寝苦しい夜がこのところ戻ってきた。となりのエアコンが低く鳴っている。いわし雲、別名、うろこ雲、学名、絹積雲cirroscumulus、が月のまわりを覆い尽くしていた。
What was I dreaming of? Clouds.
好きな詩の一節が思い浮かぶ。
詩の一節は強力なくさびで記憶に食い込んでいて自分でもびっくりすることがある。
「冬の水琴窟」を書いていたときにも、あたまのなかで「おとなの怒った声が叫ぶ」そんなフレーズが何度もわき上がってきた。何の詩だったかとっさには思い出せず、もどかしい思い出しばらく考え込んだ。からだをすこしよじった時にはっと記憶が甦った……「石鹸の泡」Soapsudsだ。
子供のころ訪れた(たぶん)親戚の別荘の思い出を語りながら、すぎてしまって取り戻せない人生への哀惜の情を吐露する詩だ。久しぶりに訪れた別荘の風呂場の石鹸の香りから回想が始まり、風呂場の蛇口から出るお湯を受ける手は、もはや子供の手ではない、という句で終わる。
時間の残酷があぶり出される。その中でクリケットを遊ぶ場面がある。親戚の叔父さんが、Play、と号令を掛ける。だが、記憶は曖昧になり、また、人生の重々しい現実の認識が露わになり、Playという号令は、だんだん、命令に、そして、いらだちに変わって行く。
And the grass has grown head-high and an angry voice cries Play! 草はいつの間にか背の高さまで生い繁り、怒った声が響く「遊べ!」と。
もはや遊ぶこころを喪った自分を思い知る刺すような場面だ。今度の劇ではこのヒントが「おもちゃ下さい」の台詞に実った。
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