ちゃんちゃん☆のショート創作

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忘るる事象について、いくつかの報告(2)
2008年12月25日(木)

 劇場版ネタばれのため、注意OK?

注意:DVDが無事発売されたんで、先日まで行っていた反転解除しました。そのままお読みください。

    ******

◆そして、黒崎一護の場合◆


 ───夜一が、コンを見つけて確保した。

 一緒に行動していたルキアの伝令神機へ連絡が入り、心底安堵した一護はすぐさま、穿界門を開くと言う双きょくの丘へと向かった。

 瞬歩を使えば、少しの距離など何てことはない。だから今回も、連絡を受けてからさほど経たないうちに双きょくの丘へ到着出来たのだが。

「?」

 そこに居合わせた、隊長格の死神たちの様子がおかしい。穿界門の方角を見ようとせず、視線を宙へさまよわせている感じなのだ。
 加えて、特に男性陣の表情が引きつっていると言うか、人によっては逆にだらしなくニヤけているように思えるのは、果たして気のせいか。

 不審に思いはしたものの、それが何かを把握する前にコンの姿が視界に入ってきたので、一護は迷わず近くに降り立つ。
 ───が。

「△◎☆→#〜〜!?」

 次の瞬間、他の男性陣同様一護は、即座にコン『たち』から視線を逸らし、完全に背中を向けてしまったのだった。

「よ、よ、夜一さんっ! あ、あんたまた何で、こんな公衆の面前でっっっ!!!」

 そう。夜一は猫の姿から人間の姿へと戻ったはいいが、例によって例のごとく素っ裸の状態でいたのである。
 ごくまっとうで常識ある男なら、確かにイロイロと落ち着かなくなって当然だろう。

「相変わらず初心(ウブ)よのお、一護。いい加減慣れたらどうじゃ?」
「慣れてたまるか、ンなもんっっ!」
「黒崎サン・・・慣れるって、夜一サンの裸、そんなに見たんですか・・・」
「って、そこで殺気漲らせるんじゃねえよ、浦原さん! 見たんじゃなくて、見せられたんだっ、逆セクハラだぞはっきり言ってっ!」
「でっ、ですから夜一さまっ、これを早くっ! 早くお召しをっ!」

 ヤケに目の据わった浦原に迫られつつも、背後では砕蜂に手渡されたらしい羽織を着る衣擦れの音を確認していた一護だったが。

「どうじゃ? コン。儂の胸枕は心地良いか?」
「んー、暖かくて柔らかくて眠っちまいそー。人肌って気持ち良いなー」
「そうじゃろう、そうじゃろう。よく味わっておくのじゃぞ」

 どうやらコンが、夜一に抱き上げられた状態で話をしているらしいのを耳にし、眉をひそめる。
 それはどうやら、一緒にここへ来たルキアも同様だったようで。

「・・・おい一護。コンの奴、ちょっと様子がおかしいのではないか?」
「やっぱりルキアもそう思うか? 夜一さんのあんな姿見て、あれくらいの反応で済む奴じゃねえんだよ。いつもだったら」
「ああ、大人しすぎる・・・松本殿の現世での制服姿を見た時は、もっとテンションが高かったはずなのに」

 これは相当、落ち込んでいるのではないか───?

 2人が2人とも、うっかりコンを忘れていたと言う負い目もあって、真っ先にその可能性に行き当たった。いや、はっきり言ってそれ以外の理由なぞ、考え付くはずもない。

 とにかく、誠心誠意、心の底から謝ろう。まずはそれが先決だ───そう決意したルキアはだが、その謝罪すべき相手からのとんでもない言葉に、その気持ちを撤回することとなる。

「姐さんのまっ平らでささやかな胸に抱きしめられるのも良いけど、やっぱ夜一さんのせくしーだいなまいつな胸は気持ち良いなーv」
「───!」
「お、落ち着けルキア! 頼むから斬魄刀をしまえっ!」

 無言で袖白雪を抜こうとするルキアを、一護は必死に羽交い絞めにして止めた。

「何故止める。一瞬でもあやつに済まなかった、と思った我が心が口惜しいと言うのに」
「腹が立つ気持ちは分かる! 分かるけど今はやめとけ!」
「貴様どうして、コンにそこまで味方するのだ? よもや貴様、先ほどのあやつの暴言に賛同していると言うわけではあるまいな・・・?」
「だからそこで殺気立つな! ってか、賛同してねえだろうが俺は! いいから落ちつけってんだよ」

 ズルズル、と、ルキアを夜一たちから少しだけ遠ざかったところへと引っ張って行ってから、かなりの仏頂面で一護は切り出した。

「・・・あのな。コンのアレ、多分いつものあいつのやり口なの」
「は? やり口だと?」
「だから、絶妙なタイミングでこっちの悪口言って、こっちの謝る気持ちを削ぐ、って方法」

 思いもよらないことを打ち明けられ、呆気にとられるルキアに気まずい思いをしながらも、コンの弁護をする一護である。

「俺も何度か、経験あンだよ。さすがにこれだけ一緒に住んでると、ケンカしねえ方がおかしいだろ? 男同士だし。だから取っ組み合いなんか日常茶飯事だし、時々派手な口ゲンカもするんだけどな・・・たまにあんな風にかわされちまうんだ」

 ただし、コンがこのやり口を実行するのには、一定の条件がある。明らかにコンの方が悪かったり、逆に一護の方が悪かったりする時は、絶対にこんな方法はとらない。そういう場合は大抵、『悪かった』方が折れてとりあえずおしまい、だ。無論、折れる方の気分によって、膠着状態は変に長引いたりもする。
 だが。

「今回・・・俺たちの方が断然悪いはずなのにこんな態度取ったってことは、多分あいつ、俺たちに謝って欲しくないんだ、って気がする」
「何だそれは」
「理由は分からねえ。俺たちとはぐれてた時に何かあったのかも知れねえし、全然違う原因があるかも知れねえ。いや・・・どころか案外、落ち込んでる理由自体、俺たちとはまるで関係ねえ可能性もあるだろうがよ」

 第一、コンの身に起きたことが全て自分たち絡みだと思うのは、とんだ傲慢ではないだろうか。彼には彼の、彼だけの、自分たちがあずかり知らぬ世界があるはずだから。

「・・・だからアレは今、下手に見当違いのことで謝罪入れられたって困る、って意味なんじゃねえかと思う。あいつもそれが薄々分かってるから、敢えて誤魔化してんだよ」

 あいつ結構ややこしい性格してるしな、と一護が疲れたような苦笑を浮かべるのを見て、ルキアは怒りの矛先と斬魄刀を収めたのだった。・・・一護の顔を立ててとりあえず、ではあるが。


「おーう一護、やっと来やがったか。遅かったじゃねえか。さっさと現世へ帰ろうぜー」

 コンは相変わらず低いテンションのまま、夜一の『胸枕』を楽しんでいる。やはりと言うか、後頭部を胸に埋(うず)めると言うまさに枕のような扱い方で、本来の彼が好きそうな顔面を埋める『ぱふぱふ』状態ではない。
 一護に、自分の推測の正しさを確信させていると知ってか知らずか、ルキアたちにかける声は能天気を装って。

「姐さーんv 元に戻ってくれて嬉しいっスよ〜v 体の具合、大丈夫っスか?」
「・・・ああ、もう何ともない。しかしコン、貴様こそとんでもない風体になっておらぬか?」
「このくらい、一護とのケンカで慣れてますから」
「をいこら、人聞きの悪いこと言ってるんじゃねえ。いくら何でも俺は、ここまでひでえ状態にした覚えはねえぞ」
「それに、この状態なら井上さんに修繕と入浴頼む口実になるっしょ? ムフフ・・・楽しみだなあvv」
「人の話を聞けっての」
「一護・・・絶対に井上には修繕を頼むなよ。友人として彼女の身が心配だ」
「おおよ。ってか、石田でも贅沢だ。やっぱ遊子の奴に、全部頼んだ方が良さそうだな」
「げげっ☆ そ、それはちょっと勘弁してもらえねえかな〜」

 内包する気まずさは横へやり、かわされるいつも通りのやり取り。
 そんな彼らを、いわば微笑ましく見守っていた夜一だったが、おもむろにコンを抱き直した後ルキアに向き直った。
 ───ちなみに今は、ちゃんと砕蜂の羽織を身に付け、見苦しくないくらいの格好になっている。

「時に朽木。少し尋ねたいことがあるのじゃが」
「? 何でありましょうか、夜一殿」
「大したことではないのじゃが・・・お主今回の騒動中、一護のこともコンのことも忘れておったのじゃったな?」

 夜一の質問に、ほのぼのしかけていた空気が少しだけ、強張りかける。

「夜一さん、今更何を・・・」
「気になることがあっての。どうなんじゃ? 朽木」
「は、はい・・・あいにくと、その・・・」

 ルキアはコンの方にチラリ、と目をやり、すぐに逸らす。

 ───そう言えば、俺の名前は口にしていた気がするけど、コンのことは呼んでなかったような・・・。

 そりゃ気まずいだろう、と思いつつも一護は、ここで下手を打てば薮蛇になりかねないので、夜一の次の言葉を待つことにした。

「ふむ・・・じゃったら尚更、ワケが分からんのお・・・」
「だから何がだよ? 夜一さん」
「儂は時々猫の姿になっておるから、経験済みなのじゃがな。普通人間も死神も、自分の縄張りに自分の知らぬ存在がおれば、追い出しにかかるじゃろう?」

 いきなりの話題変換に、さすがの一護もついていけない。勿論コンは、まるで他人事のように首をかしげている。

「ええと・・・?」
「じゃから、例えばの話じゃ。野良猫が部屋にいつの間にか居座っていたら、普通は気味悪がるものじゃろう? 儂もよく現世で、日当たりのいい庭に入り込んで居眠りしておったら、血相を変えて追い返されたものじゃ」
「・・・まあ、それは確かに」
「隊長だったら、自分の昼寝場所を横取りするな、って怒りそうですよね?」
「松本・・・後で覚えてろ・・・」
「で、それが何だってんです?」

 浮竹や日番谷、恋次たちが何となく会話に割り込むのを見計らったかのように、夜一は今度は一護に向かって問いかけた。

「一護は今回、どうしてコンを追い出そうとしなかったのじゃ? と聞いておる」
「・・・・・はあ!?」
「喜助に聞いたぞ? お主も一瞬、朽木のことを忘れかけたのじゃろう?」
「だから、それが何でこいつを追い出すってコトに・・・」
「鈍い奴じゃのお・・・そもそも改造魂魄のコンは、お主と朽木のお陰で命を永らえたのじゃろうが。つまり、朽木の存在を抜きにして、こやつのことは語れぬはずじゃろう?」
「・・・・・!?」

 おぼろげながら、夜一が何を言いたいのか分かったらしい。コンは彼女の胸に抱かれたまま、表情を固くする。
 そんな彼を宥めるかのように、夜一は頬擦りをしながら尚も続けたのだった。

「見かけによらずお主は優しい男のようじゃが、さすがに正体不明の喋るぬいぐるみを自室で見つければ、妹たちの安全も考えて、追い出すのではないのか? じゃから疑問に思うての。
・・・ひょっとして一護、お主は、朽木の記憶を刈られたくせに、コンのことはずっと忘れずにいたのではないのか?」

 だから追い出すなど、考えもしなかったのだろう───?

 時に野良猫のふりをする、この貴人はそう問いかける。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、夜一サン」

 先ほどまで、一護が夜一の裸を見たことを根に持っていた浦原が、慌てて口を挟んだ。

「それはさすがに、ありえないんじゃないっスか? だって技術開発局々長だったアタシですら、コンさんのことは完璧に忘れてたんですよ? なのに・・・」
「・・・いや、確かに夜一さんの言ってる通りだ」

 一護は少しだけ思い出すような仕草をしていたが、驚くほどスッパリと断言する。

「さっきまでならともかく、現世ではコンのこと、俺は忘れた記憶はねえ」
「・・・なーに気取ってやがんだよ、一護」

 が、それに異議を唱えたのは、他ならぬコンだったことが一同を戸惑わせた。

「別に忘れてたって、俺は気にしてねえんだぜ? そんなの小せえことだろ。てめえが姐さんのこと忘れてたことに比べれば」
「そんなんじゃねえって」
「大体てめえ、あの時俺のコトまともに名前で呼んでなかったじゃねえかよ? てめえが俺の名前をハッキリ呼んだのは、一旦寝てたところを叩き起こしやがった、あの時からだ」
「あのなあ、そんなのお互い様だろうが。少なくとも浦原商店へ行くまで、てめえ俺のことちゃんと名前で呼んでたか? ルキアのことですら『姐さん』で済ませてたろうが」
「うっ☆」
「そもそも普段から俺たちは2人きりでいる時、わざわざ名前で呼び合うってコト、ほとんどなかっただろうがよ」
「そこはエバって言えることかよ、この野郎」
「まあまあ、黒崎さんもコンさんも落ち着いて」

 夜一の質問そっちのけで口論を始めそうな気配に、浦原がとっさに止めに入る。

「何だか、『おい』『お前』だけで会話成立させてる、熟年夫婦みたいなやり取りですねえ」
「・・・何だって?」
「いえいえ、聞こえなかったんだったら良いんですよ。でも確かに夜一サンの言う通り、おかしな現象ですねえ?」
「そうじゃろう?」

 夜一は頷いたが、どちらかと言うと愉快そうな顔に見えるのが、一護には癪だ。

「生みの親より、育ての親、と言ったところじゃな」
「「誰が親だ、誰が」」
「言葉のアヤじゃ、気にするな。それはともかく・・・喜助。元・技術開発局々長としてのお主の意見、聞きたいものじゃがのお」

 悪戯っぽい目をひらめかせる夜一に、一護は少々居心地の悪さを覚え始めた。

 ・・・何もそういう気恥ずかしいことを、皆が聞いているこの場で聞かずとも良さそうなものを。

「そうですねえ・・・」

 浦原はちょっとだけ、考えるそぶりをしながら周囲を見渡す。まるで皆が聞いているのを、確かめているかのように。

「まず1番目に考えられるのは、コンさんが改造魂魄と言う特殊な存在であるが故、記憶を刈り取られることがなかった、と言う説」
「! だが、それは・・・」
「そう、朽木さんも先ほどおっしゃっていた通り、その説はきっぱり否定できます。何たって、朽木さんを初めとした死神が皆、覚えていなかったのだから」

 気まずい思いを共有しながらも、この場にいる死神は皆納得する。

「2番目に考えられるのは、距離の壁というヤツです。尸魂界と現世の間には、断界と言う時空を隔てる壁が存在する。それ故に、刈られる記憶に差が生じた・・・」

 ですが、と浦原は、夜一と視線を交わしてみせる。

「その説もありえませんね。実際、私たち浦原商店の者は現世にいたのに、皆黒崎さんやコンさんのことを覚えていませんでした」

 ルキアの異変を感じ、浦原商店へ足を運んだ時の違和感を、一護は思い出す。確かにあの時応対してくれた雨の態度は、まるっきり初対面の人間に対するものだった。

「となると、考えられるのは・・・まあ、これはあくまでも想像でしかないので、なんとも検証がしづらいんですが」

 ヤケにもったいぶった言い方で、浦原は周囲の注目を惹いてから、告げた。

「黒崎さんと朽木ルキアさん、あるいは朽木さんとコンさんの間にあるものとはまた別の絆が、黒崎さんとコンさんの間にもちゃんと育まれていた・・・と言ったところでしょうかねえ?」
「へ?」
「・・・・・」

 浦原のそのセリフに、コンが仰天したような視線を向けてくるのを、照れからそっぽを向いてやり過ごす一護。
 が、そのくらいで浦原の主張を中断させることなど、出来るはずもなく。

「そもそも何だかんだ言いながらも、黒崎さんは廃棄処分されかかったコンさんを、ご自分の意思で引き取った。そう、朽木さんや誰かに、強要されてのことじゃない。その時点で既にコンさんは、黒崎さんにとっちゃ特別な存在になってるんです。本人も無意識のうちにね」

 自分の意思が故に、死神になったこと自体は忘れなかったのと同じ理屈っス───ルキアから死神能力を譲渡された経緯を聞かされていたらしい浦原は、そう結論付ける。

「だから黒崎さんが今回、朽木さんのことを忘れてもコンさんのことを覚えていたのは、別段不思議でも何でもなく、ごくごく当然の結果だった───ってところっスかぁ?」

 ───一瞬の沈黙の後。

「い、いちごおおおおおっ!!」

 感動のあまり、目から鼻から涙やら鼻水やらをただ漏れさせたぬいぐるみは、全身全霊で一護に抱きついた。

「だああああっ! 鼻水を擦り付けるなよ、コンっ!」
「やっぱりおめーは親友だああっ! 1人で凹んでて悪かったあああっ!」
「だから、そんなに派手なリアクションすんな! 顔がもげそうだぞ、顔がっ!!」
「いちごおおおおおっ! 俺は嬉しいぞおおおおっ!」
「・・・・・・・☆」

 どんな悪態をつこうが、感動の涙を止めようとしないコンに、さすがに一護もどんな態度をとって良いのか途方にくれてしまう。
 そんな彼の気恥ずかしさを、更にルキアが増長させるのだから、タチが悪い。

「ほほう・・・少々ヤケるな、一護。私がおらぬ間に、随分コンと仲良くなったではないか」
「ルキア、てめえっ!」
「ヤケるだなんて、そんな、恐れ多いっ! 俺はちゃんと、姐さんのことも愛してるっす!」
「ホントか? 愛想をつかされたと心配していたのだぞ?」
「マジっス! 俺のこのあふれる愛情を受け止めて・・・・・むぎゅ☆」
「ああスマン、いつものくせでつい足蹴に」
「・・・何か、シアワセそうな顔で伸びてるな・・・」

 やっと気まずさを拭い去り、本当にいつもどおりのやり取りを交わす3人だった。

 そしてそんな彼らを見守りつつも、密かにショックを受けている男が、約1名。

「ヤ、ヤケるって、ヤケるって・・・」
「だから阿散井、朽木はそういう意味で言ったんじゃねえだろうがよ」
「あーあ、全然聞こえてないみたいですね」


≪おしまい≫


※イヤだから、マジで謎でしょうが。一護がコンのことはちゃんと覚えてた、ってことは。
まあそうでないと、そもそも話が進みようがなかっただろうけどね・・・。


 もしHPで正式にUPすることになれば、製作秘話なんか書こうかと思ってます。多分劇場公開終了後でしょうけどねー。
 ちなみにここに書いた『改造魂魄が作られた理由』は捏造ですんで、本気にしないでねv








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