ『フェアリーゲーム』という小説のラストについての感想をネットで検索した。すると、偶然にもとても興味深い内容の感想を発見し、いても立ってもいられずそのブログの運営者である”ひとみ”にメールをし、次第に彼女に引かれてゆくのだが――。

図書館戦争で一躍有名になった有川さん。興味はあるものの、あの厚さはさすがに時間があるときではないと読めないので、手近にあった作品を手にとってみたのですが、独立短編かと思いきや図書館戦争シリーズ2作目作中に登場する本とリンクしているとの事。大丈夫かなと思いつつ読んだのですが、知らなければ多分ただの短編小説として読めると思います。私は問題なかった!

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以下、『レインツリーの国』を既読でお好きな方には、以下多少不快に思われることがあると思われます。読み進める場合は、それを了承の上でお願いいたします。
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んー、ところどころでああ著者らしいと思うものがきらきらしていたのですが、んー…もうちょっと重みを持たせてもいいんじゃないかなぁという気もしました。ライトノベル独特のさくっと読み進められて、展開もスピーディで、という読み進めやすさというのはもちろんひとつの武器だけど、裏を返せば軽さでもあって、もう少し丹念に描かれていたらなと思う場面もところどころ。たとえば、ひとみが「あなたには私の抱えている悩みなんてわかるはずない!」とメールを書きつけるシーン。ちょっと前には作中の小説『フェアリーゲーム』での男女サイドに立ったお互いの意見をそれぞれが述べて、内容を客観的に見て納得しあっているのに、その後伸<シン>の言ったような”ヒステリ”を彼女はそのまま起こしている。まず、『フェアリー〜』の中でのヒロインが取った行動をヒステリーと称してしまうには、(私達読者に与えられた情報が少ないゆえに確かなことはいえないが)ちょっと大げさな表現のように思う。ヒステリーといえば、金切り声を上げ、論理性よりも感情で物を言うというイメージからはヒロインの言動に結びつかない。ゆえに、その後ひとみがこれぞヒステリーというようなメールを送りつけたというのは、いささか納得ができないというか…これをしたいがためにあそこでヒステリーというような表現を使ったのだろうかと思うと、残念だなぁと言う気がしたし、安直であるような印象もぬぐえない。文章は、そういう些細な感覚的変化が大切だと思うので、私が感じたことが正しいとしたなら、という前提だが…。
また、私がひとみとは違うタイプで、どちらかといえば理論派な人間だからか、それとも彼女が想像がつかない経験をしているからかはわからないが、そこまできぃきぃ自分の主張ばかりしなくても…という感じもした。(作中で伸行は「主張のない子やなぁ」なんて言っているけど、自分の立場的なことについては逐一注意を促すという姿勢を見ていると、それもどうなのかなぁという気がしなくもないような気がする…(弱気。実際のところはわからない。所詮は私も伸行サイド)ここで言いたいのは、もう少し彼女は相手について慮ってあげてもいいんじゃないかと思ったから。初めてのデートならばまだしも、ある程度文章でのやり取りをし大体の性格をつかんだ上で、何回かあったこともある相手に、信頼はしているけどと前置きをした上でも自分の事しか考えていないのは、本当に恋と呼べるのだろうか。"好き"と"付き合う"と"一緒にいる"、それらは自分あってだけど、同時に相手もいて成立することではないだろうか。いくら自分でいっぱいでも、好きな相手の事ならば暇な時間に思いをめぐらすこともあるだろうし、少しでも自分の言動・および彼が感じていることとその要因について、まったく気がつかなかったというのは、彼女の繊細さの表現も合わせて考えるとなんだかなぁ…と思わずにはいられなかった。きちんとした下調べがなされているのはわかるのだが、やっぱり難しいテーマだけに、もっと細やかな感情の機微がほしかったなぁ。細かい変化じゃなくて、ささやかな気持ちの変化にまつわるその過程)あと、細かいことかもしれませんが、冒頭にあった「タイミングはまさに今じゃないといけなかったんだ」というのは、どこにつながってくるのかもよくわからなかったです…。特にいけなかった理由が見つからないのですが、どういう意味だったんだろう。

なんだか厳しいことを書いているような感じになってしまいましたが、エンターテイメントとしてはどんどん読み進められるし、展開の流れがはっきりとしていて、小さな笑いを取ることなども忘れていない、そういう作風はとても読みやすかったです。図書館戦争は飛び道具満載で〜とあとがきにあったように、きっとそのような作品をメインとし、得意とされている方だろうと思うので、やはりそれを基準にして有川さんについては語ったほうがいいのだろうな、というのが私の感想でした。NO.20■p203/新潮社/06/09
2009年08月25日(火)

【読書記録】長野まゆみ「よろづ春夏冬中」

一番インパクトがあったのは『猫にご飯』。お茶碗て…!同類って…!!と、とにかくファンタジックな雰囲気に和みつつもしっかりセッティングされていて、現実とファンタジーの中間をゆらゆらした感じがとても印象に残りました。

不思議なイメージといえば、『希いはひとつ』。引越し先に現れるなぞの少年と、彼が手渡す見覚えのある道具に戸惑いを覚えはじめる主人公。何がどうなっているのだろうと思ったとき、するりと全ての意図がほぐれて着地する。掌編なのに、世界があるなぁと感心しました。

可憐で切ない感じだったのは『花の下にて』。下っ端の中浜は花見で座席確保を命じられ、おとなしく適度な場所を見つけたのだがそこで会ったのは――。最後の最後にそうくるとは思わなくて、ああ、と。それ以外のなにものでもない。

キャラクターと展開が一転二転して、彼はいったい?と魅せられたのが『アパートの鍵』。白に魅了されて買った絵画には住所が書かれていた。気の向くままに訪れたその場所は絵と変わらない場所で、戸惑っているうちに絵の作者の息子と遭遇するのだが――。手のひらで転がされているような、振り返ってみると面白いなぁとからりと笑ってしまえる感じが好き。

星を拾うシーンがとても幻想的で綺麗な『ウリバタケ』『獅子座生まれ』

とりあえず気になった作品をざっくりあげてみるとこんな感じ。全体的に見ると濃いな〜と思ったものの、好きなものは好きだったなぁということも無視できない。NO.19■p211/文芸春秋/04/10
2009年08月20日(木)

【読書記録】西澤保彦「神のロジック人間のマジック」

ストーリー:気がつくと果てしない原野に立つ学校<ファシリティー>に、さまざまな人種の人間とともに暮らしていたマモル。ファシリティーはほぼ11.12歳の少年少女に不自由をさせなかったものの、味気ない生活に想像を働かせる生徒達。しかしそんな日常に変化は突然、編入生によってもたらされることになるのだった。それが恐ろしい事態の幕開けでもあった。

続けて何冊も読むという読み方はしないものの年に一冊程度は読みたくなるのが西澤氏。ロジックが好みなのですよねー!今回も十分に楽しませていただきました!!それはもういろいろとても面白かったv

まず、それぞれが推理するファシリティという施設についてがとても面白い。そもそもここはどこなのか。日本ではなさそうだけど、じゃあどこと言われても判然としない上に、施設内には不思議な装置がある機会室がある。僕達はなぜここにいて、何をしているのだろうか。冷静な判断をしつつ、それぞれの説明に耳を傾けるマモル。それぞれが考えた施設に対する諸説について、不思議な機械室とロジックを説くという特別授業から秘密探偵なのではないかと推理するハワード<中立>。ここは仮想世界で、現実はまた別の次元にありここにいる自分達は精神体のようなものであるとヴァーチャルリアリティ説を披露するケネス<ポエト>。特殊能力者である自分達が集められたのだと主張するケイト<ユアハイネス>。「この時点でこれだけの論理立てと推理が行われるものなのか…!!」とどの説も興味津々で読みました。結構信じつつ読み進めてみたいきさつもあります。

そして結果から犯人を推理してみせるという午後のワーク授業。これについては、決められた班であるマモル・ユアハイネス・ハワードの三人が、ああでもない、こうでもないと頭をひねる。これがこうだから、ああなるのでは、と誰かが提案すれば別の誰かが矛盾を指摘し、時には話を展開する。こんな推理もなかなかに楽しい。

そして本質的な問題、ここはどこで、どうしてここにいるのかという目の前に広がる決して解けない難題。だけど、きっかけはまるで嵐の前の一滴の雨のように突然にじみはじめ、あっという間に炎上する。恐ろしいほどのペースで人がばたばたと倒れ、二度と口を聞かなくなる様子は、なぜという部分がまったく検討がつかないだけに恐怖そのものだった。何かがここにはいるんだとつぶやいたポエト。そして、自分がここに来たときのことを懸命に思い出そうとするマモル。最後の最後にでてきた答えは、残酷だなぁと私は感じた。

推理合戦が三重にもなっていて、それぞれが楽しい。そう、推理することそのものが過程が好き、という方にはぜひともお勧めしたい一冊である。と同時に、西澤氏ファンにはうれしいインタビューも掲載されている。作品だけではなく作家になるまでなどいろいろな内容になっているので、作品をあまり知らないような私も、海外で小説について学んだというエピソードなどはとても面白いなーと思いながら読んだので、これもあわせてお勧めしたい。NO.18■p317/文芸春秋/03/05
2009年08月14日(金)

【読書記録】三冊まとめて

NO.15■奥田英朗「マドンナ」
『ガール』が痛快だったので、借りてきてみたところ、こちらは一転。中間管理職のおじ様方が主人公でした。これはこれで面白かったのですが、『ガール』がお勧め。

NO.16■浅田次郎「月のしずく」

NO.17■橋本紡「もうすぐ」p386/新潮社/09/03
時間の関係でコメントを書いていなかったのですが、また一皮むけたなぁと思わされた一冊でした!女性にとっての赤ちゃんの存在。それがこんなにもいろいろあって、自分にとってだけではなくて、さらにいえばリミットもある。そういう感じがひしひしと伝わってくるのです。構成も全編を通じたA面と短編を詰めたB面(A.Bは仮称です)が同時進行していくことで、さまざまな様子を見て取ることができて、大変興味深いお話ばかりなので、女性の方にはぜひよんで欲しいなぁと思う一冊でした。
2009年08月08日(土)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン