【読書記録】「本当のうそ」

12人の作家による掌編小説。3/4(四分の三)の著者を知っての読書となったのですが、本当のうそってどういうものかなと、不思議な心地で読み始めました。お気に入りだったのは以下三篇。
・吉田篤弘「イヤリング」ほかの掌編小説にはない第三者的な見解が織り交ぜられていて、そこに介在するうそもソフトで後味もよく読みやすかったです。
・井上荒野「ダッチオーブン」ダッチオーブンと夫。最後まで主人公の女性が一貫した様子に乾杯。読んでいるととてもやきもきするのですが、その感覚こそよかったように思います。
・山之口洋「プロパー・タイム」せっかくのうそ。このくらいの展開が掌編であるといいなぁと思ってのこの作品。うそなんてひとつですむものではないのでしょうね…。
それぞれにうそのいろいろな形があってよかったのですが、やはり”うそをつく”という行為に対する何かしらが付きまとっていて、それが手放しでお勧めできるかというと少し難しいかなという気がします。読後がよいものを手に取りたい方は少し敬遠、という感じでしょうか。NO.18■p208/講談社/07/12

+追記
デザイン変更したはいいものの、月ごとの表示をするとおかしな状態になっていたのを正しました。今回もちょっとむりのある書き方をしたのが原因でした。デザインをそのまま、ちゃんと表示するようになったので、もし不都合時に閲覧してしまわれた方は、よろしければご確認くださいませ。
2008年05月31日(土)

【読書記録】姫野カオルコ「桃」

『ツ、イ、ラ、ク』を読んだら『桃』を読まないと、と思って借りてきた『ツ、イ、ラ、ク』の対の小説。内容は一応独立した短編的な様相。以前この本を発見したときには、前作を読んでからずいぶんたっていたので、記憶も所々飛んでいたのですが、今回はあまり間も開かずに読めたのでなるほど、あのことを指しているんだなとか、これはだれそれだなどとシルエットを読み解く事が出来て楽しかったです。
表題作の『桃』は、例のごとく大人になった彼女があのときを振り返るわけですが、まさに私が思っていたことをもっと当人らしくおもっていて、もう少しすればいいこともあるよ…!とつい応援したくなってしまう気持ちになりました。…愛していたんだなと感じる。
前回は『高瀬舟〜』がとても印象的だったのですが、それはやっぱり彼が何を感じていたのかわからなかったところが大きいのだろうなぁと思うと同時に、この本に出てきた主人公であり第三者達はみなどこかで関係していて、小さな田舎のコミュニティを強く感じさせられました。うまくいえませんが、みんな凝縮したそれぞれの思いがいいです。小さい町からこそたった波風とその記憶。NO.17■p333/角川書店/05/03
2008年05月28日(水)

【読書記録】古川日出男「僕たちは歩かない」

ストーリー:ふとしたことから24時間制の東京から26時間制の東京に来てしまった僕たち。僕たちはみんな料理人で、そこで料理についてこねくり回し切磋琢磨する研究会を結成した。2時間多い東京で。しかし、とあることが生じた事により、世界はそれだけではなくなる…。

イメージは額のない絵。枠にとらわれない発想はファンタスティックな印象で、これはファンタジー?SF?それとも現代小説…ではないだろうなぁという内容でした。ふわふわしているようで、現実味もあって、ここはどこなんだろうなぁという雰囲気が味わえるかと思います。掌編小説から受けた雰囲気にわりと近く、ページ数も少なく、また、不思議な世界観にマッチした素敵な挿絵も満載されていて、面白かったですvNO.016■p110/角川書店/06/11
2008年05月24日(土)

【読書記録】姫野カオルコ「ツ、イ、ラ、ク」

読んだ当時の総括で年間ベストにもいれたくらい好きな本でした。描写云々で姫野さんは多少人を選ぶ作家さんかもしれませんが、ツイラクについていえば、私はその根底に流れているひたむきに愛する気持ちというのにとても惹かれました。最初に読んだときはもっともっと、濃密でお互いを必要としている蜜月が長かったように感じましたが、実際に読み直してみるとそんなでもなくて切ないなぁと。時を経て、年齢も変わり理解できることも多くなったとき、私は確かに少し落ち着いて読めた。けれどまた次回読んだらば、私はきっと先生の気持ちがわかるんじゃないかなと思う。あの時手放すのが苦しくて仕方なかったのに、それでも突き放す…優しさ?文庫版も出てるし買おうかなぁ。NO.015■p421/角川書店/03/10
2008年05月21日(水)

【読書記録】中野独人「電車男」

ストーリー:電車内で酔っ払いのおじさんに絡まれた女性たちを見て、一人立ち上がった男がいた。そして後日、車内で隣に座っていた綺麗なお姉さんからのお礼の品・ティーカップが届いた。そこから始まったヲタクな彼・もとい電車男と綺麗めお姉さん・エルメスの愛の物語。そしてそれを後押しや支援する2chの住人たちのと軌跡。

いわずもがな、大ヒットした電車男の原型・2chのスレッドまとめからできた本。TV版ドラマで伊藤美咲さんがエルメスを演じているのを軽く見ていたので、スレッドの多さに最初は戸惑ったのですが(なんといってもドラマはテンポ重視なのでぽんぽんっと進みますし、実際に彼と彼女の会話シーンもあるわけで、やはり見やすかったです)、半ばにもなってくるとエルメスさんのとても愛らしいせりふにどきどきしたり、ととても楽しく読めました。リアルタイムに進むというのもリアリティがあって面白いなぁと、それがこの本のほかにはない魅力なのだろうなと思います。どうしてもドラマイメージが先行してしまっていたので、この本を読むまで知らなかったのですが、どちらかというとエルメスさんの方が電車さんを好きだったのですね。電車さんなりのがんばりは相当だと思いますが、”電車さんが押しっぱなしで受けみなエルメス”という印象だったので、さらにどきどききゅんきゅん?しながら読めました。・・・カップルとしての後日談も見たいなぁ。笑

※読書メモという枠組みで書いているので、小説枠からはちょっと外れますが掲載することにしました。NO.0014■p318/新潮社/04/10
2008年05月18日(日)

【読書記録】島本理生「あなたの呼吸が止まるまで」

タイトルを見て、重くてねっとりした依存的な恋愛なのかな、島本さんは恋愛作家さんになる予定なのかな(とりあえず現段階では)なんて思っていたのですが、読後の感想は困惑。今まで読んだ著書は『一千一秒〜』が最新で、今回は著者名を見て手に取ったのですが、今までとは大きな流れが違っていてこう、苦しいっていえばいいのかな。読んでいて締め付けられているような息苦しさを感じた。まったくの真骨頂かといわれると、そうじゃなくてこう湿り気を含んだレースのカーテンみたいなイメージが共通してると思う。
この本をどう咀嚼したらいいのかなと思って、amazonを見たところ、帯の内容にひかれて手をとったけどうーん…という内容が多くて、ああ帯を見て入っていくとまた違ったイメージなのだろうなと思いました。なので、今回はストーリー紹介が後半。私としては島本さんなら初期のお話が好きだなぁ。今回の主人公だって年齢さえを変えてしまえばノーマルにナラタージュに近づくような気がしなくもない。(方向性が)
ストーリー:十二歳、小学生の朔は舞踏家の父との二人暮し。お父さんが家を空けることはしょっちゅう、そしてお父さんの舞台を見に来る人はちょっと変わった人たちがいっぱいいて、世間一般とはずれている。そんな日常をクールに見られる朔は、年齢よりもちょっと大人びていてしっかりしている。クラスメイトで物事をはっきりいう鹿山さん、そして気になる田島君。お父さんの知り合いで雰囲気が素敵な瑞江さんに、優しくしてくれる佐倉さん。普通の小学生が少し変わった環境で送った生活。NO.13■p187/新潮社/07/08
2008年05月14日(水)

【読書記録】あさのあつこ「ラスト・イニング」

ストーリー:(『バッテリー』本編の最後のシーン、新田東と横手二中の非公式試合後のお話です)あの試合から数ヶ月。横手のエースたちは高校生になっていた。門脇は今も素振りをしている。いや、以前以上に恐ろしいほどの思いと執念で練習に励んでいた。一方溝垣少年は、いわゆる進学校へとすすみ、振り切ろうともがいていた。頭の回転が速く、頭脳明晰な溝垣だったが、それゆえに彼がはまった穴…。

「溝垣君ゆっがんでるな〜!(笑)」というのがとにかく総括!三分の二読んだ時点で感想はこれだなと確信しました。笑 相変わらず巧の比ゆが姫さんだったり蛾だったり、回転の速い頭だからこその会話がとても面白かったです。ストーリー紹介でネタバレしちゃっているのはあまり好きではないので、とっても表面を掬い取った感じになってしまったのですが、『バッテリー』の内容を忘れかけていた私でも十分に楽しめる内容でしたし、巧の生意気だけど懸命な感じとはまた違った、大人で物事を見通せる溝垣主人公はとても魅力的であります!前回のあさの作品はちょっと肩透かしだったので、満腹になった感じvNO.012■p238/角川書店/07/02

また近いうちに更新します。週2で少しペースをあげる予定。
2008年05月10日(土)

【読書記録】あさのあつこ「ランナー」

ストーリー:陸上競技で長距離を走る加納。しかし、大会での敗北と妹の存在により、部活はやめることにした。離婚した両親、妹の体に残るあざ、母の葛藤、そして部活と自分と走ること。本当に守るって何だろう…。

あさのさんといえばさわやかな児童書!と思ってきたのですが、あまりの内容の違いに大分戸惑いました。まず、全体的にどんよりしていて重い。読み進めればすぐにわかることなのですが、家庭内暴力、シングルマザー、そして複雑な事情を抱えた妹の存在。家族構成がこれでもかといわんばかりに重くて、それをどう処理なさるのかなぁと思って読んだのですが、結局のところページ不足ではないでしょうか。展開的には、それだけの心の動きがあればわからなくもないのですが、逆に言えばそれだけで本当にいいの?大丈夫なの?といわざるを得ない気もする。随所でぐぐっとおもみのある言葉が使われているのは感じるので、きっと何か伝えたいことはあるのだろうなぁと思うのですが、それをつなぎあわせたような印象しかうかばなくて、うーん…残念かなぁ。おそらく、あさのさんが何かしらを体験してこの小説を書かれたのだと思うのですが、違う方向でまたリベンジして欲しいと思います。NO.011■p241/幻冬舎/07/06
2008年05月04日(日)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン