気まぐれ日記 DiaryINDEX|past|will
『おかしをくれなきゃいたずらするぞ』 「バルク、私も寝るね。食べすぎちゃって苦しい」 悪魔族がそうなるものなのか、とバルクは思ったが口に出さずにうなずいた。 「おう、お休み」 「おやすみなさい」 ルイは宿の部屋へ戻って行った。 「今晩、私はここを発つ。長に報告してこよう」 「そうかい」 「その、剣の鞘のことも報告しておく」 その時、注文した料理が来たのでロイタスは黙った。 「お前も食べてくれ。二人とも寝ちまったからな」 唐揚げ、スティック状に切った野菜、クラッカーにチーズが乗ったものなどがテーブルに並べられている。ロイタスは気になるものから口にした。 「その鞘は、メリブレザ。セルヴェスの恋人だったドラゴンだ」 ロイタスはぽつりとぽつりと話し始めた。 「我々ドラゴンは一夜限りの夫婦なんだ。一度その間に子をなすと別れて二度と会うことはない。だからセルヴェスはメリブレザと夫婦になることはなかった。だが、メリブレザが人間に捕まり、あの通り首だけになった時はセルヴェスは怒り……この間話した通り、人間の姿で暮らすことになった」 ロイタスはいったん言葉を切ってから続ける。 「ただ、メリブレザはセルヴェスのことが嫌いだった。人間好きの変なドラゴンというところで付きまとわれるくらいなら一度子ども作って永遠にさよならしたいくらいだと私に話したことがある」 「……へえ」 「そんな彼女がセルヴェスに合わせて鞘となったんだ。本当は好きだったのかもしれない」
明日はハロウィーンなんで。 アニムは一瞬考えたが、首を振った。 「ほとんど噂だったのう。ただ、皆が実しやかに噂しておった」 「今日、役所で名簿を調べたんだが、ドラゴンの宝を欲しがっている貴族はいなかったんだ」 「役所か、それはうっかりしておった」 バルクは店主に注文する。 「お前にしちゃあ珍しいじゃないか?」 「ドラゴンの宝を見つけてしまったからすっかりその気になっていたのかのう」 アニムは肩を落とした。 「これだって、宝といえるもんか? お宝が剣の鞘なんて信じねえだろう?」 ふとバルクは、あのドラゴンの首のままなら価値があったのではないかと思ったが口にはしなかった。 「やれやれ、どうやら食べ過ぎで頭も回らん。小生は寝る」 「おう、そうした方がいいかもな」 「すまんのう」 「よくある話さ」 バルクがそう言うと、アニムは少しだけ笑った。
虫歯治療。削って詰めての話。でも完璧虫歯と言われた部分が納得いかない。なんでそんなに虫歯になるんだって思うんだよ。 ルイはアニムとケーキ屋へ向かい、バルクはロイタスとともに再びドラゴンの情報を集めようと港へ向かった。漁師や船員たちからでも何か情報はないかと思ったが、こちらも特に目新しい話は聞かなかった。ただ噂だけの『ドラゴンが宝を守るために人を襲った』というだけは聞くが、詳しいことは何も語られていない。 そしてアニムが探している貴族の存在も不思議と現れなかった。 「ちょっと役所へ行ってみよう」 バルクは役所へ向かい、ウォンテッダーのために公式的に公開している貴族たちの依頼内容を調べたが、ドラゴンの宝についてはなかった。 「こんなに世の中は騒いでいるってんのに……」 日が落ちて再び宿に集まる。女将さんはニコニコしながらメニューを差し出した。 「お昼もここにいたんだってねぇ。ごめんねー、お昼は作ってないんだよ」 「いえ、大丈夫です」 と、ルイ。やや苦しそうにしている。アニムもまた目の前の水を眺めている。 「なんだ、お前ら、食べすぎか?」 「だって、だって……!」 アニムは薬草で作った胃薬を飲み、ルイにも差し出した。彼女はありがたく受け取り早速飲んだ。 「なあ、アニム。お前の情報はどこから持ってきた?」
って、見てなかったです。初雪。 ルイは町の中を歩いていた。小さな町のため、一周するのに一時間もかからないのだが、一軒一軒を見れば、かわいい雑貨が置いてあったり、流行りらしい服が売っている店もあるので、それらをゆっくり眺めて歩いた。途中でおいしそうなケーキ屋があったので、場所と店の名前を覚えておく。あとは、町の人の会話に耳を澄ませていた。 しかしそれといった情報は入ってこなかった。この町を治める町長の存在はあるが、貴族などの話は全く耳に入らなかったし、ドラゴンが人を襲う話はあっても実際に襲われた人の話はない。 昼過ぎ頃に四人は宿の食堂に集まった。ランチは営業していないらしく、厨房には主人もいないし、女将さんは部屋の掃除をしているらしく、カウンターにはいなかった。 「どうだ?」 そう尋ねたアニムは焦ったような表情をしている。バルクもロイタスもつまらなそうな顔をしている。 「何にも」 「そうなんだよ。ドラゴンも出てこなきゃ貴族の話もねー」 「どうやらドラゴンが人を襲っているというのは噂でしかないようだ」 「私も、気をつけて聞いていたけれど、誰が襲われたっていうような話はなかった」 「……そう言えば、グオンは?」 「あやつは帰った」 アニムはグオンが乗船券を買ったのを見かけた。声をかけたら「もうすぐフォーランズへ向かう船がある大きな港へ行く船が出る」と言ったらしい。 「今日の船を逃すと一週間後らしいのでな」 「そう」 「ルイによろしくと言っておった。相変わらずな奴だなぁ」 「そうね。それよりアニム。ちょっと甘いものでも食べようよ」 「そうだな。今日はもう自由行動と行こうぜ。夜に今後の計画でも立てよう」
妹が昨夜ニュース?で見ていて「ニッポンのハロウィンという表現はおかしい」とのたまっていた。で、更に「コスプレっていうのもおかしい。本格的にコスプレしている人に失礼だと」
いつもと違うのはなんでしょう? ドラゴンの宝は意外に簡単に見つかったが、意外にとても面倒なことになっていた。ドラゴンの宝は貴族たちが欲しがっているようで、その一人がアニムの敵であり、ドラゴンの宝を守るドラゴンがいるような噂まで流れている。 「ひとまず、今日は食べて寝よう」 バルクはメニューから適当に注文した。 その夜は食事してすぐ解散してそれぞれは眠ることにする。この宿は一人用のため、部屋は狭いが一人部屋だった。 ルイはベッドにもぐってしまうと、すぐに眠りに入った。 翌朝は皆ゆっくり起きてきた。食堂に集まると女将さんがパンとミルクを並べてくれる。 「私はまず船乗り場へ行ってくる」 「小生は貴族の話を聞いてくる」 「俺はドラゴンに襲われた奴がいるかどうか、そういった噂でも集めてくるよ。ロイタスと一緒にな」 「私は……おいしいお店があるかどうか探してくる」 誰も何も意見はなかった。 アニムがルイに一言。 「ついでにドラゴンのことと貴族のことを聞いてくれないか?」
学芸会と学習発表会の違いってなんだろう? その夜、ロイタスはその港町まで四人を運んだ。ロイタスの背は冷気を放っており夜の冷気と合わさって、アニムとバルクは凍えきっていた。ルイとグオンは平気な顔をしている。 人気のないところで降ろしてもらい、ロイタスは『見届けないとならない』と自分も同行すると言った。夜も更けていたが宿は開いていたので部屋を取った。 「準備するから食堂で食事でもどうだい?」 「いただきます!」 いの一番に言ったのはルイだった。 「だって、今日ほとんど何も食べてないもの」 夜になるまで少しばかりの簡易な食事で済ませたのだ。昨日の夜からまともな食事は摂ってない。 「そうかい、じゃあ、アンタ頼んだよ!」 宿の女将さんが叫んで、厨房から「はいよー」と返事が聞こえた。 「それにしても、こんな夜中にお客だなんて、珍しいね。ドラゴンに襲われなかったかい?」 「ドラゴンに襲われる?」 と、ロイタス。 「ああ、最近ほら? ドラゴンの宝がどうのって、それで、ドラゴンの宝が狙われているっていってドラゴンがそれを守っているとか、なんとか」 女将さんは「くわしいことはよくわかんないよ」と言って、準備のため奥に引っ込んだ。 五人はとりあえずテーブル席に座る。そして、ロイタスは「どういうことだろう?」と首をかしげた。 「我々は、よほどのことがない限り人間に干渉しないのだ」 「うん、そうだね」 ルイはメニューを見ながら言った。 「ドラゴンが人を襲っているとなると少しまずいことになる」 「なんでだ?」 と、バルク。やはりメニュー表を見ながら尋ねた。 「今の長は、『人に危害を加えてはならない』と掟で定めている。これを破ったとなれば長が直々に動くだろう。人のルールを良く知らないドラゴンだからどうなるかわからないが、非常に面倒なことになるのは間違いない。頼む、この一件を解明してくれないか?」
円山動物園のエランド、ラッシュがお亡くなりになりました。
だからって昨日のことも覚えてないのはまずいですな。 結局はアニムの目的の人物である『人身売買』を行っているという貴族がいるところへ行くことになった。それがバンデン王国の王都から街道を南へ行ったところにある港町だという。つまり場所はあまりはっきりしていない。 「やっぱりパンケーキが私を呼んでいるのね」 ルイが移動魔法を使おうとしたが、ロイタスから止められた。 「その港町の近くまで連れて行こう。どうせ王都はヒトでいっぱいなのだろう? 目立たぬよう、夜に移動する。それまでこの森で待機だ。実は、セルヴェスの宝を見たいと言っている妖精たちや変なのを見たいと言っている妖精たちもいる。協力してくれないか?」 ルイはやっぱりがっかりした。 森の中に入ると涼しく、日もまばらなのでグオンはマントを脱いだ。アニムが返せというような顔をしていなかったので、借りておくことにする。 妖精たちがロイタスの周りに集まってきて何かを話す。 「セルヴェスの剣も見せてやってくれ。皆、セルヴェスの友人だったものたちだ」 バルクは剣を抜いて鞘と剣を地面においた。妖精たちはしげしげと見つめては囁きあい、さらにグオンの周りをぐるぐると飛び回っては首をかしげている。 グオンは気にしていないようだった。 『アナタ、魔族の臭いがするのね』 妖精の一人がグオンに話しかけた。 「妻と娘は魔族だからだ」 『そうなの。面白いね。でも臭くない。きっと糧がいいのね』 この妖精たちは魔族のことをどれほど理解しているのかわからないのでグオンは返事が出来なかった。妖精たちは思う存分見て飛び回ったあと、ロイタスに挨拶して去って言った。 「グオンはどうするのだ?」 アニムが尋ねた。 「お前たちにやることがあるのなら仕方がない。港町まで一緒に行こう」 移動手段のないグオンは、その港町からフォーランズ、もしくはフォーランズへ向かう船が出ている港に向かう船があると見込んでいる。 「その港町に何かおいしい甘いものがあるといいな」 「なんだ、その不思議な希望は」 ルイのつぶやきにバルクが呆れながら尋ねた。 「あらバルク、甘いものがすべておいしいものとは限らないのよ。時には甘すぎて失敗しているものもあるわ」 「そうか、そうか。なるほど、確かに」
連続的に使う時期がやってきたのかもしれない。 グオンはやや顔をしかめる。 「これを。日よけになる」 アニムが鞄から黒いマントを出した。副業の占いをする時に羽織るものだ。 「助かる」 グオンはそれを頭からかぶってようやく出てきた。 「さて、これからどうする? バンデンの王都へ行くか?」 「どうせまだ人がいっぱいいるんでしょ? パンケーキも食べられないんでしょ?」 ルイが拗ねている。 「私はフォーランズに戻る、と言いたいところだが、どうにもできん」 グオンは困っているのだが、それを表に出さない。相変わらず平然としている。 「なんで地下牢にいたんだ?」 グオンは少しためらってからやっと口にした。 「娘の悪戯を受けた。強制移動魔法によって」 『娘?』 三人が同時に声をあげた。 「なぜ、子をなすことが出来る?」 ロイタスは不思議そうにグオンを見る。 グオンはアンデッドだ。一度死に、それを無理やり生き返らせた結果、生きてるとも死んでるとも付かない存在となった。 ドラゴンであるロイタスにはそれを感じることはできる。 「……さあ。世の中は不思議なことばかりだな」
今週の一言:二人がまとも(?)に会話したのって4巻以来じゃないか? 「そうか、死んではいなかったんだな」 ロイタスは目を閉じて祈るように何かをつぶやいた。その姿は人間のようだった。 「セルヴェス、これでいいんだな」 バルクは鞘を腰のベルトで固定し、剣を収める。それまで使っていた鞘はやや迷った末、その場に置いておくことにした。理由は、『邪魔だった』からとしか言えない。 「いいのか、バルク?」 「もったいないが仕方がないだろ。持っていても邪魔になるだけ……」 「私が預かろう」 グオンが鞘を拾った。 「ヘネシー王女にお会いしたら渡しておく」 「おい」 「お前に会いたがっていた。次は勝てると言っている」 バルクが一瞬青くなった。 地下牢は途中で通路が塞がれていてそれ以上は先に進めなくなっていた。あとはもう何もないようなので一行は階段を上がって外へ出た。 「あ、明るい!」 まだ太陽は高く眩しい。
地元に球団があれば、地元にがんばってもらいたい、そんだけだけど日ハムがんばったな。 「これが、宝?」 ドラゴンの首は目が見開いており赤く輝いている。まるで生きているかのようだった。 「これが、セルヴェスの友人のなれの果てだ」 ロイタスが言う。 「セルヴェスの?」 「あいつが、私たちが若い時の話だが、セルヴェスはこれを見て怒り、この国を瞬時にして破壊した。我々はたまにヒトのものを壊すことはあったが、セルヴェスのそれは度を超えてしまった。だから、前妖精主は時間を戻しすべて元通りにしたのだが……」 「それで、人間の姿になっていたんだな」 バルクはセルヴェスのことを思い出す。 妖精主の罰を受け人間の姿をしたドラゴンの長。長い時を経て死期を悟っていたセルヴェスはバルクのことが気に入り、死して剣となった。ドラゴンが死すと精神が物質となり、なんらかの形となることを初めて知った時だ。 バルクは剣を抜いた。うっすらと緑色の光を放つ刀身は手にした時から衰えていない。 「さ、セルヴェス。これをどうする?」 その時バルクはそのドラゴンの首を一刀両断した。 「何をする、バルク!」 アニムが驚いたが、ロイタスはうなずいている。 「これが、答えだってよ」 ドラゴンの首が、形を変える。それが、剣を納める鞘となった。木とも金属とも付かない材質のそれは剣がしっくりと納まる。
いつも思いつき、即興でやっているもんだから、その日の書き込み量が違いが出ても仕方がない。 階段を降りて行くと牢屋のようなところに出た。広い牢屋は人間が入るには広すぎる。何十人もの囚人を入れていたのだろうかとも考える。 「ここは変わってないな」 ロイタスはつまらなそうに言う。地下牢は古くも形はそのまま残っていた。バルクが何かに気付き、ランプの光が届かない奥へ走った。 「おい、平気か?」 「……こんなところに人が来るとは思わなかった」 「アニム、早く来てくれ!」 アニムたちもバルクの方へ走る。そこには崩れた瓦礫に足を挟まれた男がいた。そんな状況でも男は涼しい顔をしている。 「お主は、グオン」 「フォーランズの教育係がなんでこんなとこいるんだ?」 「妖精たちが言っていたのは、あなたのことだったのね」 「なんだ、知り合いか?」 とりあえずバルクは瓦礫をどかした。グオンと呼ばれた男は難なく立ち上がり、やはり涼しい顔で礼を言った。 「もう少し経ったら助けを呼ぼうと思っていたんだが、まさか女神が助けてくれるとは思わなかった。ありがとう、リュレイミア嬢」 ルイの手を取り、厚く礼を言うグオン。 「いや、あたし、悪魔だし。でもどうしてここに?」 「ちょっとしたアクシデントでな」 「どこがちょっとしているんだ?」 質問には答えず、顔色一つ変えずグオンは逆に尋ねた。 「お前たちこそ、こんなところで何をしているんだ?」 「今の流行を知らんのか? 宝探しだ」 それを聞いてグオンは神妙にうなずいて「なるほど」と小声で言う。 「イーリスが言っていたな、そういえば」 「それがここにあるみたいなの」 ロイタスはふと指を差した。 「もう少し先の方だ」 アニムがその先にランプを向ける。そこにはドラゴンの首の像があった。
今日は水汲みに行ったのだがなんとなく無意識に運転してた気がする。ちゃんと運転はしていたけれど、うーんなんだか記憶が曖昧な気がする。気のせいかもしれないけれど。 森へ戻るとロイタスは早速妖精たちを見つける。三人の目には見えなかったがロイタスが声を掛けて妖精が返事がするとその姿が浮かび上がる。 「まあ、ロイタスじゃないか」 「ずいぶん久しいね」 「また人間たちと旅をしているの?」 などと次々と現れる。ロイタスは挨拶をそこそこに切り出した。 「この辺に城の地下に入れる入り口があると聞いたのだが」 妖精の何人かが「はいはい」と声を上げた。 「知ってる知ってる。でもそこに変なの居るよ」 「変なの、とは?」 「うん、なんか、変な人が」 「変な人......」 ロイタスが妖精たちに礼を言ってから早速教えてもらった場所へと急いだ。妖精たちが言っていた『変な人』が気になる。 やがて、木々の間に挟まれた岩があった。岩に見えたそれは石戸で、それをバルクが押し開けた。下へ続く階段がある。 「ここね」 「ああ」 その下は暗く確認出来るようなところではない。あらかじめ用意していたランプを掲げて慎重に降りていった。
気付いたときにはもう遅い。
鼻が辛すぎて市販薬飲んだ。 ロイタスはフローズンドラゴンだ。その名の通り凍れるドラゴン。体は氷でできているかのように堅く冷たい。そのため、ロイタスの背には厚手の毛布が何枚もかけられていた。 「乗れ。送っていくから」 「いいのか?」 「もちろんだ。あれはヒトの手に渡るよりは、セルヴェスが持っていたほうがいいだろう」 三人が背に乗るのを確認するやロイタスは飛び立った。 「で、ロイタス。その宝はどこにあるのだ?」 「まずはあの森に戻る。そして旧王城の地下入り口へ行く」 「その場所、知っておるのか?」 「さあ」 バルクとルイは真っ青になった。ロイタスの冷気ではなく彼の返事によって。しかしアニムは平然としている。 「では、それをどうやって探すのだ?」 「妖精に聞いてみよう。あの森には多くの妖精たちが住んでいる」 この世界ではドラゴンと妖精は同じ仲間だ。妖精主によって統べられている。 「ところでどうやって私たちを山まで連れてきたの?」 「あまりに良く眠っていたので、つい。しかし途中でうっかり落としそうになって、妖精たちに助けてもらった」 「それって、そのまま落下してたら死んでたってことか?」 バルクが思わず尋ねて『しまった』と思った。ロイタスは答えなかった。ドラゴンとは、やはり恐ろしいものだ。
最近なんか忙しくて予定通りにゆかない。 朝目覚めると景色が変わっていた。 「何事だ!」 バルクが驚いている。森の景色は山の景色になっていた。 「ここはどこだ?」 バルクの声に目覚めたルイも驚いてあたりを見回した。 「何?ここ?」 「山……ここはドラゴンの長の山ではないか?」 「長の?」 だいぶ前に三人はここに訪れたことがある。 「でもどうして?」 「私が連れてきた」 現れたのは、背の高い青年だった。少しだけだがあたりが冷えたような気がする。 「あなたは、確か、ロイタスさん?」 ルイが恐る恐る尋ねる。 「そうだ」 「なぜ、小生らをここに?」 「お前たち、セルヴェスの宝を探しているのだろう?」 ロイタスは顔色を変えずに尋ねる。バルクがちらりとアニムを見る。『ここは言い出しっぺのお前が答えろ』と言った目だったので、彼は仕方がなく一歩前に出た。 「そうだ。でもそれは金目的ではないのだ」 アニムは理由を正直に話した。軽く自分の身の上を話してから貴族のことを伝える。 「ふうん、なるほど。わかった探すのを手伝おう」 「へ?」 「セルヴェスの宝かどうかわからんが、たぶん、あれのことだろうから」 「アレ?」 「ああ、心当たりがある」
ちまたでピン子のいびりっぷりが評判な朝ドラ。最近週遅れで見始めました。
第1部が。 アニムのいいかげんな方法で森を進んでいく。森の中は静かで何も出てくる気配はなかった。しかし日が沈んて行くにつれ、不安な空気が流れてくる。あたりが暗くなってきたのでアニムは急いでランプを付けた。 「今日はここまでだな」 野宿が出来そうなところを見まわす。ちょうど少し開けた場所があった。 「やっぱり野宿か」 ルイはやはりがっかりする。 「まあ、とりあえず今のところは何もないな」 と、バルクは早速、焚火の準備をする。その手には道中拾った枯れ枝が握られていた。 「どうせこんなこったと思ったんだ」 アニムも何本かの枝を手にしていて、先ほど道しるべに使った枝も手ごろに折った。 「暗くなるのが早かったな」 「ちょっとね」 鞄から携帯食を出して三人で細々と食べ、早々休むことにする。バルクが落ち着いているのでアニムも安心できた。 バルクは野生の勘が鋭く、危険を察知する能力に長けている。危険があれば寝ることが出来ず、眠っていたとしてもすばやく目覚める。逆に危険を感じなければ目覚めることはない。朝までぐっすり眠っている。 「羨ましいのう」 「ホントにね」 アニムがバルクと一緒に旅をする利点は、この能力と剣の腕だった。バルクはビアソーイダという小さな島国の王族である。ビアソーイダは、代々粗野で剣術に長け放浪癖がある王族で、たくさんの兄弟がいたとしてもどんどん国を離れていく。名声をあげるウォンテッダーの中でもバルクの兄弟や親戚が多いようだ。 「明日にはとにかく見つけないとな」 「そうね。野宿はやっぱり好きじゃないもん」
お天気良いのにひたすらインドア連休中日。 宝のありかがわかっただけではどうにもならないことを三人は知っていたはずだったが、あまりに広大な森のために入る前から諦めた。 「無理だ、これ」 バルクが森の入口付近で弱音を吐いた。ルイもこの中に入ると当面甘いものやおいしいものが当たらないと感じてひどくがっかりした顔をする。言い出しっぺのアニムも表情は諦めていた。 「しかし、ここまで来てやらないとは」 「だけど無理だ」 「そうよ、どうやって探すの?」 「どうやって探す?」 アニムはふと思い出した。そして、落ちている適当な長さの小枝を拾って、念じながら倒した。 「よし、こっちだ」 「おい」 「信用はあるぞ。小生これでも副業で占い師をやっておる。これは一応小生の魔力を以て行っている呪いだからのう」 「ウソだろ、おい」 「いくぞ、バルク」 二人はアニムに続くしかなかった。
やっぱり心でおめでとうって言っておく。 ようやく人の少ない通りに入り三人はほっとした。しかしこの王都内の宿屋はどうやら全て埋まっているようだった。 「どうしよう」 「どうしよもない。どうせここは通過点だ。王都を出るぞ」 「あーあ、やっぱりな」 「ええー、ここのパンケーキ美味しいのに!」 ルイが文句を言う。彼女が移動出来る範囲は美味しい物があるかどうかにかかっているようだ。 「せめてパンケーキだけでも」 「よせ、ルイ。その店は大通りだっただろ!」 「うう、パンケーキ」 「残念だが、今度にしてくれ、ルイ。用があるのはここではない」 入る者が圧倒的多い王都の門を逆流し、アニムたちは王都を出る。バンデンは広い国だが、王都以外の街のほとんどが小規模の街で後は小さな村がぽつぽつとあるくらい。そして国の大半は山脈と森に囲まれてドラゴンの住処となっている。 「それでアニム、どこへ行くの?」 「王城だ」 「王城!?」 「詳しく言えば、王城の森だ」 「お前、本気か?」 「本気、本気。お宝が目当ての振りなのだから」 アニムは結局あまり詳しい事を言わなかった。だからバルクもルイもアニムが次に何をするのか分からない。バンデン王国の王都は名ばかりで王城はだいぶ離れた森の中にあり、城は森に守られている。 「実は森の中から昔の王城の地下に入れる洞窟があるらしい」 「昔の王城って、災害で崩れた城の事か?」 アニムはニヤニヤとしながら頷いた。 「そうだ。宝は旧バンデン城の地下にある」
私は留守番する。 アニムの情報では、やはりバンデン王国に宝は隠されているというらしい。たくさんのウォンテッダーがバンデン王国に集まり、王都は大変な賑わいとなっていた。 「なんだかなあ」 宿も食堂も何もかもがいっぱいで三人は混みあう大通りを縫うように進んでいた。 「なあに?」 「そりゃあ、便利だけどよ」 バンデンまでルイの移動魔法を使った。 悪魔族のルイとの出会いは、彼女が突然空から落ちてきたことによる。落ちてきたように見えただけのことだが、彼女は飛ぶのが苦手だった。悪魔族とは、魔族に似た種族であり、人間を惑わせて堕落させ地獄へ導くという役割を持つ。また、相応のものをささげることにより悪魔は人間の手を貸し高い魔力を持って助けるという。しかし彼女はそのどちらにも当てはまらなかった。彼女は何らかの事情で逃げて人間界にやってきたのだ。 「なんかこう、あっけなさ過ぎてな」 「何日も船乗って馬車乗って行かなきゃならないのは面倒でしょ?」 「交通費浮いたな、バルク。助かったよ、ルイ」 「アニムだけよ、そう言ってくれるのは。船はいいけど、馬車って苦手。お尻痛くなるし」 「まあ、確かにそうだわ。ところでよ、どう思う?」 「どうって、まあ思った以上だ」 「私、疲れちゃった」 とにかく今は大通りを抜けて人通りの少ない場所まで行きたいのだが、なかなか思うように進めなかった。
記念日のため職場休み。強制的(?)に有給をとるそんな日。 バルクとルイがうなずいた。アニムが『人身売買』を許せないことを知っている。だからこんな変なことに首を突っ込もうとしている。 アニムは故郷から連れ出されたエルフだった。希少なエルフであり、そのエルフの百人に一人の確率で産まれるという男のエルフだから、手に入れればおいしい獲物だった。アニムは多くいる母親の一人とともにウォンテッダーたちに捕まり、母親を殺され自分はなんとか逃げ出した。それから人間の老人に拾われ育てられて今に至る。 「だからドラゴンの宝など、実はどうでもよいのだ」 「そんなことだろうと思った」 「そうこなきゃ。それにあるかもしれないじゃない、そのお宝」 「んじゃあ、やっぱり仕事だな。さ、詳しいことを教えてくれよ。どうせもう調べてんだろ」 ウォンテッダーは求める者。その区別に善悪はない。ただ欲しいものを手に入れるために世界を歩き探し求める。ある者は巨額の富、ある者は名誉、ある者は不死の妙薬。その中には諦めて故郷へ帰る者もいるし、志半ばに倒れる者もいる。 アニム達のように許されざる者の悪行を抑える者もいる。
勉強したくない。 アニムの提案は、今多くのウォンテッダーたちが狙っているドラゴンの宝を手に入れようというものだった。目的を達成し、次の目的を失ったウォンテッダーがなんとなく始める次の目標となりつつある。 「本気か?」 ただ出所はあくまでおとぎ話だから半信半疑で始めて途中であきらめるウォンテッダーも少なくない。バルクにはアニムの思惑が分からない。がめつく堅実的なアニムがやろうとすることではないと思っている。 「だから、たまには馬鹿をやるのも良いって言ったろう」 「何を隠してる?」 「アニム、ちゃんと本当のことを言った方がいいよ」 ルイもバルクと同じ思いだった。このエルフはそんなおとぎ話に飛びつくような馬鹿ではない、ということを。 「面白くないのう、お主らは」 アニムは観念して、本当のことを言うことにした。 「今流行りなのは確かなのだ。このおとぎ話、ドラゴンの住処のあるバンデン王国やその周辺の国にはよく話されておるのは知っておったのだ。しかしここ数カ月のうちにあっという間にあちこちに広がっておる。昔話なのにな。そして、そろいもそろってこの話の宝を探す輩が多いのだ」 「ずいぶんおかしい話だな。んで、面倒そうな話だ」 そう言ってバルクは店員にエールのおかわりを要求した。 「全くもってそうだ。しかし、嫌な予感がするだろ?」 「嫌な予感しかしないわね。何かいろいろありそうだけど、首突っ込むの?」 「それこそ、お前にあるまじき行為じゃねーか?」 まだ何か隠しているだろ、とバルクは続ける。その間、追加注文のエールが来たので一口飲んだ。だからアニムは声をひそめた。 「実はドラゴンの宝に懸賞金がかけられておるのだ。揃いもそろっての貴族だ。そのうちの一人が、人身売買を行っているという噂があるのだ」
今週の一言の訂正:すっごい最終回間近! むかしむかし、一匹のドラゴンがおりました。 ドラゴンは人間に興味がありました。 ある日、恋人であったメスのドラゴンを人間に殺されてしまいました。 ドラゴンはとても悲しみましたが、それでも人間への興味は尽きませんでした。 それから幾年も経ちました。恋人を無くした悲しみが癒えた頃、ドラゴンは人間の男の子に会いました。ドラゴンは仲間のドラゴンを連れて少年と一緒に旅をしました・・・・・・(中略)。 その旅で、ドラゴンはりっぱな宝物を手に入れました。 どこにでもあるおとぎ話であり、世界中の子供たちが夜寝る前に聞かされる誰もが知っている昔話である。 「そんな話、聞いたことないわ」 ルイは木イチゴとブルーベリーのショートケーキの最後の一口を惜しむように口に入れた。 「いや、お主は悪魔であろうに」 アニムもまた主に焼き肉とレタスが挟まっているサンドウィッチの最後の一口を肉汁をこぼさないように口に押し込んだ。 「俺もあんまり聞いたことねーな」 バルクはジョッキ半分くらいのエールを一気に流し込んだ。 「お主はきっと話を聞く前に寝ていただけだろう。だいたい小生だってこの話はどこかの村の子供から聞いたのだ。ただ内容が気になったのでいろいろな土地の子供に聞いたのだ。その土地というか、家庭によってさまざまなアレンジが入るがのう、ドラゴンが少年と仲間を連れて旅をして宝を見つけるところは同じだ。ちなみにこの宝はよく知られていないが、アレンジによれば『友情』とか『絆』などという無形のものが48%、『金銀財宝』などという金銭的なものが30%だ」 「あとの22%は?」 とルイ。お茶をゆっくりと含むように飲んでいた手をとめて尋ねる。 「『りっぱな宝』『すごい宝』『見たことがない宝』『とんでもない宝』といった曖昧な表現だ」 「で、アニム。そのお伽話がなんだというんだ?」 「お主は察しが悪いのう。お主のその剣が一番良く知っておるはずだ」 アニムは指でバルクの腰あたりを指差した。そこには大振りの剣がベルトで下げられている。 「このおとぎ話、どう考えてもソレのことだろうに」 「セルヴェスか……」 「そうだ。たまには馬鹿みたいなこともしてみるかと思うてな」 アニムはにやにやと笑った。
行ってきました。
温泉に入らない温泉旅行します。
朝が結構寒くなりました。
そういうつもりで教科書を読めば、勉強も楽しいはず。
草うららか
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