だいぶ暖かくなったので、Aと朝の散歩に出る。
いつものように漫談をしながらツラツラ歩いていたら、 見知らぬ中年の女性に、仲の良い親子ですねと話しかけられる。
彼女が話すまま耳を傾けていると、次第に話は込み入ってきて、 しまいには自分の孫2人が体外受精で授かったという、 聴くほうもドキドキするような話をはじめた。
「嫁が普通に産んだ子じゃない」、とか、「金がかかるが覚悟した」、 というような口さがないことを何度も言うので、見知らぬお嫁さんが可哀想だと思ったが、 この中年女性はとにかく、そういうことをどこかの後腐れのない誰かに言いたいのだと思い、静かにうなづいていた。
そうしたらやはり、どす黒いものを吐き出した後で、 腹の底からパズルの1ピースが飛び出した。 「まあ、授かったんだからね」と。
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彼女は、先に散々、命に作為的であったことを口にしているが、 心の奥で、自分の可愛い孫がここにいるのは、 色々やった結果だとしても、どこかで天の計らいを受けている −無作為の結果−と思っているのである。 少なくとも、そう思いたいと願っている。
人の心は不思議だと思いながら、家に戻る。
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