のづ随想録 〜風をあつめて〜
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【のづ写日記 ADVANCE】

2002年08月21日(水)  静寂

 ツマが近所の図書館から借りている本の返却日がとうに過ぎている――というような連絡が図書館の事務員さんからあった。先日の日曜の朝。
 電話の向こうで『オタクの奥さんの……』なんて言いだすものだからてっきり『――命は預かっている。無事に帰して欲しかったら3000万円用意しろ』と言われるのかと思ったのだが、どうもそういうことではなく、『オタクの奥さんの借りてらっしゃる本の返却について……』ということだった。
 それまでの真夏の日々が嘘のように小雨のそぼ降る一日だったので、車を出すことにし、ツマが借りていた本を返しに図書館まで行った。ツマは大きな紙袋に10冊程の本を入れて車に乗り込んできた。
「そ、そんなに借りてたの?」と俺はマジで驚いてしまったが、もともとツマは俺なんかよりずっと読書家で、かなりいろんな作家の本を読んでいる。

 図書館はウチのすぐ近所で、車で数分のところにある。ツマはしょっちゅう通っている図書館だが、俺自身といえばそのものに馴染みがなく、この図書館を訪れるのも一年ほど前にやはりツマと一緒に本を返しに来て以来だったかもしれない。ツマは本の返却コーナーへ、俺はフロアをぶらぶらと歩きだした。
 “図書館”にはどうも独特の雰囲気がある。
 ちょっと張り詰めたような空気が漂っていて、古本屋とはまた違う“本の匂い”がする。びっしりと様々な本が整然と並べられ、閲覧コーナーではゆっくりとページをめくる人々がその静寂の中に居る。
「ああ、大学時代……」
 卒業論文を仕上げるために大学の図書館に通い詰めた時期を、ふと思い出した。“図書館”の独特の雰囲気に居心地の悪ささえ感じていたその頃の俺だったが、毎日のように図書館へ足を運び、珍しく集中して調べものなどをしていると、慣れてくればあのひんやりとした静寂も心地よい。受け付けの女性ともなんとなく顔見知りになったような気がして、軽く会釈ができるだけでも友人がひとり増えたような気分だった。
 ウチの近所にあるその図書館には(他の図書館にも当たり前にあるのかも知れないけれど)雑誌が閲覧できるコーナーがあって、俺の愛読書である『週刊ベースボール』なんかも毎週読むことが出来るようだ。
 なるほど、日々ばたばたと喧騒の中で右往左往しているのだから、たまにはこういう静かなところでゆっくりと過ごすというのもいいかもしれないな――と思った次第で。

「おまたせ」 新たに10冊の本を借りて、ツマが戻ってきた。「『模倣犯』が借りられなかったわあ」
 人気のある本はずっと先まで予約が入っているようだ。ツマは戦利品をひとつひとつ確かめるように、借りてきた本の表紙を嬉しそうに眺めていた。


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