ウチの会社の事務所から歩いて1分位のところに営業車を停める駐車場がある。その駐車場は7台の駐車スペースがあって、さほど広い駐車場でもない。 先日、残業を終えて、とぼとぼと駐車場へ歩いていった。22時を回ろうか、という時間だった。 俺の営業車のワイパーが、まるで昆虫の触角のように二本とも立てられていた。暗闇の中で不自然にワイパーが中空を突き刺すその様はどうも異様であった。そして、脱力感……。 「……」 こんなくだらないいたずらをするのは同僚のAかYしか考えられなかった。二人は俺より早く事務所を後にしていたので、恐らく彼らが駐車場から出る直前にこんなしょーもないいたずらをしてくれたのだろう。 俺は失笑しつつ、すぐさまAのケータイを鳴らしたのだが、すでに帰宅してしまっていただろうAは電話には出なかった。 まったく――。この仕返しはナニをしてやろう、などとほくそ笑みながら運転席に座った。エンジンをかけ、何気なく運転席側のサイドミラーに視線を移し――。 脱力感……。 運転席側のサイドミラーがたたんである。 「ええいっ!」 こまかいいたずらをしやがって。間髪を入れず、俺はYのケータイを慣らす。 「てめー、Y! おまえだろ、俺の車のミラーをたたんだのは!」 『ああ、バレましたぁ?』 「AかYしかいねーだろ、こんなくだらないことすんのはヨ」 『でもワイパーは僕じゃないっすよ。Aさんです』
こんな具合に、俺とAとYは何かにつけお互いを陥れようと虎視眈々とスキを狙っている。まあ、そんな関係がおもしろかったりもするのだが。 で、今日。 先日のワイパーとサイドミラーの仕返しを決行。残業中、俺はAとYの目を盗み、こっそり事務所を抜け出すと、彼らの営業車のワイパーに紙を挟んでおいた。 Aの車には『迷惑駐車』と書いた紙。ちゃんと駐車場に停めてある車に『迷惑駐車』という張り紙がしてあるところがポイント。我ながら面白いと思う。 そしてYの車には『すべて解決した。すぐ帰れ』――意味はない。 彼らのリアクションが楽しみである。
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