【読書記録】森博嗣「ナ・バ・テア」

ストーリー:天才撃墜者ティーチャと同じチームに配属された僕。本当に彼は天才といわれるだけの腕があるのだろうか、と疑いながらも出撃した空で、僕の抱いていた念は尊敬に変わった。僕たちキルドレとは少し違う、大人の男であるティーチャと僕のお話。

スカイクロラシリーズ第二弾。このタイミングでこの作品を読むなんてなぁと思いつつ読みました。とても感慨深い。感想と同時にかなりネタバレになってしまうと思うので、以降お気をつけください。あ、簡単な感想からすると、スカイクロラを読んだ人ならば読みたくなる作品だと思いますし、今作もとても面白かったです。今までのパイロットたちとは違った気性の持ち主ですし、何よりも空で飛ぶことがすきなのがすごく伝わってきて、思わず楽しそうだ――と思ったのも確か。
さて、ここから若干ネタばれになりつつな感想に入ります。
そもそもこの作品、水素さんのお話。これに気づくまでの1/4はずっと”僕”についての描写が第三者的な、薄い膜を通してみています。その中でゴミ箱をけりだしたり、あまりの興奮でコックピットで眠ろうと考え出したりと、『スカイクロラ』での落ち着きぶりはどこに…と思わずにはいられないシーンが多々あります。三つのお話を読んできて、キルドレは何かしらがかけた子供たちなのかな、という風に私は感じてきました。かけているからこそある今なのだとは思うのですが、彼らは常に何かを考えて、自分に問いかけている姿がとても印象的で。それなのに、答えは出ないばかり。映画の水素さんの部屋にあったオルゴールは、キルドレの宿命だけではなく、いろいろなものを象徴しているのだろうなと思います。NO.40■中央公論社
2008年08月29日(金)

【読書記録】森博嗣「フリッタ・リンツ・ライフ」

ストーリー:クリタジンロウが主人公のお話。大人ってなんだろう、愛って何だろう、考え続けた彼が見たものは――。

ずっとひっかかっていたジンロウのお話。だけど、シリーズ4作目あたりの作品です。ちょっっぴり飛ばしてしまいました。気になっていた人だけあって、内容は面白いなぁと思いました。パイロットによって気性はだいぶ変わって、彼はカンナミに似てとても落ち着いていた。落ち着きながらも考えている様子が、その思考を放棄せずに保ち続けているような様子が独特の雰囲気になっていたように感じます。NO.39■中央公論社
2008年08月26日(火)

【読書記録】豊島ミホ「神田川デイズ」

『檸檬のころ』を読んで以来、豊島さんの著作を重点的に読み始めたわけですが、なかなかにクセのある文章をかかれる方だというのが5冊読み終わっての感想です。きっと著者は、ぱっと見は普通の一般人だけど実はとても自分の色を持っていて、冷静に見渡して観察しているような、そんな人なのではかなと思いました。これほど、著者を喚起する作品はなかったかもしれないな……。
さて。著者についてはさておき内容です。冒頭に出した『檸檬のころ』の登場人物は高校生が中心で、高校時代のエピソードでしたが、本作はまさにその大学生バージョンかなというイメージを受けました。高校生はまだ縛りがあって、でもその中での自由を謳歌しているけれど、大学生はそうじゃないし、それだけではいけない。将来がかかってくる頃合でもあるし、それと同時に謳歌すべき年月でもある。そんな年齢の彼らが主人公。児童小説や青春系作家さんならば、こういう展開はないなーとしみじみ思うものがちらほら潜んでいました。雰囲気が、すごく違うんだなぁ。重くてじめじめしていて、だけど梅雨が明けるのが楽しみで…、そんなイメージ。最初はどうなってしまうんだろうとか、タイトルの意味って?と思っていたのですが、なかなか面白かったです。簡単に登場人物紹介。
・さえない男子三人が今日も部屋にこもる。「俺たち、このまんまでいーのかな――」
・入学式。人ごみにまみれて見つけた一人の先輩と現実に、戸惑いが隠せない。「私、わたしは――」
・「大学でははっちゃけた生活するぜ!」…だけど、そこにいる俺って……?
・「最高の映画を撮ろう!」言い切った女子三人組だったが……。
・勤勉にまじめにをモットーにしてきたけど、これでいいのか・私!?
・作家デビューしたのに売れない自分。この先、どうしようかなぁって、漠然と感じている彼は――。
NO.38■角川書店
2008年08月23日(土)

【読書記録】午前零時

13人による午前零時をモチーフにしたアンソロジー。抽象的な午前零時というお題に対しての解は、とてもバラエティに富んでいて面白かったです。ページ数はばらばらなので、展開などはまちまちなのですが、とにかく質がいい。今までの抽象的なのに具体的で似たり寄ったりではなく、話の方向そのものがそれぞれ大きく違う。ジャンル的に見ても、恋愛小説にホラー、もしかしてSF?それともファンタジー?なんてものまで。執筆人も豪華、いいアンソロジーでした。
・鈴木光二/初っ端から予想外の方向に展開して、むむむ…!と思わず。『リング』の方なのですが、予想外の雰囲気でした。
・坂東眞砂子/二編目なので、このアンソロジーはどういう読み方をすればいいのかなぁと思いつつ読んでいたところでなるほど〜と。
・貫井徳郎/この著者の描く人間像に興味がわいた一作。長編ならどんな登場人物が出てくるのかな。
・近藤文恵「箱の中」/箱がこんな風に用いられるとはなぁと。なんとなく想像するのが楽しい一遍。
・石田衣良/石田さんはいつも石田さんだなという作風だったのですが、今作は新鮮に映りました。既読の作者さんがたの作風がちょっと違って感じられたのも、このアンソロジーでは珍しくなかった印象。

とりあえず、印象深かった作品(著者)を並べてみましたが、全体的にどのように落ちるのだろう、とわくわくした期待感を持って読めました。先が読めない・作風がわからないという目隠し状態で本を読んでみたい方にはお勧めかもしれません。NO.37■新潮社
2008年08月20日(水)

【読書記録】奥田英朗「町長選挙」

伊良部先生シリーズ第三段。今作は、パロディというか皮肉というか、著者の世間に対する見方が大いに影響しています。個人的には、そんなに世間に訴えかける必要もないんじゃないかと思う気持ちもありますし、純粋に楽しみたかったなぁという気持ちもあって、若干複雑でした。まだシリーズとして続くのでしょうか…。NO.36■文芸春秋
2008年08月17日(日)

【読書記録】豊島ミホ「陽の子雨の子」

ストーリー:奔放に笑う姿が印象的だった雪枝に誘われ、夕陽は自分より一回り近く年上の年上の女性とたまに会うようになった。一緒にいると楽しく、どこか普通の大人とは違う雪枝を好ましく感じていたものの、彼女の家へ行ったことで夕陽の中での印象はがらりと変わる――。

つかめそうでつかめない、わかりそうでわからない。それが私の感想でした。私の内容紹介だと物騒な香りもしますが、いたって健全(っていうとちょっと違う気もするのですが)なストーリーになっています。男子校に通う14歳の夕陽。彼が感じた灰色の点々と、雪枝の中に渦巻く思い、そして雪枝の家に居候する少年。彼らをとりまく点々がわかりそうでわからなくて、わかるようになるのかもわからないけれど、前半部分で、はっとする言葉がいくつかあったのが印象的でした。「馬鹿か嘘つきなら、さっき〜」後半ではこういう言葉いいそうなイメージはなくなってくるのにね。前半の鋭利さにびっくり。そして聡明な夕陽君に感嘆。NO.35■講談社
2008年08月14日(木)

【読書記録】森博嗣「スカイ・クロラ」

ストーリー:飛ぶことを職業にして今日も空へ羽ばたく僕。いつ死ぬのかもわからない日々をすごし、そして”今日”という一日が終わる。特異な環境でたんたんと生きるカンナミたちが行き着く先は――。

押井守監督で映画になると聞き、これは読まねば!と思って手に取りました。もともと森さんの作品を読んでみたいなぁとおもっていたものの、どこから手をつけたら良いものやらと思ったので、いい機会でした。
そもそも映画CMでなんとなく知っていて、さらには公式映画サイトで予期せずかなりあらすじを知ってしまった状態だったので、半分映像ありきで読んでいました。読み終わっての感想は、これはどう書けば――。私個人の感想としては、押井さんの作中では倉庫はどう描写されているんだろう、基地の様子は、空中戦は――、そういった映像面での期待が大きくて、読み終わって改めて「死」に対する何かについて私はあまり読めてなかったかなぁと反省しました。主人公・カンナミはキルドレと呼ばれる一生子供のままでいるパイロット。見た目は子供でも、偵察から空中戦までこなす一人前の腕のいい操縦士だが、彼らには生涯加齢による死はやってこない。生き続ける中で、自分はなんのために、どうして生きているのだろうかと、いろいろな形で彼らは葛藤します。…映画がスカイクロラだけからできているのか、この本を読んでわからなくなりました。この本のラスト、それもひとつの解決法だと思う。けれど、カンナミはどんな答えを出してくれるのか、私は知りたい。これはあの人の答え。続刊するスカイシリーズ?では、どんな人たちがどう生きているのか、見てみたい、という気持ちがわきました。NO.34■中央公論社
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本メモとは別の話ですが、サイトについてをトップ(+マーククリックで飛ぶページです)に追加記載しました。フォームや冒頭表示と同様に並んでいるので、もし気になったらどうぞ。
2008年08月12日(火)

【読書記録】「Field,Wind」

タイトルどおり、フィールド競技のアンソロジー。青い空と学び舎に鉄棒、そんな絵のカバーがかかっていて、なおかつ副題は”青春スポーツ小説アンソロジー”なので、てっきり主人公は少年少女でさわやかな感じを思い描いていたのですが、見事に違いました。けれど、どれもどこかしらに、はっとさせられるシーンがあって興味深かったです。
・あさのあつこ 最初の作品なから少年じゃないことにびっくり。でも確かに、これも青春スポーツなのかなと。
・川島誠 以前読んだ作品とは大分作風が違ってどっきり。こういう作品も描ける方なのですね。
・川西蘭 個人的には今回の中で気に入った作品。わかりやすくスポーツだなぁと思います。
・須藤康貴 お父さんの言葉に、はっとさせられました。なるほど。
・五十嵐貴久 これは、実際にスポーツをやっていたならば共感できるのかもしれないけれど、実際にどうなのかしら?と思ったりしてしまった作品。想像は出来るのだけど…。
・子手毬るい こういう方法もあるのかなぁとぼんやり思ったのはいいけえれど、現実問題彼女は進学するのかなどと心配が…。アスリートってそれまでずっとそれに打ち込んできたわけで、それでもどうにかなるものなの?とちょっと疑問に思ったり。

そんなわけで、振り返ってみると感情移入しきれていないものが多いようですね。「ばりばり体育会系です!」という入りづらい作品はさすがにないのですが、やはり実体験があるとなしとでは見方が変わってくるテーマだったと思います。しかし、種目は本当に多種多様いろいろと用意してくださっているので、見ているのは楽しいと思います。
川西さんの自転車は、「セカンドウィンド」という本でも展開されているようなので、そちらを追ってみたいと思いました。NO.33■p259/ジャイブ/08/04
2008年08月10日(日)

【読書記録】豊島ミホ「東京・地震・たんぽぽ」

ストーリー:東京で大地震が……。そのとき、あの人は――。そんなショートストーリーがつまった一冊。

私はとにかく一つ目の導入に(いい意味で)ぞぞーっとして、ぐいぐい引き込まれて読みました。短編なのがいい。いろいろなシチュエーション、年齢設定、状況、それが突然前触れも無く激変したとき――。私は東京に住んでおりまして、実際にこういう地震がいつ起きるのだろう…と漠然とこわいなと思っているので、この小説がとてもリアルに迫ってきました。ある意味こわかったです。地震があったことで、うきぼりになった環境や自分について。気になるなと思う作品については、実はひっそり別のお話にもリンクしていたりして、とてもいい具合で読めました。地震で埋まりかけているのに、助けを求める先は夫ではない主婦、自分の大切なものを持って逃げる少年、いやな旧友に出会ってしまった少女、そして彼氏を失った女性。みんな興味深い。
ところで、あとがきでどんな事がつづられているのか、とても楽しみにしていたのに、一切なくて残念でした。単行本化しても筆者のあとがきはつかない…よね。見たかったなぁ。NO.32■p203/集英社/07/08
2008年08月03日(日)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン