もうすぐ誕生日を迎える俺は、運転免許証の更新締切りがもうすぐ直前に迫っていた。で、近所の警察署へ朝一番からの講習を受けに行った。 必要書類を提出し、更新料などを支払う。 「眼の検査をしますので、あちらのイスに座ってくださあい」 係員のおばさんに促され、小さな丸イスに腰掛ける。最近の視力検査ではよく見かける、デスクトップパソコンのモニタくらいの大きさの箱に開いている二つの穴を覗き込んで、そこから見える『C』なんてやつを右だの左だのと答える、アレ。 子供の頃には数メートル先に視力検査用の検査用紙(というのか、アレは?)が張ってあって、先生が次々と小さくなってゆく『C』を指し棒で示してゆく――というのがポピュラーだったけれど、最近はもうどこもやってないのかな。そのくせあの検査用紙だけは張ってあったりするんだよね。 俺の視力は、今、裸眼で0.4〜0.6位だと思う。メガネをかけて1.0〜1.2というあたりか。特別、メガネがなければ生活できないわけではないが、少なくともここ数年、俺の免許証には“眼鏡等”という運転条件が記されていた。ま、視力が落ちているのだからコレは仕方のないこと、と諦めていた。 「はい、じゃあ、メガネを外して穴を覗いてみてくださーい」 係員のおばさんが言った。敵は機械的に『C』をどんどん小さくしてゆくわけだが、3つ目くらいに小さくなった『C』はもはやほとんど見えず、右だか上だか分からない。 「ううん……、上……、かな?」 「はい。じゃあ、これは?」 どれだけ目を凝らしてみても見えない。 「わかりません」 「よく見て下さい」 「え?」 ――よく見て下さい、とはどういうことだ? 見えねーから「分からん」言うとんのに「よく見ろ」とは……。とりあえずテキトーに「左ですかね」と答えると、おばさんはさらに小さい『C』にした。 「ああ、わかりませんねえ」 「よーく見てみてください」 なぜそんなに強要するんだ。見えねーっつってんだろが。その米粒みたいな『C』が見えないと俺の免許証は更新しないとでも言うのか。それとも、あの係員のおばさんにはノルマがあって、担当した人の平均視力が0.6を下回ると仕事上の評価が下がってしまうのだろうか。 眉間にしわを寄せて目を凝らすので、肩がこってしまう。おまけにその直後、講習と称したビデオ――交通事故被害者の悲劇、みたいなココロの傷むやつ――をさんざ見せられて、朝からすっかり疲れてしまった。
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