ガイ班+カカシ ネジ視点 ※前回、ケッコー暗い話だったので、今回はほのぼのを。でも原作の現状考えると、解釈の仕方によればちょっと切ないかもなあ・・・・・。 ※うっかりしてましたが、以前書いた「追憶」とは若干設定が違っています。それぞれが独立した世界観だと思ってください。 ---------------- 「んーv この辛さがクセになりますね〜v」 「今回のには何が入ってるんだろ? ・・・え〜と、バナナ、かな? この間のリンゴの時とはちょっと、風味が違うわよね?」 「おお、よく分かったな、テンテン。それとネジ、お代わりならたくさんあるからな、遠慮なく食えよ」 「こら、勝手に人の皿によそうな。全部食べてからにしてくれ」 ガイ班では時々、担当上忍・ガイ手作りのカレーを皆で食卓を囲んで食べる、イベントが行なわれる。 むろん会場は、ガイの家だ。 人目を気にせず、おなかが膨れるまで食べ、時々世間話や任務の話を挟みながら、それなりに楽しくワイワイと過ごす。 「どうだ? ネジ。今度の味は」 「前よりは後味がいいな。辛味がまろやかだし」 「そうか。じゃあ、次回はもっとその辺を工夫して作るぞーv」 「・・・お手柔らかに頼む・・・」 最初のうち、ネジはこのような時間の使い方をするつもりは、毛頭なかった。ガイに心酔しているリーや、『付き合い』をコミュニケーションの一環としてある程度は大切にしているテンテンは、ともかくも。 だから下忍時代、初めてガイの家へ半ば強引に、他の二人と共に連れて来られた時、これっきりの予定でいた。 ただ、ガイの部屋が、勝手に描いた想像図より片付けられていたことに興味を持ったのと、もう1つ。台所から漂ってきたカレーの良い香りに思いもかけず、腹の虫が盛大に鳴り響き、帰るに帰れなくなってしまったのだ。 『カレーとか鍋とか言うのはな、たくさん作った方が美味しくなるんだ。遠慮なくじゃんじゃん食え食えv』 ───結局、あれだけ乗り気ではなかったくせして、ちゃっかりお代わりまで平らげてしまい、ネジは相当複雑な気持ちだったのだが。 帰路につこうとした部下3人に、ガイは玄関先で、口臭消し効果のあるガムを手渡しながら、こう言った。 『お前たち、こいつばかりを頼りにしないで、寝る前にちゃんと歯を磨くんだぞー』 『ハイ! 分かりました、ガイ先生!』 『ちょっと、そんなの当たり前でしょ? 大体、今日のカレーってニンニクとか利いてたから、ちゃんと磨きますよ』 『いや、そうじゃなくてな』 『・・・・・?』 『その、カレーの匂いってのは、結構残るんだ。極秘任務中にカレーの匂いで敵に気づかれる、なんて洒落にならないしな』 ───ネジがガイを、つくづく忍らしからぬ男だ、と思うのはこんな時。 『んもーーっ! だったら、最初からカレーなんて食べさせないでくださいよー』 『そう言うなって。ちゃんとここしばらくは、里の外へ出る任務はないことを、事前に確認済みだ。・・・それに』 『それに?』 『俺が、お前らと一緒に、食べたかったんだよ。子供の頃からの俺の好物なんだ。 ま、上司権限乱用しまくっとるが、大目に見てくれ』 そう言って浮かべる笑みは、いつもの豪快なものとは全然違っていて。 この手作りカレーとやらに、よほどの思い入れか思い出があるのだろう、と察せずにはいられなかった。 それからいくつかの月日が過ぎ去り、リーとテンテンは中忍に、そしてネジは上忍となった。 さすがに経験こそ到底叶わないが、今やガイと対等な立場になったわけだ。現に、ネジだけ別のマンセルを組んだり、ガイとの共同任務(ツーマンセル)につかされる日すら、ある。 だから、その辺を強調さえすれば、あるいは断ることは出来ただろう。 でもネジは未だに、リーやテンテンと共に、このささやかなる習慣を受け入れ続けている。───特に理由などない。強いて言えば、美味しいカレーに罪はない、といったところか。 ただ、ガイが自ら作るカレーにどんな思いを抱いているのか、あれからずっと知りそびれているのも事実だ。 プライベートに深く根を下ろしているであろうことが明白なそれが気にならない、と言えば嘘になる。とはいえ、一番弟子を自称するリーですら、その辺はわきまえてか尋ねようとはしない。そんな彼を差し置いて、自分が聞くのもどんなものか。 遠慮やら、気恥ずかしさやらが絡んで、今日も結局その辺の理由を聞き損ねるのだろう───そうネジは踏んでいたのだが。 「・・・ん?」 今日はいつもと違っていた。 自分たちと同じく、嬉しげにカレーに舌鼓を打っていたはずのガイが、唐突に手を止めたかと思うと、黙って両目を閉じる。・・・これは、何かの気配を探っている際の彼、独特の仕草だ。 「何であいつが・・・チッ、今日は里外じゃなかったのか?」 「え? どうなさったんですか? ガイ先生」 「ちょっとな。スマンがリー、テンテン。そこを開けておいてくれ」 「そこ、って・・・。あたしとリーの席の間、ですか?」 「ガイ、誰かが訪ねてくるのか?」 「そう言うことだ。それとネジ、そこの棚から、カレー皿とスプーンを1つずつ、出しておいてくれ」 部下たちに次々と指示を出しつつも、ガイはやれやれ、と言わんばかりの表情を浮かべる。 それからわずか、20秒後。 「こんばんわ〜。ガイー、お呼ばれに来たよ〜」 顔下半分は口布で覆われ、写輪眼の左目は額当てで隠し、右目しかあらわになっていないにもかかわらず、笑顔でいるのがまる分かりの忍、はたけカカシが、チャイムと共に玄関先へ現れた。 ただ訪ねて来た、だけならともかく、どうやら彼は夕食のお相伴に預かりに来たらしい。 イヤ、今日の夕飯がカレーだ、と言うことは、近くまで来れば匂いで分かることではあるが。 「カカシ・・・お前、帰還は明日じゃなかったのか?」 「うん、まあね。実は予定よりサクサク進んじゃったもんだから、おなかペコペコでさあ。でも、自分で作るのは面倒くさいし、どこかの食堂とかで食べるのも気疲れするし。ガイのトコ今晩カレーなら、俺の分ぐらい楽にひねり出せるよね?」 「言っておくが、今晩は生卵は残っていないぞ」 味にまろやかさを出すため、ネジたちはカレーに新鮮な卵を落として食べている。衛生上の問題から、いつも食べる直前に食べる分だけその筋の店で取り寄せていて、ガイはそのことを指して暗に『お前は呼んでない』とカカシに釘を刺したわけだったが。 「分かってるって。どうせそうだろうって思ってたから、ほら、ちゃんと生卵は持参済み〜v」 ンなことで抜け目なさ発揮して、どーすんだ☆ 即座にツッこむ、ガイ班全員。 カカシもさすがに、ちょっと辛目のガイ特製カレーは卵なしでは食べないのか。 いや、そんな味覚嗜好より何より、最初から今日はカレーだと察した上で、カレーを食べる気満々で来たのか、この上忍は。 「いやーどーも。ネジ君にリー君にテンテンちゃん。ちょっとお邪魔するねー」 どこから指摘すればいいのか混乱中のガイの部下たちをよそに、カカシは開けてもらった空間に上機嫌で座る。 そのあまりの図々しさに、ガイはカカシを一瞥してからわざとらしくため息をついた。 「サクサク進んだ、と言った割には、こぎれいな格好だな、カカシ。さすがに人の家を訪ねる前に、風呂ぐらいは入ってきたと見える」 「ええー、だって以前、仕事帰りそのままで押しかけたら、ものすごく怒ったじゃない。俺にも学習能力はあるよ」 いったいどんな格好で押しかけたと言うのか。ひょっとして、思い切り食欲減退するようなスプラッタ状態とか? この調子では、たまたま自分たちが今まで遭遇していなかっただけで、カカシはかなり頻繁にガイのところへ、夕食をせしめに来たことがあると見える。 ネジはそれを悟って、エリートだのなんだのと言われている男の実態に、あきれ返るのだった。 「・・・。さすがに今晩は、お前は来ないと思っていたからな。残りのカレーは冷凍保存するつもりだったんだ。温め直してやるが、少し時間がかかる。おとなしく待っていろ」 「うん、よろしく〜v」 もはや諦めがついたのか、苦笑しつつ台所へ姿を消すガイ。無論その手には、持ち込まれた新鮮な卵を持って。 何とか夕食にありつけると安心したらしく、カカシが気の抜けた風体でボソリ、呟いたのは。 「だってさー、ガイのカレーって辛いけど、平和の象徴って感じじゃない。 あれ食べないと、木ノ葉に無事帰って来た気がしないよー」 ───ネジにも覚えがある。 上忍となってから初めて、ガイ班を離れ他の上忍と特別任務に出た時の話だ。小競り合いが少し長引いて、こちらが不利な状態になり、森の中で一時的に身を潜めざるをえなかったことがあった。 気配を徹底的に消し、敵が油断するのをただひたすら、少しの恐怖感と共に待っていた時・・・スパイシーなガイのカレーを食べたのが随分前でよかった、と、不意に思ったのである。もし昨日にでも食べていたら、呼気や何かで即座に居場所を突きとめられていただろう、と。 無論それは、お門違いの八つ当たりだ。ガイは部下の身を案じ、わざわざ里内の任務ばかりの期間を見計らって、ご馳走してくれたのだから。 自らの考えの理不尽さを、即座に心の中で詫びたネジは、次いでこう、願った。 ───この重要任務が無事終わったら、またガイのカレーが食べてみたい、かも。 ガイにお手製カレーをおごってもらう、と言うことは、その前後に危険な任務がない証拠。だから、その安息の日を祈って・・・・・。 結局、その特別任務は何とか無事に成し遂げ、ネジは木ノ葉に戻ることが出来た。 そして、たまたま向こうも他の任務を終えたばかりらしく、ちょうどガイが帰ってくるところに出くわしたのだ。 どうやらガイは、ネジが結構危ない目に遭っていた事を知っていたようで、「無事でよかったな」と肩を叩いてくれた。「これでお前も、名実共に上忍だ」とも。 その声を聞いた途端。 ───ああ、本当に帰って来ることが出来たんだ───。 じんわり目の辺りが熱くなり、視界が若干ぼやけて見えたのは───絶対ガイには内緒である。 この、自分たちよりはるかにベテランの男も、そんな風に感じたことがあるのだろうか。 妙な共感を覚え、ついまじまじと見つめていたネジに気づいたらしく。 カカシは一瞬驚いた顔を見せた後、不意にいたずらっぽい目を瞬かせた。 「それにしても、まさかネジ君までガイのカレーパーティに付き合ってるとは思わなかったな。あいつのカレー、マジで辛いデショ?」 「・・・最初の時文句を言った。ちゃんと次から、味を調節してもらっている」 「そうそう。生卵を入れる、って思いつかなかったら、食べられなかったわよねーアレ」 「そうですか? ヒリヒリはするけど、美味しかったですよ?」 「リー・・・お前確かあの時、これも修行だとか言ってなかったか?」 「あ、あれは、その、言葉のあやって言うか・・・」 いつの間にか会話に割り込んできた中忍2人の不躾さを、怒りもせず。 何だかんだでなじんでいる彼らの雰囲気に、カカシは思わず吹き出していた。 もちろん、気まずさいっぱいで睨み返すネジに、手を振って宥めるのも忘れない。 「ゴメンゴメン。ちょっとネジ君たちが羨ましくてね。俺が辛い過ぎるだの何だの言っても、全然気遣ってなんかもらえなかったからさー」 カカシの言い分に、リーが「え、ホントですか?」と驚きの相槌を打つ。 「ホントだよ。ちょっと辛すぎるんじゃないか、って文句言ったのに、ガイのヤツ開き直ってさあ。『ちょっとのカレーで、たくさんご飯を食べられるから経済的なんだ!』って。気持ちは分かるけどねえ」 随分強引な上司の主張が、どんな表情と共に繰り出されたか目に浮かぶようだ。 「・・・なのに、また食べにこられたんですね、カカシ先生は」 何となく嫌味っぽい言い方になり、ネジは我ながら驚いたが、今更撤回するつもりもない。 が、てっきりいつものように飄々とした受け答えをすると思いきや、カカシは心持ち目を伏せた。 「うん・・・まあね。子供の頃、ちょっと不義理しちゃってたから。 それにカレーって、出来たら大勢でワイワイ食べた方が、楽しいじゃない」 ◆つづく◆ ※おかしい・・・ここまで長い話にならないと思ったのに。 小説書くの久しぶりだから、勘鈍ったかな?
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