ガイ班+カカシ ネジ視点 ※うっかりしてましたが、以前書いた「追憶」とは若干設定が違っています。それぞれが独立した世界観だと思ってください。 ---------------- 「子供の頃、ちょっと不義理しちゃってたから。 それにカレーって、出来たら大勢でワイワイ食べた方が、楽しいじゃない」 含みのある発言は、一瞬でリーたちの口を噤ませた。 台所でカレーを温めているガイの、カチャカチャという食器の音だけが聞こえて来る。 皆、目と目でせっつくクセに、誰も事情を聞く勇気が出ない。それを察し、あえて明るい声でカカシは口火を切った。 「・・・みんな、ガイの親父さんのこと、聞いてる?」 「え、ええ、まあ・・・」 「随分前に亡くなった、ってことだけは、以前に・・・でもそれ以上はちょっと」 「カカシ先生は面識があったのか?」 「あったよ。・・・まあ、想像はつくだろうけど、ガイをもーっと濃くしたような人でね」 ───あのガイより、濃い人間がいたのか。 声にならないつぶやきが聞こえたかのように、カカシの言葉はクスクス混じりだ。 「イヤ、ガイの親父さんが濃かったから、息子もああなった、って感じだよ。 でね、彼はガイとは違って、死ぬまで中忍にはなれなかった。いわゆる万年下忍、ってヤツ。 でも下忍って、ま、リー君たちもついこの間まではそうだったろうけど、稼ぎはあんまり良くなくって。独身とか、共稼ぎってならともかく、子供を養って行くにはケッコー厳しい環境なワケ」 ガイがカレーに抱く思い───それが何となく分かり始めたネジたちに、頷いて見せるカカシ。 「そういう事だよ。カレーは冷凍させておけば保存が利くし、ちょっとぐらいはしなびた野菜を入れても、少し古いお米にかけても、それなりに美味しく出来て経済的デショ? 野菜もたくさんとれるしね。 だから、親父さんから受け継いだガイのカレーって、陳腐な言い方をすれば、出来うる限りせめてもの精一杯の愛情の味、ってこと」 ま、あれだけ凝った上に辛くなったのは、単にあいつの趣味だろうけど、と付け加えて。 「何が俺の趣味だって?」 ちょうどそこへガイが、カカシの分のカレー皿を持って現れた。 「サンキューv イヤ、お前のカレーが辛いのは、お前の凝り性のせいだろう、って話してたの。 だって、お前の親父さんが作ってくれたのって、そこまで辛くなかったデショ?」 「そうだったか?」 「そうだよー。・・・じゃ、いただきまーす」 カカシは受け取った皿に早速スプーンを差し入れ、生卵をカレーと混ぜてから食べ始める。 「うわ、やっぱりちょっと辛い」 「文句を言うなら食うな」 「食べられないとまでは言ってないでしょ、返してよー」 頭上でカレー皿がやり取りされるさまは、はっきり言って上忍同士のものと言うにはあまりにもおとなげない。 そのうち、カカシが何とかカレーを取り戻し、再び食べながらあれこれと主張し始めた。 「・・・だってさ、俺が親父さんのカレー食べたの2回だけだったけど、ここまで辛くなかった覚えあるよ。ガイってば絶対、自分好みの辛さに慣れすぎて、親父さんの味おぼろげになってるんじゃないのー?」 父親の味を忘れた、とまでは言わない辺り、ガイへのさりげない気遣いを感じるネジである。 「うーん、言われてみれば、材料も子供の頃よりいいものを使ってる、か。それに香辛料も最近は、色々なものが手に入るようになったから、つい試してみたくなるしな」 「・・・ちょっと。俺たちを実験台にしないでくれる?」 そう文句をたれながらも、カカシはいつの間にか皿の中身を全部平らげていた。そしてそのまま空の器をガイに押し付け、無言のうちにお代わりを要求する。 苦笑いのままそれを受け取ったガイは、部下たちの皿を一通り見て尋ねてくる。 「お前らは? お代わりはいるか?」 「僕はもうおなかいっぱいです」 「あたしもー。お水もらいますね」 「俺もいい。テンテン、俺にも水をくれ」 「はいはいー」 弟子たちのやり取りに微笑ましさを覚えつつも、ガイはカカシの皿と共に台所へと消える。 それを見計らって、今度はテンテンが小声でカカシに声をかけた。 「あの、カカシ先生、さっき不義理、って言われましたよね? それってどういう意味なんですか?」 ちなみに、普通『不義理』というと、借金を踏み倒すことをさす、事もある。が、今のリーたちの歳にはとっくに上忍になっていたはずのカカシに、それはありえないだろう。色々な意味で。 カカシはしばしためらった後、何故かネジをチラリ、と見てから話し始めた。 「よくある話だよ。俺はその頃、既に上忍で、マイト親子は下忍だった。だから立場が色々とややこしくてね。ガイの親父さんはそんなことは気にしてない風だったけど、口さのない連中は当時、結構いたんだ」 今でもそう言う奴らって、どこにでもいるけどさ、と、カカシは疲れたような口調になる。 「・・・特に俺は、自分の両親に先立たれていたから、ソッチ方面の情に訴えて便宜を働かせようとしてるんじゃないかー、なんてね、無責任なことを噂してくれたワケ。 だからガイも、俺を親父さんとの夕食に誘ってくれたの、1回だけだったよ。よっぽどひどいコト言われたんじゃないのかな」 あの、押しが強くて遠慮を知らない風のガイが、だよ? と半分おどけながら、カカシの話は続く。 「ま、俺としてもそれで助かった、って思った時期もあるけどね」 「! どうして?」 「だから俺、両親亡くしてるデショ? だから、仲良し親子を見てると、ケッコー辛かったのよ」 ───馬鹿なことしてたなあ、あの頃の俺って。 珍しく自嘲気味につぶやくカカシに、ここで辛らつなことを言えるのは一人しかいない。 「お前が馬鹿なのは、いつものことだろうが」 ガイがカレーのお代わりを持って、カカシの向かい側へ座り込んだ。 「・・・ひどいね、何も本人の前で、直接言うことないデショ」 「俺は陰口は好かん。だから、本人に直接ぶつけられないことは口にせん、と決めとるんだ。逆にぶつけられるモンは、遠慮なくぶつけるしな。今みたいに。 もっとも・・・言いたくても言っちゃまずいこと、なんざ、世の中には山ほどあるが。 その辺を分かってない奴らが、今も昔も多くて困る、全く」 「そ、だね。今も昔も、ね」 思い当たる節がありまくりのカカシは、少し肩をすくめたきり食事に専念した。 「気にするな。お前が来なかったおかげで、取り分が増えたって喜んでいた奴もいるんだ。給料日前のエビスとか、ゲンマとかがな」 「・・・出たよ、ポジティブ発言」 「え? ゲンマって、中忍試験の時審判してた、あの男か? 何であいつがガイのところに?」 「それにエビスって人も、確か木ノ葉丸くんの担当上忍してるあの人よね? ガイ先生、知り合いなの?」 「ガイ先生って、交流関係が広いんですねー」 思いもよらない人名が飛び出し、ネジたちが再び混乱するのを目の当たりにしたカカシは、口の中のものを全部飲み込んでから、解説してやる。 「ゲンマもエビス先生も、ガイの元マンセル仲間だよ」 「・・・つまり、今のあたしたちみたいな関係、ってことですか?」 「ああ、なるほど」 「それにしては、随分タイプが違いますよね・・・とっても個性的、って言うか」 「リー、あんたが言わないで」 「リー、お前が言うな」 「ええーーーーー!?」 「テンテン、ネジ、お前らも人のことは言えんと思うぞ?」 「ガイ、その言葉、そのまんまお前に返したいよ」 「何をぅ?」 類は友を呼ぶ、だったか? それともこれは、人のフリ見て我がフリ直せ・・・はどこか違うか。 失笑を禁じえないまま、ネジは目の前の喧騒を何となく眺めていたのだが、不意に目が、カカシと合う。 彼は、どこか痛みを伴った懐かしさと共に、ゆるい笑みを浮かべていた。 「・・・ま、この様子なら、リー君は大丈夫みたいだねー」 馬鹿なことをしていた───そう自ら呟いた上忍は、ネジに己れを、そしてリーに自称・ライバルの姿を見ていたらしい。 かたや天才、と呼ばれ、孤高を気取っていた少年と。 そしてかたや、落ちこぼれだと周囲からあざ笑われながらも、懸命にあがいていた少年を───。 「・・・・・・・・。当たり前だ」 まだまだカカシには及ばないものの、唇の形を精一杯、笑みの形にして見せたネジであった。 「む・・・スマンがネジ、また皿とスプーンを出してくれ。今度は2組だ」 「は?」 「2組って・・・」 「何かこのパターン、さっきあったわよね?」 「そう言えば今日って、月末に当たるんじゃないの〜?」 「「「ま、まさかそれって」」」 「カカシ、お前が妙な話を持ち出してくるからだ。噂をすれば影とやら、と言うだろう」 「あのねえ、言いがかりはよしてくれない? 完全に偶然だって」 「おーいガイ、今月懐が寂しいんだ。飯食わせてくれ」 「スミマセンが、今月は色々と物入りでして・・・元班員のよしみで、ご馳走してくれませんかね?」 「お前ら・・・なんで揃いも揃って・・・もうとっくにご飯は残ってないぞ!」 「あ、心配すンな。ちゃんと持ってきたから」 「そのくらいは、自分できちんと用意してきますよ」 「そこで胸を張るな! 全然威張れんぞ!! おまけに何だ、そのタッパのご飯の量は!!」 「・・・とか何とか言いながら、ちゃんと皿もスプーンも用意してあげるのよねー、ガイ先生」 「あ、ひょっとしてさっき、俺の時もそうだったの?」 「ええ、数秒前から来られるの、気づいてましたし」 「一応は牽制しておかないと、いつも当てにされても困るんだろう」 苦味も、辛さも、ほんの少し混ざる甘やかさも。 煮込んでしまえば皆、それはそれで程よいアクセントになって。 ───俺が、お前らと一緒に、食べたかったんだよ。 ───カレーって、出来たら大勢でワイワイ食べた方が、楽しいじゃない。 だから。 みんな揃ってご飯を食べようか。 ◆終わり◆
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