仮初の区切りがあり、とにもかくにも疲れ切って寝坊。
布団の中で朦朧とする中、 ラジオではいつものように「楽興の時」が流れ始める。
えー今日は、ショパンの練習曲を聴いていただきます、と皆川さんが言う。 はいお願いしますと力なく答える。
連続する川の流れのようなピアノの音が、枕経のようである。 激しく情熱的なメロディだというのに、緊張した何かがほどけていく。
カチカチになった心の中にショパンがやってきて、 連続する三声でもってくまなく指圧を施している。
私は特別な集中も必要なく、フットマッサージを受けるおばさんみたいに ああ美しくて気持ちがよいなと、呆けた心をまかせるばかりである。
ちゃちなラジオで聴く音楽で気持ちが静まるとは思わなかったから驚いた。 自分の中にものすごい不調和を抱えているから、 超絶的に調和のとれたものが薬となったのかもしれぬ。
再び皆川さんが現れて、 イタリアのピアニスト、マウリツィオ・ポリーニの演奏でしたと言う。 ポリーニさんというのか。この人には大きな借りを作ってしまった感じだ。
まことに結構でしたと私は答え、布団から身体を起こす。
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