「チキンラーメン」というインスタントラーメンは、ぼくが生まれる前から世の中に出まわっていた。「湯をかけるだけで喰えるようになる魔法の食べもの」だった。ぼくも幼い頃からよく食べているが、ぼくが幼い頃のチキンラーメンは麺が四角かったように憶えている。
現在の円い麺に施されている「たまごポケット」加工も当時はなかった。だから、生卵を丼に入れると必ずと言っていい確率で卵は丼の端っこに落ち着く。
その上、蓋付きのラーメン丼なんてものはなかったから、大抵は鍋の蓋を代用することになる。するとどうしても丼と蓋の間には隙間ができて、そこから熱も蒸気も逃げてしまって、卵が熱凝固しない。結果、生卵を絡めてラーメンを喰うことになり、それはあまり旨いものではなかった。
だから、現在テレビCMで見るような、「卵が半熟になって麺の上に乗っかっているチキンラーメン」は当時のぼく等には夢物語であり、ぼくはこれまで一度も御目に掛かったことがなかった。
そのぼくの前に現れたのが「チキンラーメン&フタつき白いどんぶりセット」。チキンラーメン一ト袋と、チキンラーメンを喰うために最も適した規格の丼鉢が一ツのパッケージに入っている。
チキンラーメンを喰うための規格がどういうものかと言うと、蓋と丼の隙間が限りなく小さく、熱や蒸気が逃げない加工をしてあるため、生卵を乗せて調理した場合、いい具合に卵に熱が加わって半熟に仕上がるらしい。ぼくが幼い頃の夢物語を現実にしてくれる丼だということだ。
これがその「白いどんぶり」。
一九九〇年から起用されているというキャラクタ「ひよこちゃん」がワンポイントになった、シンプルな白い丼。
これに、チキンラーメンの麺を正しく真っ直ぐに収め、麺の真ん中に施された「たまごポケット」にそっと生卵を乗せる。
おお、収まり方がうつくしい。「たまごポケット」をはじめて利用したぼくはこれだけでも充分にうれしい。
そして、これが熱湯を注いで蓋をして、三分間待って蓋を開けた瞬間。
卵が、卵がちゃんと熱凝固している! チキンラーメンの麺の上で白く熱凝固している卵の白身を、ぼくは肉眼ではじめて見た!
……時代はこんなにも進んでいたんだね(´□`!)。
上の写真では卵の黄身までがきちんと半熟にはなりきっていないが、これはぼくが不精をして「丼を予め温めておく」という行程を省いたため。使用した湯の温度が冷たい丼に奪われて下がってしまい、卵に充分な熱が加わらなかったのだろう。手を抜かなければCM画像通りの仕上がりになるものと思われる。
丼のデザインもごてごてとした飾りも色もないぼく好みで、電子レンジ調理にも使える材質なのでとても気に入った。気に入った器を使うことで同じものでも更に旨く喰うことができるということを、ぼくははじめて体験したのではなかろうか。
三〇年以上生きていても、知り得たことなんてほんの僅かしかないものなんだなあ。まだまだ沢山のことを知る愉しみが残されているということだ。
【今日の著しくツボに】
ドラマ版「のだめ」に登場するミルヒのはげしいまでのインチキ外国人くささ。すごい。