ちゃんちゃん☆のショート創作

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忘るる事象について、いくつかの報告(1)
2008年12月24日(水)

※BL■ACH劇場版第3弾について、あの笑撃!? のラストへのフォローと、ちゃんちゃん☆ 的最大の謎について、小説にしてみました。
 こういうのって本当は、劇場公開終了後まで遠慮するのが筋なんでしょうが、早い者勝ちって気もしますんで。

 一部ネタバレあるんで、ネタバレ嫌な人は読まんで下さい。OK?

注意:DVDが無事発売されたんで、先日まで行っていた反転解除しました。そのままお読みください。


     **********
 忘れることが不幸なのか、あるいは幸福なのかは、きっと誰にも分からないことなのだろう。


◆本職と代行の失態◆


 とりあえず、瀞霊廷始まって以来の未曾有の壊滅危機が回避され。
 黒崎一護たち一行を現世へ帰すべく、穿界門を開く手続きを行っていた時である。ちょっとした騒動が起きたのは。

「ところで一護くん。君が同行させていた、あのライオンのぬいぐるみはどうしたんだい?」

 浮竹十四郎に素朴な表情で尋ねられ。
 小首をかしげていた一護は次の瞬間、顔面から一気に血の気を失せさせ、絶叫する。

「だーーーっ!! しまった、コンの奴どこに行った!?」

 その慌てぶりは、護廷十三隊を皆敵に回していた際にはついぞ見られなかったもので、居合わせた死神たちをひどく驚かせた。
 そして、そんな彼の様子に、落ち着きを無くす者がもう1人。

 「何だと、一護! 貴様コンを、どこかに置き忘れてきたのか!?」

 朽木ルキアは先ほどまで、一護とのしばしの別れを惜しんでいたのだが、その穏やかさもどこへやら。狼狽の色を隠そうともしない。

「戦闘中に落っことされて、死神連中みたいに固まっちまったんだよ! ま、まさかどっかで砕けたりしてねえだろうな?」
「馬鹿者! それを言わぬか、早く探すぞ!」

 言うが早いか、ルキアは瞬歩でたちどころに姿を消す。

 一護もすぐに後に続いたが、浦原喜助の、
「手分けするんだったら、伝令神機で連絡取り合わないと、行き違いになっちゃいますよー」
との言葉は、果たして聞こえていたかどうか。

「全く・・・仕方のないガキどもじゃのう」

 ふう、とため息をつき、浦原の肩口から黒猫が一匹、地面に降り立った。むろんそれは、四楓院夜一の仮の姿で。

「喜助、儂も探してくる。猫の視線でないと、分からぬこともあるじゃろうからな」
「そりゃまあ、コンさんのあの大きさじゃあねえ」
「すぐに戻る故、いい子にしておるのじゃぞ?」
「・・・アタシも子供扱いっスか・・・?」

 微妙にふて腐れた顔に溜飲を下げたのか、夜一は一瞬口を笑みの形にゆがめてから、すぐ姿をくらませた。「瞬神・夜一」の異名は、未だに健在らしい。



◆阿散井恋次の場合◆


 日番谷冬獅郎は、そんな現世組の姿をしばらく眺めていたのだが、ふと思い立って視線を転じる。

「・・・・・・・」

 そこには、何やら苦虫を2、30匹ほどまとめて噛み潰したような形相の、阿散井恋次が立っていた。彼はルキアたちが走り去った方角を、黙って見つめたままだ。

 自分もそうだが、護廷十三隊の死神たちは皆、朽木ルキアのことを忘れさせられていた。それは、彼女と幼馴染であった恋次も例外ではない。
 ・・・いや、むしろもっとも親しい間柄だったこそ、忘れていたことがショックだったのではないだろうか。

 現に、ルキアが記憶を取り戻してからも、何やら彼の様子がおかしい。いつもなら、2人で漫才のような小気味いい会話を繰り出しているところを、身の置き所に困り果てた、と言う感じで、彼女と着かず離れずの位置を保っていただけだったのだ。

 日頃元気な男が、いわば意気消沈しているのは調子が狂う───日番谷が恋次にわざわざ声をかけたのは、多分そんな気持ちの表れだったのだろう。

「阿散井。何だその情けねえツラは」
「日番谷隊長・・・?」
「いい加減、今回の失態は忘れろ。
・・・朽木のことを忘れていて気まずいのは分かるが、それはお互い様だろう。向こうの方も我々のことを、覚えていなかったのだからな」

 が、恋次はゆるく頭(かぶり)を振った。

「一護は忘れてませんでしたよ? それともう1人・・・って言うか、あの改造魂魄も」
「黒崎が覚えていても不思議はないだろう。あいつは朽木に、死神の能力を分け与えられたんだ。言わば自分の存在意義を忘れないのと、同じようなもんだ」
「頭じゃ分かってるんですけどね、その理屈」
「大体お前、何で改造魂魄にまで対抗意識燃やしてやがる。あいつらは戦闘用だ。『そういう風』に作られているんだから、忘れなくて当然だろうが」
「けど、あいつらは覚えてて、俺は忘れていた。
・・・それは動かしようのねえ事実っスよ」

 それに、と恋次は、今までとは違った感じの疲れたようなため息を漏らす。

「何か・・・さっきの一護とルキア見てたら、その・・・現世の行楽地で迷子になったガキ探してる夫婦、みたいに見えちまいまして」

 自分で自分にムカつく、と力説する恋次に、周囲は必死で笑うのをこらえ。
 日番谷は重症患者を診察する医師の気分で、痛くなる頭を無言で押さえる。

 自分より十分の一以上年下のガキどもにそんな体たらくでは、これから先が思いやられやしないか・・・?

 彼の憂鬱は結局、彼らの会話を耳にしていて気を利かせたのか、「実は黒崎サンも当初、朽木サンのこと忘れてたみたいっスよ?」と浦原が打ち明けるまで、続いたのだった。



◆改造魂魄・コンの場合◆


 本人にも無論自信があったとは言え、コンを真っ先に見つけ出したのはやはり、猫の夜一である。

 瀞霊廷の片隅で発見した彼は、無残なまでにみすぼらしい風体だった。
 ぬいぐるみの色は褪せ、生地はボロボロ、土と埃にまみれた上に、あちらこちらが千切れている始末。加えていつもの、1人でも騒がしい言動はどこへやら。黙り込んでうずくまっていたため、さすがの夜一も一瞬、見過ごすところで。

 この調子では、一護たちが彼を見つけ出すのは骨だ。もちろんコンとしても、別に隠れていたわけではないだろうが。

「ここにいたのか。探したぞ、コン」

 夜一が後ろから近寄って声をかけたところ、予想に反してコンは、こちらを振り返ろうとしなかった。

「・・・探しに来てくれたんだ、夜一さん」
「何じゃ。迎えが一護か朽木ではないと、不満か?」
「別に。探しに来てくれただけで、有難いから」

 その口調は、すねていると言うよりは本気で投げやりで、夜一の琥珀色の目を瞬かせる。

「一体どうしたのじゃ? お主の探査能力なら、今一護たちが懸命に探していることなどお見通しじゃろうに。どうして答えようとしなかった?」
「・・・・・」
「どうやら、単に置いてけぼりを食らったから、というわけではなさそうじゃな?」
「そっちにもちょっとは凹んだぜ? けど、俺は今回一護にくっついてたばっかで、実際何の役にも立たなかったし。ま、置いてけぼりもしょうがねえかな、と」

 折角の戦闘用改造魂魄なのによ、と、半ばやけくそ気味に呟くのを、夜一は呆れた風に応じた。

「・・・何を言う。皆が忘れていた朽木のことも、一護のことも、お主はちゃんと覚えていたではないか。ただそれだけのことでも孤立無援だった一護にとっては、どれほどの救いになったと思っておる?」
「そんなのお互い様だって。俺も愛する姐さんに忘れられてて、結構ショックだったしよ。カラ元気でいられたのも、一護が俺のこと覚えててくれたからだったんだ」

 ま、今はうっかり忘れてやがるけどさ、とツッコミを入れるのを忘れないコン。

「大体、俺が2人のこと忘れてなかったのは、あいつらみたいに信頼とか絆とか言った理由じゃねえ・・・。
俺たち改造魂魄は元々、『絶対忘れたりしないよう』作られてっからなんだぜ?」

 淡々と告げる口調はコンらしからぬものだったが、決して自虐的ではない。むしろ本当のことを何の誇張もなく伝えている───ただそれだけのもの。

「・・・浦原に聞いて知ってるんだろ? 夜一さん。俺たちが作られたのは、勿論魂の抜けた死体を有効利用する意味もあったけど、それだけじゃない。要は、戦闘経験やデーターを効率よく次の戦闘へ繋げる為だった、ってこと」
「一応は、な」

 そう。
 死神を一から訓練するのは、時間と労力が相応にかかる。そのために真央霊術院があるのだし、一護みたいに短期間で『使える』ようになるのは、異例中の異例なのだ。
 だが、戦闘中に殺されては、その手間も無と化してしまう。だから、死体さえあれば何度でも繰り返して使える尖兵として、コンたち改造魂魄は開発されたのである。

 もっとも、その尖兵計画自体は既にない。今はコンと名づけられたこの、ただ1体の生き残りが存在するのみ。彼らは結局、後々の戦いへ糧になることもなく、一方的に処分されてしまったのだから。

 ・・・それなりに複雑な心境で口を噤む夜一をよそに、コンはあっけらかんとした笑顔で言った。

「端から俺たちには、忘れるって言う選択肢は持ち合わせてねえ、ってだけのことなんだぜ? ・・・ま、今回はそれが、姐さん助ける手助けになったみたいだったから、ある意味良かったけどさ」
「ある意味は、と言ったな。つまり、良くなかった部分もあったと言うことか?」
「・・・聞くかねえ・・・今、それを・・・」

 無表情のはずのぬいぐるみの顔が、明らかに寂しさで歪む。涙腺などないはずの作り物の眼球が、夜一には潤んで見える。

「だってよ。俺だけ馬鹿みたいじゃん。皆が狡くも忘れてられることまで、強制的に覚えさせられてるなんて・・・損してる気分なんだよな、ものすごく。貧乏くじ引いた、ってか、横着できねえ、ってかさ・・・」

 それでも、どこかおどけたように振舞うコンを見るにつけ夜一は、どうして彼に元気がなかったのか判ったような気がした。

 ───疎外感。言葉で表せるとしたら、まさにそれ。

 コンとてさすがに改造魂魄の自分を、死神や人間だと思ったことはないだろう。それでも、半分人間で半分死神の一護と一緒に暮らすうち、同等の存在だと言う意識が芽生えたのだとしたら?

 なのに今回の騒動で、いきなり突きつけられた『事実』。決して自分は、ルキアや一護とは同じにはなりえぬ、と言う───。
 そして彼にはその苛酷な現実すら、忘れることは許されていないのだ。

「断っておくけど、俺は別に、忘れたいって思ってるわけじゃねえぞ?」

 無言でたたずむ夜一をどう思ったのか、コンはいつものようなお調子者の声を装う。

「・・・そうなのか?」
「あったりまえじゃん。今回の騒動でよく分かっただろ? 自分の都合のいいことだけ覚えていてもらおうって考えたって、結局はうまくいかなかったわけだし」
「確かにそうじゃったな」
「ただ、さ」

 ぽてん、と力なくその場にうつぶせてみせるぬいぐるみ。

「どうしようもないって分かってても考えちまう、ってあるじゃん。今の俺、まさにそいつなんだよな。そうでもしないとやってらんねー、っつーかさ。
・・・今日だけでいい。1日だけで良いから・・・ちょっとだけ凹ませておいて欲しいんだ、夜一さん。・・・頼むよ」

 寝て明日になったら、また元気になるから───そう虚勢を張るコンの姿は、同居人の一護はともかく、大好きなルキアにはあまり見せたくないものなのだろう。

 かつて───遠い昔。そんな風にちょっとだけ落ち込んで、でも次の日までには力強く歩み出した男を、夜一は最も身近な存在で知っている。

 彼女はだから、コンの気持ちが分からぬではない。が、時刻が迫っているのも事実で。

「じゃがなコン、落ち込むのはいつでもできるじゃろう。今はとりあえず、穿界門を通って現世へ戻るのが先決ではないのか?」
「自分の足で歩く気、しねーし。断界なんてもっとムリムリだし」
「どうせここに来る時の断界は、一護にしがみついて駆け抜けたのじゃろうが。・・・全く」

 猫特有の細い目を笑みの形に歪ませ、夜一はコンの傍に駆け寄ったかと思うと、その体を銜えて強引に、自分の背中へと放り投げた。

「特別サービスじゃ。しっかり捕まっておれよ」

 ───個人的に気になることもある。ここは一護と話してみるとしようか。

 そう決意した夜一の足は、それはそれは軽やかである。


≪続く≫


※容量多すぎたので、2分割します・・・。






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