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2008年03月14日(金) Factory72(榊/芥川)


『1%、あればいい』

残念ながら、きみが初めてではない。

「俺、先生のことが好きなんだ」
本当に、本当に、本当なんだ、といつになく顔を強ばらせて、その子は言う。
「ただの好きなんじゃないよ、本当に俺は先生のことが・・・」
見上げる薄い茶色の瞳の痛ましさに、私は胸を突かれる。
叶えられないことをどこかで分かっている、報われないことを知っているのに、それでも子供たちは暴力的なまでに純情を叩きつけてくる。
 『先生のことが好きです』
泣きながら、怯えながら、身を竦めながら、頬を赤くして、目を伏せ、あるいは睨みつけ、たった十数年しか生きていないきみたちの恋を不器用に告げてくる。
 そして私の答えもいつも同じだ。
 『きみは大切な生徒だ。私は、きみのことを誇りに思っている』
 
 泣き出したり、部屋を飛びだしたり、くってかかってきたり、謝ったり、時には何を言われているのかさっぱり分からない子供もいた。なるべく、それ以上傷つけたくないのに、はっきりと口にするしかないこともあった。
 その子は目を大きく見開き、雪の女王の吐息を吹きかけられたかのように動かなくなった。この子には、この子にだけはもっと違う、もっと優しい言葉を選ぶべきだったのだろうか、後悔しかけた時に、その子は言ったんだ。
「あぁ良かった。先生、少しは俺のこと、好きなんだね」
生徒としてだ、と私は告げる。
「いいよ、それでも。ゼロよりマシだ」
その子は何かを決意するように力強く頷いた。
「ないものをあるようにするのはたいへんだもん。ちょっとでもあればいいんだ。あとは俺が頑張っていっぱいに増やすんだ」
その子は笑った。栄冠を手にした勝者のように微笑んで、こう言った。
「俺ね、この部にいる間に、諦めなきゃなんとかなるって、そういうのみんなみてて勉強したんだよ。だからさ、先生、俺も諦めないから」
そんな宣言をされたのも、実は初めてではなかった。そういう子供も中にはいたんだ。
けれど、彼らは若い。たった十数年しか生きていない、その青い決意ははかなく、もろいものだと知っていたから、私はあえて何も言わなかった。きみたちはいつも、そんな風だった。感情をぶつけるだけぶつけた後は、通り過ぎて行く、そんな存在だった。

きみが初めてだな、芥川。その言葉を、ちゃんと守り続けたのは。





榊先生、お誕生日おめでとう




 

 

 

 

 

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樺地景吾
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