Hはちょっとした地元の講演会によばれていった。 インドの遠征登山報告なのらしい。
最近こうした機会が少しずつ増えている。 「家族の支えがあったのですね」とか言われて私もHも大層困惑する。
支えてなどいないと私は表情で返す。 支えられてなどいないとHも−少し私に遠慮しながら−表情で返す。
彼のクライマーとしての人生を評価するとすれば、
家庭で孤立するという恐ろしい状況をおそれずに 妻子の恨みがましい視線をくぐりぬけ毎週毎週山へでかけ、 さりとて壊滅的な関係崩壊に至らぬようフォローに手を抜かず、 よくぞ自分のクライミングへの情熱と力量を維持しましたねと、
こう言うべきなんである。 べき、というよりも、私は誰かに頭を下げてでも、 この点について、褒めてあげて頂きたいと思う。
そうすれば、ええこの人は本当によく頑張ったんですよと、 私も快活に答えることができるのに、と思う。
2004年11月18日(木) 孤独と自尊心
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