「wanderer」という曲は私にとって特別な作品で、私はこの曲を生涯忘れないであろうし、明日には世界も自分も尽きるだろうという深夜にはきっとこの曲を口ずさむだろう。そうすれば如何なる暁が巡り来ようと怯まずに済むはずだ。
多少、大仰なことを言ってしまったが、平易に換言すれば私は「wanderer」が大好きなのだ。月が殊のほかきれいに見えるくらいに。
大好きな曲だから手許にある携帯プレイヤのすべてにすべからく入っている。勿論、最近購入したiPhoneにもだ。
iPhoneという機械にはiPod即ち音楽プレイヤの機能も備わっているから、電話としての機能を使用している時間以外は電池が切れない限り音楽を再生し続けることができる。私は専らiPhoneを音楽プレイヤとして使用している。
iPhoneには多種多様のアプリケーションが存在し、安価に或るいは無料で入手できるものも沢山ある。その中で、私は昨夜だったか一昨夜だったか、気紛れに楽器のアプリケーションを入手し、iPhoneにインストールした。iPhoneのタッチスクリーンを利用してピアノを鳴らせるものと、同じくドラムを鳴らせるものだ。
私には音楽の智識も楽器の智識もない。しかし秀れた音楽を聴けば心動かされるし、楽器を鳴らせば愉しいことは知っている。
ドラムのアプリケーションは「
DrumMeister」という。無料で手に入る。シンバルが四枚(一ツはハイハットか?)、タムが四ツ、スネアが一ツ、バスが一ツ。素人がいじりまわすには充分なセットだ。音も結構いい。
でたらめに鳴らしてみてちょっと愉しくなった私は、思い立ってiPhoneの中のiPodを起動して或るプレイリストを再生し、更に改めて「DrumMeister」を起動した。そのプレイリストの先頭の曲が「wanderer」である。
「wanderer」という曲には、風来の年若い楽士が旅先で気紛れに奏でた曲に、その土地の音楽好きが思い思いに自分が鳴らせる楽器や楽器でないものを手にやってきて勝手に演奏に加わっていく、というイメージを私は持っている。
歌詞と曲調と、次第に増えていく音数と音色がそのような風景を私に見せたのだろう。特に終盤でポコポコ加わってくるパーカッション(ボンゴ?)には、若い楽士がうたい奏でる曲を聴いてうずうずしていたが何らかの理由で参加するのをためらっていた者が、いよいよたまらず駆け出して奏での一員となった、というような昂揚が感じられる。私はぜひその名もなきパーカッショニストになってみたかったのだ。
iPhoneにヘッドフォンをつないでタッチスクリーンを指で連打しているさまは傍目に余程奇ッ怪であったことと思う。だが、私は愉しかった。こんな昂揚感は何年振りであろうかというほど昂り、体温が上昇して汗をかいた。
三分少々の曲だが、たいした運動量だったように感じた。そして二〇年も以前のように、運動量は感じても疲れは微塵も感じてはいなかった。
ほんとうに、非常にとてもすごく大変甚だまったく、愉しかった。
この曲を私に与えてくだすった、神より運命より偶然より、
F.Koshiba氏に心からの感謝を申し上げる。申し上げるったら申し上げるのだ。
そして、本記事を読んでくだすっているiPhoneユーザに申し上げる。やってみそ、愉しいぞ!
■これに参加しても愉しいかとちょっと思った。