本編書く前に・・・。 このコーナーを設けて2日、そしてここへ引っ越してから1日しか経ってませんが、メールが届きました。最大文字数がネックで閉鎖した、引越し前のレンタル日記を見てくださっていた人からです。 たった数日間だけだったのに、見ていた人がいたとは。嬉しいです。ありがとうございます、サブティンさん。(感涙) ってわけで、張り切って(笑)続き行きます!! ********************** それから部活動が始まったが、みなどこか張合いがなく、ぎくしゃくしていた。 理由は簡単である。県ナンバーワンをも狙える実力のエースが、いなくなるかもしれないからだ。 特に、その原因を作ったらしい彩子の様子と来たら、なかった。時々思い出したかのように声援を張り上げるのだが、それがカラ元気だと言うことが常日頃ドンカンな流川でさえ、分かったくらいである。 部員も、無意識のうちに彩子を遠巻きにして、腫れ物に触るように扱っていた。 (ナンか・・・静かだ) そのうちお待ちかねの練習試合が始まったのだが、流川はどこか拍子抜けした感触を覚える。 試合に参加していない人間は応援に回っている。それぞれ自分の好きなチームへ、激を飛ばしている。そして誰かがナイスシュートを決めると、大歓声に変わる。いつもながらの光景だ。 なのに。 いつもと何処か違う、そう流川は感じていた。だからと言って、試合への集中力を欠くわけではない辺り、彼らしくはあるが。 ───ただ、シュートを決めたり、ボールがコートからそれたり、そういった試合の合間合間に、その違和感が流川に付いて回っていた事は否めない・・・。 と、ちょうどボールが流川の方へ飛んで来た。ラインぎりぎりにいたため、飛びついてもどうやら味方にパスできそうにない。 「ちっ」 とっさに彼は、ボールを追いかけて来た敵方の選手のバッシュ、めがけてボールをはたく。こう言う時の常套手段である。 狙いはまんまと当たり、味方ボールとなる。一番近くにいた流川のスローインとなり、コートの外へボールを取りに行った彼の耳に、ふと飛び込んできた声があった。 「ほら、マネージャー。いつもみたいに元気な声出してくれよ。な?」 ───キャプテン・二階堂の声だ。話しかけている相手は・・・言うまでもない。 (・・・そっか・・・) 流川が気付いていなかっただけなのだ。いつもだったらいい加減なプレイには叱咤を、そしてガッツプレイには称賛の声援を、きっと彩子は送っていたということなのだろう。 今はそれがない。そしてそのことを物足りない、と感じていたと言う事は、流川にとって彩子の声援は決して、耳障りなものではなかったのだ。 他の大勢の女子生徒の、黄色い声援とは違って。 「・・・・・」 ふう、とため息を1つ。そして流川は試合に集中した。 「流川、悪いけどちょっと顔貸してくれないか?」 部活終了後である。同級生と一緒に後片付けをしていた流川は、二階堂の声に手元を止めた。 「・・・話があるんだ。生徒指導室まで来てくれ」 多分、塚本のことであろう。即座に頷き、彼の後に付いて行く。 そして生徒指導室の近くまで来たところ、数人の男子生徒が彼らの横を足早に通り過ぎて行く。二階堂と目配せなどしていたから、バスケ部の人間だろうか。 「こらこら、付いてくるんじゃねえよ、見世物じゃあねえんだからよ」 その男子生徒たちは廊下の途中で立ちふさがり、いつの間にか流川の後を追って来たバスケ部員とおぼしき人々を、牽制していた。 「・・・デリケートな話だからね。第三者に聞かれたり、下手に介入されては根本的な解決にはならないだろう?」 流川の疑問に答えるように、苦笑いを浮かべる二階堂。なかなかにして、キレる男のようだ。 「失礼します」 生徒指導室には、2人の先客がいた。1人はバスケ部の顧問の教師で、もう1人は彩子である。 教師の方は、二階堂の挨拶に黙って頷いていたが、 「る、流川!?どうして流川を連れてきたんですか?キャプテン」 彩子は困惑顔で二階堂に尋ねる。その口調は非難している風ではない。むしろ、これ以上厄介ごとに後輩を関わらせまいと懸命にかばってくれているように、流川には受け止める事が出来た。 「彩子くんと塚本の話だけで結論を出すんじゃ、どうも不公平だと感じたんだよ。第三者の意見も大事だろ?まあ、2人とも落ち着いて座ってよ」 二階堂はにこやかに笑って、自分も椅子に腰掛けた。 「それで早速聞きたいんだけど、流川は塚本のこと蹴飛ばした、って言ってたよね? どうして?」 キャプテンの地位は伊達ではない。要点をいきなり突いて来た二階堂である。 「・・・・・」 「彩子くんにも尋ねたんだけどね、ノーコメントで押し切られたんだ」 このごに及んであの男をかばってどうする。流川は何故か、ムッと来る自分を感じていた。 「・・・先輩がマネージャーに迫ってもみ合ってたから。昼寝しててうるさかったせーもあるけど」 「流川!」 それ以上言わせまい、との勢いで彩子は叫んだが。 「何で隠す必要がある。別にゴーカンされたとかじゃねーだろ、キスだって止めたし」 「そ、そういう意味じゃなくってねえ・・・」 あまりにロコツな言い草は彩子の顔を赤らめさせ、二階堂と教師の顔を渋らせた。 「・・・要するに、塚本が彩子くんを押し倒してたから阻止した、って事なんだね」 「そー」 「その他に、何か言ってなかったかな?あいつ。その、彩子くんに」 「・・・バスケ部を優勝させたいだろって。そのためにはマネージャーの応援が必要だって。あと・・・自分1人を応援して欲しいとか言ってた」 てっきり否定するかと思った彩子は、赤い顔でうつむいたままだった。ここで下手に話をこじらせては、流川の善意を踏みにじる事になる、とでも判断したのだろう。 「つまり、こう言う事になるね? 塚本はエース級の実力とチームの優勝を楯に、彩子くんに交際を迫った。それを断られたから実力行使に出ようとして、流川に蹴飛ばされた。・・・それでいいかな?」 流川は頷いた。かなり苦々しい気分で。 彩子はうつむいたままだった。 肺の中の空気を全部吐き出したかのようなため息が、二階堂から漏れる。 「・・・そこまでするかあ? 信じられないぜ」 「嘘じゃねー」 思わず反論した流川に、慌てたような弁解が返ってくる。 「あ、いや、そう言う意味じゃないんだ。別に流川の言ってることを握りつぶすとか、そう言うつもりはないんだよ。ただね・・・やっぱりやってくれたな、って気分でさ・・・」 「・・・やっぱりって・・・」 ───聞き捨てならない言葉である。 「まさかキャプテン、塚本先輩が以前にも女の子にそんなことした事があるとか言うんじゃ・・・」 「違う違う。少なくとも俺は、そんな噂は聞いた事はないよ。その・・・女の子に無理強いしたとか、そう言う点では、ね」 「学校側にもそんな情報は届いていない」 表現が曖昧になって来た二階堂を助けるかのように言葉を続けたのは、今まで黙って話を聞くだけだった顧問の教師。 「そういう意味で言っているわけではない。・・・流川君は今年入学したばかりだから知らんだろうが、彩子くんは覚えていないかね? 去年、当時の3年が引退した直後、新キャプテンの人事について揉めていた事を」 どうも話の成り行きからすると、二階堂と塚本がそろってキャプテン候補として上がっていた、といった感じである。 「・・・覚えてます・・・。確か女の子たちとか、塚本先輩に陶酔していた部員たちはみんなこぞって・・・あ、いや、その・・・」 「いいんだよ、本当の事だから。実力とか、人気とか言う分野では、俺は全然塚本には叶わなかったからなあ・・・」 疲れたような笑みを浮かべ、二階堂は話の先を促す。 「だが、マネージャーをやっている彩子君には分かると思うが、キャプテンと言うのはそんなもので決まるものじゃないだろう。第一、塚本君には時々感情的になりすぎると言う問題があった。冷静な判断を必要とする場面でも、感情論を持ち出そうとするきらいも。試合では頼りになるだろうが、バスケ部をまとめて行くと言う分野には、向いていない」 その点、二階堂は確かに理性的である。事情を知らない部員たちが彩子に一方的に詰め寄った時でも、何とか間に入ろうとしていたではないか。 「新キャプテン人事にしても、どうやら塚本くんが裏で扇動していたらしい。私の顧問としての権限で、何とか二階堂くんをキャプテンにすることが出来たんだが・・・その際、彼が私に何と言ったかと思う? 『どうして実力も人気もない奴に、俺が負けなきゃいけないんだ!!』だよ」 ───つまり塚本と言う生徒は、キャプテン人事を人気投票か何かと勘違いしてしまっていた、と言う事なのだ。本末転倒と言うしか、ない。 「『別に負けたわけではないだろう、二階堂くんと一緒に部をもりたてていけばいいだけの話だ。実質上エースは君だろう』と言って、その場は収まったんだがね・・・」 「まさか今度は、チームのエースってものをステイタス扱いにするなんてね・・・。あいつらしいって言えば、らしいんだけど・・・」 頭が痛いよ、と唸る二階堂。 流川と彩子は、何とも複雑な気分になって顔を見合わせた。 「話は良くわかったよ。とりあえず、塚本の退部届けは保留扱いにしておく。あいつが彩子君に謝った上で戻って来たいって言うなら、いつでも受け入れる体制だ」 「・・・」 「そんな顔をするなよ、流川。確かにあいつに問題があるのは事実だけど、チームにとってはなくてはならない存在だ。それに、彩子くんにとってもこのままやめられたんじゃ、後味が悪いだろ?」 「・・・悪いです。すごく。それに塚本先輩、バスケが好きなのには違いないから・・・」 「・・・」 「断っておくけど、今話した事は現段階では他言無用だからな、流川。お前たちの言い分を信じない連中も多いんだ。下手をすればそれこそ感情論になって、冷静な意見がどこかへ飛んで行ってしまう。・・・そうなるとかえって厄介だ。彩子君の意思なんてどうでもいい、なんて無神経な話が出てこないとも限らないだろ?」 しぶしぶ流川は頷いた。集団ヒステリーに巻き込まれるのはゴメンだし、考えるのも面倒くさい。 (続)
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