だだの日記
2005年08月14日(日) |
アルピニストよ、永遠に! pt2 |
朝3時30分に目覚ましをかけていたのに、 例の隣の集団がうるさく3時過ぎには起きてしまう。 無神経過ぎる。
昨夜から降り始めた雨は、テントを撤収する頃にはやんでいたが、 風がいっそう強くなっていた。 テントを片付けるのが大変であったし、 ポールが曲がってしまったよ。 本日は5時10分に出発。 だらだらとした登り坂が続くが、困難ではない。 ただ、台風並みに風が強くてつらかった。 しかも、常に西から吹くので、稜線の左側を歩くときが大変。 右側に入った時にさりげなく休憩する。 こんな荒天なので周りには誰もいず、 風の音だけが聞こえる。 ペンキマークを目印にガレ場を丁寧に歩いていると、 自然と一人だけの世界に入る。 一歩足をすべらせれば、確実に死ぬ。 そんな状況下で自己と向き合っていれば だんだん神経が敏感になっていき、 五感が研ぎ澄まされていくのを覚える。 足場に全神経が集中し必死に歩き続けるが、 そのすべてはただ生きるためだけの行為。 こういうのが一人登山の醍醐味。 黙々と歩きながらそんなことを思っているとやがて頂上に着いた。 日本百名山の一つ、鹿島槍ヶ岳。 が、展望はまったく優れず、風が強くてそれどころじゃない。 頂上にはさすがに人がいて、記念撮影を手伝ってもらったりしていたが、 5分もしないうちに出発。 雨も徐々に強くなってきた。
実はこれからのコースが今回のメインイベント。 今日のコースタイム、9時間15分というのは 僕に取って未だ経験したことのない領域。 通常なら6時間くらいを目処に、昼過ぎには到着するのが一番望ましい。 しかも、地図に危険マークの付く難易度の高いコース。 それゆえ、出発前から多少の不安を感じていた。
いざ進んでみると本当にきつい。 もしかしたら天気がよければそれほどでもないのかもしれないが、 強風の中、雨が真横から打ち付ける状況の中、だいぶつらい歩行が続く。 しかも、崖をよじ降りたり、鎖にしがみつきながらだったりと かなり命懸けで、アドレナリン出まくり。 でも、こんな道が好きだったりするのだ。 ペンキマークを探しながら、足場になりそうな岩を見つけ 頭の中でイメージ(シミュレーション)しながら岩稜を歩く。
とどめが北アルプス有数の八峰キレット! 断崖絶壁にハシゴや鎖がかけられ、本当に足がすくむような思い。 でも、危険地帯だけに、鎖やハシゴが整備され、 ほかよりかは歩きやすかったりもする、実はね。
キレットは攻略したものの、先はまだ長い。 いったんキレット小屋で休憩し、今度は五竜岳を目指して進む。 今が9時10分で、テント場まで4時間40分だから 単純に計算すれば14時前後には到着のはず。 時間的には大丈夫だから落ち着いて行こう、なんてことを思いながら。
だが、天気はさらに最悪な状況になりつつあった。 ここまで来たらもう戻るのもしんどい。進むのみ。 とはいえ、だんだんと疲れが出てきて、歩行スピードが落ちてきた。 雨で岩場が濡れ余計に神経を使うし。
しかも、だんだんと寒くなってきた。 その時はカッパにTシャツ1枚という出で立ちであったのだが、 徐々に体温が下がり、体力が奪われていくのを感じていた。 自分でもやばいと分かっていたが、今ここで着込めば その服が濡れた時にテントの中で着るものがなくなってしまう。 そのことが頭にあってしばらくは我慢していたのだが、 もう本当に限界が近づき、テント場のことより前に、 辿り着くまでを心配しなくてはと思い フリースを着ることにした。 後から振り返ればこの判断が遅れていたら とんでもないことになっていたと思う。
何よりつらいのが休憩できないこと。 雨をよけられるようなところが全然無く、 雨に打ち付けられながらじっと座ってるのが休憩の一種に。 そんな時でも、チョコをひとかじりするだけで、 疲労が回復するのを実感できる。 それに、一口水を飲んで喉を潤すのも貴重な行為。 生きていく上で、水というのが本当に手放せないものだということを痛感する。
五竜に近付くにつれ、道はさらに険しくなる。 岩場が急すぎ。 高さ30〜50mはある、ほぼ垂直の岩場が目の前に立ちふさがり、 登る気力を打ち砕く。 もう、登るのも嫌という精神状況を奮い立たせて、 はい登ったり、崖にしがみついたりする。 手がかじかんでいたが、鎖も手放さないように必死でつかむ。
僕とほぼ同じペースで60歳前後の老人がいて、 気持ちの面でサポートを受ける。 彼が数十メートル先を歩いていながらも、視界に入っていることで 安心感を覚え、負けないように、遅れないようにと 気持ちを奮い立たせる。
そんなこんなで、今日2つ目の百名山、五竜岳に到着。 カッパの中もゴア靴の中も、完全に濡れていて、 感慨深さもあったもんじゃない。 すぐに小屋に足を向ける。
そこからさらに1時間歩いて無事に五竜山荘に到着。 迷わず、小屋泊を選ぶ(もちろん素泊まり)。 生まれて初めての山小屋だったりするのだ。
テントでの縦走は、自分と向き合うことのおもしろさがあるけど、 山小屋は人とコミュニケーションをとれるのがおもしろい。 夕食時にいろんな人と会話をしながら楽しいひと時を過ごす。 その時気づいたのだが、今どき山で普通にお米を炊くのは珍しいらしい。 ふと周りを見渡したらアルファ米を使ってお手軽にご飯を食べていた。 確かに、お湯をそそぐだけなので便利だし、荷物も軽くなる。 値段は高いかもしれないが、 4合の米を用意するのに米2キロを購入するのを考えたらとんとん。 他人の食事風景を見ながらいろいろ勉強させてもらう。 魚肉ソーセージとか、チーズとかも行動食には便利そうだった。
部屋では今日ほぼ一緒だった老人、エザキ氏と一緒だった。 このまま北上を続け、親不知まで出ると言う。 いろいろ興味深い話を聞かせてもらいながら就寝。
今日は登山生活において、どん底を経験したと思う。 だが、この経験が登山だけでなく、人生にも活きてくるのでは。 本当に勉強になった一日だった。
夜は天気も回復傾向にあり、 下界に信濃大町の夜景が見えきれいだった。
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