【読書記録】恩田陸「中庭の出来事」

ストーリー:中庭で繰り広げられる三人の女優とお話。女優は時に共謀し、時に独白を述べその人を惑わせる。あざ笑うがごとく絡んでゆく複雑なストーリー展開にご期待あれ。

まるでサーカスの見出しみたいな紹介になりましたが、この本にはあながち遠からずではないかと思います。中庭にて、『中庭にて』、旅人たちの三つの主要ストーリーが展開してゆく中での現実と舞台の上の出来事の倒錯感のようなものがこの作品の最大の魅力。途中でわけがわからなくなってくるのも醍醐味、というべきなのでしょうか。^^;とても入り組んだ構成ですが、事件が単純明快なだけに、なぜという部分が気にかかってどんどん読めました。
ところで、「チョコレートコスモス」で舞台演技をモチーフに使った
ばかりなのに、半年のうちにまた演技関係のお話を発表されたのだなぁとたどっていて気がつきました。次回作はどんな作品なのでしょう。
NO.004■p382/新潮社/06/11
2008年02月28日(木)

【読書記録】鷺沢萠「F―落第生―」

ストーリー:7編の短編からなるお話。特に圧倒された「重たい色のコートを脱いで」をご紹介。
編集という仕事に魅力を感じた聡美は一流大学を優秀な成績で卒業し、「月間ヤングマン」という雑誌の編集をする今がある。大学卒業後から彼女が落ちてしまった穴。その中で彼女が体験したことは、想像以上の事だったけれど今がなければわからなかったやりがえ。

読みたいなと思っていた本。興味はあるけれど、以前躓いてから鷺沢さんの著書に手が伸びずにいたのですが、いい機会なので手を伸ばしてみました。
上でも書いたように、重たい色の〜は本当に圧巻。仕事に燃える努力家の女性で、ドラマにもなったとある漫画を連想するようなプライベートの忙殺振り、そしてそのときの彼女の対応に唖然としました。何でそこまでがんばってしまえるのか、私には出来ないな…と彼女のあまりにも完全無欠な根性に、キャラクターの強さを感じずにはいられないと思います。完璧すぎる内容なのに、どこかで何かが不意にかけていることに気がつき、そんなはっとするようなストーリーに思わず唸る。その繰り返し。
この作品の主人公たちは、みんなどこかでかけていて、だけどそんな主人公たちががとても人間味があって心地よいと感じるのです。展開もヴァラエティに富んでいて、鷺沢さんはいろいろなタイプの小説が書ける方だったのだろうなぁと思います。鷺沢さんが年をとったときの文章も読みたかったなぁと、今はただただそう思います。
NO.003■p195/角川書店/96/07
2008年02月23日(土)

【読書記録】辻仁成「冷静と情熱のあいだ Blu」

前回読んだときは、たしか辻さんの本から入った覚えがあったので今回は江國さんの本を読んでから読もうと思って、一緒に借りてきました。
とても情熱を持って読めたのがあおいの冷静と情熱のあいだ。そして冷静になりながら読んだ順正の冷静と情熱のあいだ。順正はいつも心のどこかであおい、あおいと彼女を探していたのに対して、あおいは過去のある種の封印したい記憶もあり、順正のように常に彼だけを求めていたわけではないと思う。けれど愛していた順正に対する思いそのものはずっと心のそこにあって忘れられなかった。恋愛の形って目に見えるものが全てではなく、言葉はどこか頼りない。そんなことを二冊を通して思いました。
さて、Bluとしてはとても細かく日々がつむがれていて、順正のアクティブさが伝わってくる内容でした。自分の目指すものが見つかった順正のまっすぐに仕事に取り組む姿勢、恋人の芽美に対する思い、仕事場での同僚や先生との関係。あおいが過去から抜け出せずにバスタブに浸っていたのに比べると、順正の一日の密度は多分とても高かったのだろうなと思います。傷つけあって別れる事しか出来なかった二人だから、お互いに今までとは相反するまったく新しいパートナーを見つけて、彼・彼女のよさを知り、相手から学んで、そして過去に戻る。Rossoでもそうでしたが、読み取れなかった事が読めるようになって、Bluではぞくりとするような文節に出会えたりするのがとても印象的でした。前回も同じようなところでぞくっとしたけれど、今回はまたちょっと違うところにアンテナが引っかかり、そのあたりはとても辻さんの描き出す・思っていらっしゃる内容に惹かれるところがあります。

たしか、「冷静と情熱のあいだ」としてお二方の内容が一冊になった本が出版されていたと思うので、気が向いたら探してまた数年後に読み返したいなと思います。
NO.002■p262/角川文庫/01/09

追記:映画版を見たのですが、あまりのあおいのぴったりさに驚きました!きりっとした感じがすごくあおいですねvだけど、それぞれに対するモノローグが見事にカットされていたのは残念でした;enyaさんも素敵です♪
2008年02月20日(水)

【読書記録】江國香織「冷静と情熱のあいだ Rosso」

講義でイタリアの街並みについてちょっと触れられる機会があり、その数日後にTVで本物のイタリアの街並みとそこで生活する人々を見ました。住まい主体で作られたような街並みには、くねくねした石造りの入り組んだ道とSiの言葉。ここまで見て、前回江國さんの冷静と情熱の間を読んで、私はあおいの発するSiという言葉が好きだ、と書いたのを鮮明に思い出した。読んだのはもう5、6年前なのだろうけれど、鮮やかなまでの記憶。そしてこの町。この空気。それを感じたいという思いから、今年の初めの一冊にこれを選びました。長い前置き、すみません。
さて、年月を経て読み返したとき、感じるものに変化が生じるのは私の体験としてもあるので、この物語はどう感じるのだろうかというかすかな楽しみと、イタリアの町を想像しつつ読み始めました。前回読んだとき、あおいはなんて大人で乾いているんだろうかと思いました。今となっては、まだまだ感情が読み取れていなかったのだなぁと思います。それなのに順正のことを忘れられない、何か心に残る恋をした人。そんな印象。だけど、今回「記憶の残酷さ」が胸に痛かったです。思い出は胸の中で膨張して美化されていく。ただでさえそんな性質を持っているのに、あふれるような思いまで伴って息づいていた。それなのにその記憶を封じて、今を幸せなのだとあおいなりに思い込もうとする様が、なんともいえず苦しい。たとえるならば、酸素不足の金魚がその事態にさえ気がつかずに生暖かい水中を泳いでいるような。マーヴとの恋愛について、私なりの解釈ができるほどの何かは持ち合わせていないけれど、これもまたわかるときがくるのかな。一番心に残ったのは、あおいの心のそこにある思いが全編を通じて、じわじわとあおいの今を侵食する様子。これは心地いいくらいに深くて重い。あおいのすごした長い時は、やっぱり意味があったのだろうと思う。
NO.001■p275/角川文庫/01/09
2008年02月18日(月)

2008ご挨拶

年が明けまして、こんにちは。寒い季節、いかがお過ごしでしょうか?

さて、今年もぼちぼち本も読み始めたので、やはりこちらで更新していこうと思います。
今年は、今まで読んだ印象に残った本を掘り返すことにも比重を置いて、かつ読みたいと思っている本に取り組んでいこうと思います。同時に、今年はもうちょっとしっかり内容の紹介、および感想が書けるといいなぁと思っているので、よろしければ今年もお付き合いくださいませv

というわけで、第一弾から今まで読んだ本です!更新はまた後日に。
2008年02月01日(金)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン