どうも体調が良くない。 はっきり男らしく「熱が40度あります!」くらいの症状がしっかりあればいいのだが、そこまでではなく、どうも熱っぽかったり、関節が微妙に痛かったり、胃の調子が良くなかったり――という具合である。 仕事の方は一応先月末でひとつの山を越えたことは越えたのだが、それはそれ、やるべき事、やらざるを得ないことは寄せては返す波のように次々とやってくるのである。
先日も昼前くらいから突如として胃がきりきりと痛みだしてきた。元々胃腸は強いほうではないが、どちらかというと俺は“お腹をこわしやすい”方面のタイプであり、この時のように“胃が痛い”ということはあまり経験がない。「なんだろうなあ……」などとハラをさすりながら、この日の昼食は軽めに済ませた。勿論、会社を早退するほどの症状でもないし、早退できるような状況でもない。結局この日も10時過ぎまで残業をしていたのだがこの時間になっても胃の痛みは治まらなかったので、さすがにヤバいと思い始め、テキトーに残業を切り上げ寒風の中家路を急いだ。 「なんか、胃が痛いんだよねえ」 帰宅し、着替えながらツマに言うと、 「そういう時は薬を飲みなさい。アナタはあまり薬を飲むほうではないので、そういう時はぜひ胃薬を飲みなさい」 というようなことを言った。 なるほど、ツマの言うとおり、俺は風邪の初期段階や頭痛などでもあまり薬に頼ることをしない。 これはきっと子供の頃のトラウマ、ということもあるのだろうか。
小学校の約6年間を、俺は小児喘息というなかなかシビアな病と闘いながら過ごしてきた。この病気のおかげで、ほぼ毎週木曜日は母に連れられて上野の病院まで注射を打ちに通っていたし、タイミング悪く学校の行事と苦しい発作が重なってしまった時は、例えば運動会を保健室のベッドの上で過ごした。小学校6年生の時の修学旅行は喘息の発作のおかげで参加することが出来なかった、というカナシい思い出もある。 こんな小学校生活では、常に俺のそばには喘息の薬があった。 いやという程薬を飲まされたので、今となってはもう薬は勘弁してくれ――という思いがどこかにあるのかもしれない。 そんな俺でも、絶大なる信頼を置く薬がただひとつ、ある。
『ラッパのマークの正露丸』
手のひらに乗せて二錠飲むだけで、手が征露丸臭くなってしまうという強烈な、あの薬。 前述のとおり、俺は胃腸が弱いので、例えば熱い風呂に週刊ベースボールでも読みながら長いこと浸かっていた後、キンキンに冷やしたコカコーラなんぞを一気飲みでもしようものなら、ちょっと油断していると腹の奥底の方がぐるぐると疼いてくる。 そんなときは迷わず正露丸の登場だ。 外回りの仕事をしているころは正露丸の“糖衣錠”を本気で鞄の中に常備しようと思っていたくらいである。 珍しくひどい頭痛に悩まされているときでも、なかなかバファリンなどの頭痛薬に手が伸びないのだが、『あ、ちょっとハラの具合が……』ということになると、迷わず正露丸。これがまたテキメンに腹の痛みが治まるからすごい。個人的には、正露丸の開発者には田中さん以上にノーベル賞を与えたいと思う。
胃の痛みを堪えながら帰ってきたこの日の晩も、正露丸を飲めばなんとか治まるだろうか……、などと呟いていると、ツマは「わけの分からないこと言ってないで。是非太田胃散を飲みなさい」 ああ、粉薬は苦手なのになあ。
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