ちゃんちゃん☆のショート創作

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Darling(1)SD・流×彩?
2001年09月02日(日)

以前から書きたかった、「SLAMDANK」の富ヶ岡中学出身コンビの話です。でも、タイトルほど色っぽくはならないだろうなあ・・・。
では、行きます!!

**************

「あたしにとって・・・バスケは恋人みたいなものなんです」
 寝惚け気味の流川の耳にも、それはヤケに心地よく響く言葉だった。


 富ヶ岡中学に入学したばかりの流川楓はその日、授業をサボって学校の中庭で昼寝をしていた。
 以前、写生か何かでここを訪れた時、殊の外日当たりが良かった事を覚えていて、居眠りするにはもってこいだと思ったからである。
 案の定、中庭の心地よさは想像通りで、流川は誰にはばかる事なく、唯一の趣味ともいえる「昼寝」に没頭していたのだが・・・。

 ───どこかで聞いた記憶のある女の声が、彼の意識を覚醒させる。

 流川にかけられた声ではないようだ。かと言って独り言でもない。目をこすりこすり様子をうかがうと、どうやら流川からは目の届かない場所で、男女2人が話をしているらしい。
(・・・あれ・・・どっかで・・・?)
 女以上に、もう一方の男の声にも聞き覚えがあり、眉をひそめる。

「だからさあ、彩子もバスケ部を優勝させたいだろ?今大会。そのためにオレには、彩子からの応援が必要なんだよ」
「いつも応援してるじゃないですか」
「それはバスケ部全体にだろ?俺は、彩子には俺1人だけを応援して欲しいんだよ」
「・・・スミマセン・・・あたし、そう言うの苦手だから・・・」
 そう、やんわりとした口調で謝った後。
 彩子、と呼ばれた女はさっきの、流川も聞きほれるような言葉を口にしたのである。

 ───あたしにとって、バスケは恋人みたいなものなんです・・・。

 どうやら男は『彩子』に交際を申し込み、断られたと言う状況のようだ。

(・・・ふーん・・・)
 こんな女もいるんだ、と思う。

 実は流川も、女生徒にはモテる方だ。やはり呼び出されて、こんな風に告白タイムに持ち込まれた事が1度や2度では数え切れない。
 が、彼はずっと彼女たちをフッて来た。自分では自覚がないが、かなりそっけなく、冷淡に。
 今のところ彼にとって、一番大切なのはバスケだ。それ以外のことは考える暇がないし、鬱陶しいだけである。
 なのについこの間の女など、流川にとっては聞き捨てならない言葉で告白してきたのだ。

『ほんの数秒でもいいから、バスケより私の事を大事に思って欲しいんです・・・』

 ───なにがバスケより、だ。
 その時のことを思い出すと、未だに胸糞が悪くなって来る。

 子供の頃から親しんできて、彼が夢中になれるただ1つのもの。それが自分にとってのバスケだ。最近とみに手にボールがなじんできて、楽しさが増してきたところである。
 なのに。今会ったばかりで名前も知らない女のコトを優先しろ、とは、図々しいこと甚だしいではないか。
 だから流川は、いつも以上に冷淡な態度でその女生徒をフッたのだが、その時ついてきた友人とか名乗る女生徒たちが、理由を言って欲しいだの説明しないでフるなんて冷たすぎるだのと、ぎゃんぎゃんやかましかったのだ。
 結局その時はめんどくさくて、なにも言わずに立ち去ってしまったのだけれど。

(バスケが恋人、か・・・)
 何故だろう?
 他人が口にした言葉のはずなのに、ストン、と心の中でしっくりとなじむ。まるで自分のために用意された言葉のように。
(そうなのかも、知れない)
 女には興味がなく、男でも、バスケが上手い人間以外はどうでもいい、と思えるのは・・・。


 と。
「・・・っざけんなよ! 納得いかねえぞ、そんな返事じゃあよぉ!!」
「ちょ、ちょっと先輩っ!?」
(!?)
 急に不穏な空気を感じて、流川は慌てて立ち上がった。
 人間同士がもみ合う気配がする。それも、女の方が慌てているというか、嫌がっている感じで。
 こう言う時の男のパターンと言うのは・・・。

「うるせえ」
 どかっ☆

 さすがに見てみぬフリは目覚めが悪い。
 流川は、無理やり女にキスしようとしていた男を、思いきり蹴り上げてやったのだった。


「てめえ・・・流川!!」
 やはりと言うか。男の方は、流川も良く知る人間の一人だった。バスケ部のエースで、確か名前は塚本、とか言ったか。
 蹴倒されたのならまだキスもできようが、流川はわざわざ「蹴り上げて」やったのである。まともに吹っ飛んだ塚本が我に返った時には、さっきまで迫っていた女は逃げ去ってしまった後だった。
「どう言うつもりだ! 仮にも先輩に向かってよ!?」
「昼寝の邪魔」
 いけしゃあしゃあと答える。一応は嘘ではなかったので。
 完全に馬鹿にされたと感じ、塚本は怒りで蒼ざめたが、ここで暴力を振るうほど愚かでもない。
「・・・後悔するなよ、流川!!」
 そう捨てゼリフを残して、さっさと立ち去ってしまった先輩を、どこか他人ごとのように見送る流川であった。



「流川、流川」
 そばの草むらから囁く声がする。
 視線を巡らせた流川の前に、ばつの悪そうな笑顔を見せながら這い出して来た女生徒、1人。
 言うまでもなく、さっき流川に助けられた格好のアノ女だ。
「アリガト。助かったわ。まさかあんたに助けられるとは思わなかったけど・・・」
「昼寝の邪魔だっただけ」
「・・・寝るのが趣味って、本気だったのねアンタ・・・」
 呆れたように女が頭を押さえるのを、流川は怪訝そうな目で見つめる。
 確かに、何処かで聞いたような声だと思ったのだが・・・?

 流川の、探るような視線に気付いたのだろう。女生徒は腰に手を当てて仁王立ちする。
「まさかとは思うけど・・・アンタまた、あたしのこと誰だか忘れた、とか言うんじゃないでしょうね?」
「・・・・・・・・・・☆」
「図星、って顔してるみたいだけど。・・・まあいいわ。何度でも教えてあげる。あたしは2年の彩子よ。男子バスケットのマネージャーやってるの」
「あ」
「やっと思い出したみたいね。ったく、他人に興味がないって言う噂、本当だったわけ?」
 言いつつも、彩子の目は怒ってはいない。仕方ないなあ、と肩をすくめただけで、その件に関しては不問に帰してくれた。
「その代わりと言っちゃなんだけど・・・お願いがあるのよ」
「?」
「さっき聞いてたでしょ?あたしと塚本先輩との話。悪いけど・・・誰にも話さないって約束してくれないかしら?」
 流川は無言で頷いた。元より、他人の色恋などどうでもいいことだ。


 だが。
 これが富ヶ岡中バスケ部にとってちょっとした騒動を呼び込む結果になろうとは、思いも寄らなかったのである。
 ましてや。
 他人の色恋などどうでもいい、と言う流川の主義を、少なからず揺るがすことになろうとは・・・。


 ───放課後。授業中をずっと寝て過ごした流川にとって、一番待ち遠しい時間だ。
 今は一年のみんなと一緒に基礎ばかりやっていて、なかなか試合はさせてもらえないのだが、それでも彼は真面目に通っている。
 が。今日はなにやら様子が変だった。体育館の一角に部員たちが集まり、何やら騒然としているのは一体・・・?
 ちょうどその時。

「チュース!!」
 声をかけ、体育館に入ってきたのは彩子であった。
 とたん、部員たちはいっせいにそちらを見やり、駆け寄って来る。
「「「彩子!!」」」
「?」
 ぼーっと突っ立っていたため、結果的に彩子と一緒に詰め寄られるハメになった流川だが。
「おい彩子!塚本先輩が辞めたってどう言う事なんだよ!?」

 ───眠気が一気に覚める・・・。


「まあまあ落ち着いて。そんなに喧嘩腰でまくし立てられると、彩子君だって困ってしまうよ」
 穏かな感じの3年生───名前は忘れたが男子バスケ部のキャプテンだったはずだ───が、みんなの間に割って入るが、冷静さを取り戻す役には立っていない。
「だけど二階堂先輩、こんな時にエースに辞められたら、大会どうなるんですか」
「そうだよ!俺達今年はいいところまで行けるかもって、楽しみにしてたのに!」
「ちょ、ちょっと待って。塚本先輩が辞めたって本気? どうして?」
 ここで慌てて口を挟んだ彩子に、部員たちは何とも言えない複雑な表情で告げたのだった。

「・・・知らないよ。ただ、塚本さんが皆の前で言ったんだ。『理由は彩子たちに聞け』って」

(あんにゃろう・・・)

 さっきの捨てゼリフはそう言うことだったのか。
 蹴るだけでは飽き足らない。もう2、3発殴ってやれば良かった。
 流川が心の中で塚本を罵倒する間も、騒動は一向に収まる気配がない。

「そ、そんな・・・」
 さすがに彩子は真っ青になっている。それを見咎めたのだろう。男子部員が彼女に問いただしにかかる。
「心当たりがあるんだな、彩子? どう言う事なんだよ?」
「・・・それは・・・」
「そう言えば塚本、お前に惚れてたよな?まさかフッたんじゃないだろうな?」
「・・・・・・・・」

 この場合、無言は肯定と受け取られる。真実ははかなり違う状況だったのだが。
 皆がいっせいに彩子を非難する空気に勘づいて、流川は憮然として口を挟む。
「知らねー。昼寝してたら騒がしかったんで、蹴っ飛ばした」
「流川!?」
「蹴っ飛ばしたって、お前、塚本をか!?」
「どういうつもりだよ、1年坊のくせに!」
「エースが怪我したらどうするんだよ?」
 悪びれもせず頷く彼に、今度は非難が集中する。だが、それ以上何も言うつもりもない流川は押し黙ったままだ。なにより、彩子に口止めされたこともあるし。

「ほらほら、くっちゃべってる暇なんてないだろ?いい加減部活を再開するぞ」
 二階堂がキャプテンらしく、険悪になりかけた一同に声をかける。彼のちょっとのんびりした口調に、少し怒気をそがれたのだろう。部員たちはしぶしぶ散って行く。
 そんな中。彩子だけは顔色が悪いまま、その場に立ち尽くしていた。

(続)





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