浅間日記

2009年07月05日(日) 何に作用するか分からない、苦くて気味の悪い薬

村上春樹の新しい小説。

彼の小説を読むことは、ひどく消耗することである。良くも悪くも。
そして今回のはとりわけ疲れた。そんな気がする。


村上春樹の小説を読むことは、村上春樹に支配されることである。ほとんど完全に。

あなたの気持ちはよくわかります、それはこういうことでしょうと、
心地よい理解と許容を与えられたと思った時にはもう遅い。

ハルキ風の文体が始終思考につきまとい、無意識に健康的なライフスタイルを志向し、
彼が世界の終わりと言えば、そうなのかなと思うし、
世界が始まると言えば、そうだと思う。

読者は作者に完全に従属し、主である作者が言わんとするところの解釈に始終する。聖書みたいに。



自分の人生の積み重ねにプライドをもっていたいのならば、
小説をそんな風に読んではいけないのだ。
私は村上春樹さんじゃない。村上春樹さんは私じゃない。

けれども抵抗むなしく彼の世界へ引き込まれ、ノイズをシャットアウトされ、
「1Q84」という苦い気味の悪い薬をのまされた。
何に作用するのかはそのうちわかるよ、という具合で。



「今書いている小説のテーマは恐怖だ」と、確かカフカ賞の頃に彼は言っていた。
その通り、話は深い孤独と恐怖をもたらすものだった。
けれどもそれ以上に、物語の恐ろしさを私は受け止めた。

そんなに嫌なら読まなければよいのだが、そうはいかない。
物語の登場人物がたどる運命のように、私はそれを読んでしまう。

力をもった物語というのは恐ろしい。
そして彼はその力を確信的に使っている。

2006年07月05日(水) 重機
2005年07月05日(火) 結実間近


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