つたないことば
pastwill


2006年01月17日(火)  

「おい」

「ん」

短く呼ばれたから短く返事をした。
背中の後ろで、今日が始まろうとしていた。
夜空の紺色から太陽の黄金色へのグラデーション。
空は焼けなかった。澄んでいる。
冷えた空気が容赦なく頬を刺すものだから、思わず両手で覆った。
でもその手も冷たくて。

「何考えてる」

「さあ」

吐いた息が真っ白く漂って、消えた。
言葉数は少なく、ただぼんやりと一点を見つめていた。
なんだろう、ただどうしようもなく、ただ、

「行くか」

「何処へ」

「わかんね」

歩き出したいような、留まりたいような。
遠く、白い煙が上がっている。
もう燃えるものなんかないのに、名残惜しむように。
焼け落ちた陣地には仲間もたくさんいた。
逃れられたのか、それとも。知る術はない。
ただ、もう無くなったのだ、という喪失感。
きっと顔も思い出せなくなる。

進むしかないんだ、結局のところ。
太陽の光がすべてを覆いつくす前に。



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