つたないことば
pastwill


2003年04月06日(日)  真夜中のラプソディー




風の音、
木々の音、
君の声。





真夜中のラプソディー






ガタガタ ガタガタ
ざわざわ ざわざわ

風で窓ががたついてる。
木々も揺れている。
君はその音で目を覚ました。

「・・・・・・アンタ、まだ起きてんのかよ」

目をこすりながら起き上がるなり僕をにらむ。
ああ、眠いからちゃんと開けらんないだけか。

「んー、そうだよ。本読んでんの。ホラ、イチャパラの新刊」

そう言って見せようとしたら、思い切りそっぽ向かれた。
再び振り返るなり、君は悪態をつく。
ま、いつものことだけどさ。

「夜遅くまでそんなモン読んでるから、朝起きらんねーんだろ。もう寝ろよ」
「えーだってお前、まだ1時過ぎだよ?ああ、お子様にはわかんないか」

ガキ扱いすんなって言いながら振り上げた拳をパシッと受けて、そのまま
腕を引っ張って抱きしめた。
嫌がるだろうなと思ったけど、案外おとなしいのでもっと力を込めてみた。

「いてえよバカ力」
「またまたー、嬉しいくせに」

理由もわからずぎゅうぎゅう抱きしめて。
僕は今、この子の存在を確かめているような気がした。
ここにいるのが確かなことを信じていたいのだ。



この子は一度死んだ。
僕は守るといったのに守れなかった。
この子を救ったのはあの少年の優しさだった。
僕は偽善者だ。
口先だけの人間だ。
守る力もないくせに、優しくて残酷な嘘を平気でつくのだ。
それなのに君はまだ僕のそばにいてくれる。
あれは仕方なかった、そう言ってくれる。
それでもその言葉ほど惨めで非力な気分にさせるものはなくて、
無性にイライラして腹立たしくて、僕は君を殴った。
君の軽い体は思いのほか簡単にふっ飛んで、
口の中が切れたのだろう、血が飛び散った。
僕はその時のことをそれ以上覚えていなかった。
ただひとつ、脳裏に焼きついた幽かな記憶。
僕はきっと君を心の中から消し去りたいと思っていた。




ガタン
ひときわ大きく窓が揺れて、腕の中の君はびくりと動いた。
同時に僕もびくりとした。
気づかれなかったみたい、大丈夫。

「何、今の怖かった?」

自分のこと棚に上げて君のことをくすくす笑った。
君は言い返さないし顔も見えないけど、多分怖いのは本当だったから、
指摘されて赤くなっているはずだ。
それで僕はちょっと嬉しくなった。

僕は窓から、ざざあと音を立てて揺れる木々を見た。
この国もやがて大きく揺れるだろう。
この子の首に残された呪印が何よりの証拠だ。
僕はそのとき、この子を守りきることはできない気がする。
最後まで守ることなんてできないんだ。結局のところ。
それでも僕は、
僕は、




死んでも、君を守る




ガタガタ ガタガタ
ざわざわ ざわざわ

風は一向にやまない。
君はよっぽど眠いのか、身体から力が抜けている。

「早く寝ろバカ」

そう言って間もなく、寝息をたて始めた。
横たわらせてやろうかと思ったけど、あったかいからそのまま抱きしめてる
ことにした。
腕の中で確かな呼吸。
当たり前のことがとてもれしい。



風の音、
木々の音、
君の呼吸。


確かな、
とても確かな。







END







02年1月5日より再録



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