つたないことば
pastwill


2006年02月15日(水)  死に化粧

暑い夏の日だった。強い太陽の光はすべてを白く照らしていた。閉じた障子からもその光はまばゆいほどに漏れている。目が上手く開かない。でもそれは光のせいだけじゃないことを知っている。障子と黒い喪服を着た父に挟まれるように横たわる母。眠るように。母の死に装束の襟元を直す父の手が震えていた。きっと泣いていたんだろうと思う。見てはいけないと思った。傍らに座る弟が手を握った。温かく、柔らかく。この子はその手に、その頬に受けた母のぬくもりをそれと自覚のないまま失おうとしている。手を握り返す。父の手は母の黒髪を撫でていた。母は何も言わない。もう何も。白く溢れる光と父の黒服、母の死に装束、黒髪。白と黒の世界の中で母の唇にひかれた紅だけが赤かった。



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